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Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
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第84話「乖離」

◆ シア ― 図書館


 王都の図書館は、昼間でも静かだった。

 高い天井、積み上げられた書棚、紙と埃の匂い。


 シアは一冊の本を閉じ、眉を寄せる。


「……創造、生成……」


 言葉はある。

 だが、説明はどれも曖昧だった。


 創造――形を生み出す力。

 生成――それを“定着させる”段階。


 だが、それ以上は書かれていない。


(はっきり分かってるわけじゃない……)

(ただ、創造の先にある“何か”だろうって推測だけだ)


 ミギドが口にした「生成」という言葉。

 それが、なぜ自分の力を指していたのか。


 シアは本を戻し、深く息を吐いた。


(……知られている力じゃない)

(だからこそ、欲しがられた……?)


 答えは、まだ遠かった。



◆ ユキ ― 訓練場脇


 訓練場では、魔王軍の兵士たちが汗を流していた。

 剣の音、掛け声、魔力の奔流。


 ユキは、その様子を少し離れたベンチから眺めている。


 身体は動かない。

 頭の中だけが、ぐるぐると回っていた。


(止める)

(加速する)

(流れを読む……)


 できているはずなのに、確信が持てない。


(……私の力って、本当に氷と水だけなの?)


 ミギドの言葉が、頭を離れない。


 悩まなくていい世界。

 選ばなくていい運命。


 ユキは、膝の上で拳を握りしめた。


(それでも……)


 答えは、まだ出せなかった。



◆ ダイ ― 魔王軍本部


 書類の山を前に、ダイは腕を組んでいた。


 ミサヤとしての活動履歴。

 移動経路。

 関与した事件。


「……妙だな」


 指先で紙を叩く。


 兵士たちへの分配。

 あれだけの強化を、長時間維持していた。


(分配で、自分の身体を動かしていたとしたら……)


 普通なら、どこかに無理が出る。

 筋肉、骨、魔力回路。


 だが、ミギドにはそれがない。


「……強すぎる」


 それが、一番の異常だった。


 力を分け与えながら、

 あれほど自由に動き、消耗の影すら見せない。


(あいつの力の“出どころ”は、どこだ……?)


 分配だけじゃない。

 何か、根本が違う。


 ダイは、ゆっくりと椅子から立ち上がった。



◆ エリス ― 医療区画


「はい、深呼吸してー」


 エリスは、包帯を巻きながら笑顔を作る。


 だが、兵士たちの身体は痛々しかった。


 筋繊維は裂け、関節は限界を超えていた。


(……分配の糸)

(でも、これ……)


 本来、その身体では不可能な動き。

 限界以上に引き出された力。


「無茶、しすぎだよ……」


 エリスは、そっと呟いた。



◆ カグヤ ― 路地裏


 王都の裏道を、カグヤは歩いていた。


 人通りはある。

 だが、どこか“薄い”。


(……変だな)


 一歩踏み込んだ瞬間、

 空気が変わった。


 音が遠ざかり、視界が歪む。


 まるで、そこだけが切り取られたような感覚。


「……やはり、お前か」


 影の中から、声がした。


「君なら気づくと思ったよ」


 現れたのは、ミギドだった。


「どういうつもりだ」


「勧誘だよ」

 軽い調子で笑う。

「シア君には、振られてしまってね」


「……何を言っている」


 ミギドは肩をすくめた。


「僕は、蝶による“運命の選択権”を与えたいのさ」

「望んだ者が、望んだ力を手に入れる世界」


「馬鹿げている」


「無理もない」

 ミギドは頷く。

「力には器が必要だ。耐えられなければ壊れる」


 一歩、距離を詰める。


「だから、生成の力が必要なんだ」

「器を作り替え、力を与える」


「……それで、俺の力が?」


「統制のためさ」

「望んだ力を得た者が、世界を壊そうとしたら困る」


 沈黙。


「君の村のような悲劇は、もう起きない」


「断る」


 カグヤは即答した。


「あれは、俺の弱さが招いたものだ」


 ミギドは、残念そうに息を吐いた。


「そうか……」

「やはり、君は邪魔だな」


 踵を返し、最後に一言。


「第二研究区で待ってるよ」


 その姿は、空間に溶けた。



◆ 食堂 ― 打ち合わせ


 夜。

 全員が集まっていた。


 情報を出し終え、沈黙。


「……第二研究区」


 カグヤが、ぽつりと呟く。


 ダイが顔を上げた。


「今、なんて言った?」


「ミギドが言っていた」


 ダイは、ゆっくり頷く。


「やはり、か」


 机を指で叩く。


「ミサヤ名義での活動履歴」

「どれも、第二研究区から一日圏内だ」


「……戻りたい場所、か」


「無意識にな」


 ダイは視線を巡らせた。


「次は、そこだ」


 誰も、異を唱えなかった。


 管理される運命か。

 自由に悩む未来か。


 選択は、もう避けられないところまで来ていた。


ご一読いただきありがとうございました。

毎週金曜日に投稿しています。

今回は遅れてしまい申し訳ございません。

誤字などございましたらコメント等含めて教えていただけると幸いです。

よろしくお願い致します

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