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Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
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第83話:管理と自由

 宿の食堂は、夜更けにも関わらず灯りがついていた。


 テーブルを囲む顔ぶれは、シア、ユキ、ダイ、カグヤ、エリス。


 誰もが、口を開くタイミングを探していた。


「……まず、確認しよう」


 沈黙を破ったのはダイだった。


「今回の戦いで分かったことがある。

 ミギドは――シアの力を明確に狙っている」


 ユキの指先が、わずかに震える。


「蝶で力を渡されたのは、シアだ」

 ダイは続ける。

「カグヤも蝶の力を持っているが、標的ではない。

 狙われているのは、あくまでシアだ」


 シアは俯いたまま、何も言わない。


「……一つ、聞かせろ」


 ダイの視線が鋭くなる。


「ミギドが言っていた“生成”という言葉だ。

 なぜ、あれについて黙っていた?」


 一瞬、空気が張り詰めた。


「……黙ってた、わけじゃないです」


 シアが、ゆっくりと顔を上げる。


「正直に言うと……俺自身も、分かってなかった」


 エリスが目を丸くする。


「分かってなかった?」


「はい」

 シアは、拳を握る。

「戦闘中、あの瞬間が初めてでした。

 “創造”とは、明らかに違う感覚で……

 できてしまった、という感じで」


 ダイは眉をひそめた。


「ミギドが口にするまで、名前も知らなかったと?」


「……はい」


 その言葉に、カグヤが低く息を吐く。


「それが普通だ」


 全員の視線が集まる。


「力には名前がついているものと、ついていないものがある。

 炎や水みたいなありふれた力は体系化されてる。

 でも――」


 カグヤは、ゆっくりと言葉を選んだ。


「創造、破壊、分配……

 そういう“世界の仕組みに触れる力”は希少すぎて、

 名前も全貌も、ほとんど知られていない」


「だからこそ……」


 ダイが、腑に落ちたように呟く。


「ミギドが“生成”という名前を知っていたのは、

 欲しているからだな」


 重い沈黙。


「生成は、創造の一段階上だろうな」

 カグヤは続ける。

「作るだけじゃない。

 意味と役割を伴って、存在させる力だ」


 その言葉に、シアの胸が軋む。


「……だから、あいつは言ったんだ」


 シアは、噛みしめるように言う。


「『お前の生成は僕のものだ』って」


 エリスが小さく息を呑む。


「ミギドの目的は明確だ」

 ダイが言う。

「力を管理し、移行させ、

 運命を割り振ること」


「やりたいことをやれる運命を与える、だっけ」


 ユキが呟く。


「そのために蝶を従え、

 力を求める場所に運命を与える……」


 言葉にすれば、救いのようにも聞こえる。


「……でも」


 カグヤが、はっきりと言った。


「アイツの考えは危険だ」


 全員が、カグヤを見る。


「作った運命は、壊されちゃ困る。

 だから俺の力が邪魔なんだ」


 カグヤの灰色の髪が、灯りに揺れる。


「俺の力は、破壊じゃない。

 今は――消滅だ」


 静かな断言。


「コントロールできるようになったことで、

 力の方向性が定まった。

 壊すためじゃない。

 消すために収束した」


 ダイが、はっと息を吸う。


「……だから、ミギドは撤退した」


「そうだ」

 カグヤは頷く。

「アイツにとって、

 運命を壊しかねない力は“厄介”でしかない」


 ユキは、唇を噛みしめた。


「……でも」


 声が、震える。


「ミギドの言うこと、

 分かる部分も……あった」


 その言葉を最後に、ユキは立ち上がった。


「ごめん」


 それだけ言って、食堂を飛び出していく。


 誰も、追えなかった。


「……今日は、ここまでだ」


 ダイが、重く言う。


「ミギド――いや、ミサヤという名での活動も含め、調べておく。

 話がまとまり次第、また集まろう」


 それぞれが、無言で頷いた。


     ◇




 ユキは部屋に戻ると、扉を閉め、背中で鍵を確かめた。

 そのままベッドに倒れ込み、うつ伏せになって枕に顔を埋める。


(なんで……こんな)


 悔しい。

 怖い。

 そして、自分が嫌だった。


(分かってしまう)


 悩む。

 迷う。

 苦しい。


 でも、悩まない世界があると言われたら——


(……一瞬、いいなって思った)


 枕を強く掴み、ユキは息を殺した。


 ——コンコン。


 ノックの音がした。


「……ユキ」


 聞き慣れた声。


 ユキは動けずにいたが、もう一度ノックが響く。


「入るよ」


「……待って」


 声が掠れた。

 それでもユキは起き上がり、目元を乱暴に拭ってから扉を開ける。


 そこにいたのは、シアだった。


 シアは何も言わず、少しだけ目を細める。

 泣いていたことを責めない目だ。


「……ごめん」


 ユキが先に言った。

 シアは首を振る。


「謝らなくていい」


 シアは部屋の中には入らず、廊下に立ったまま続ける。


「ミギドの気持ち……分かる部分があるの、俺も同じだ」

 ユキの目が揺れる。

「俺だって、力が欲しかった。守りたくて、でも届かなくて……そこで、たまたま蝶に選ばれた」


 シアは、握った手をほどく。

 何も持っていない掌を見せるように。


「でも、あいつのやり方は違う」

 言葉が強くなる。

「人を傷つけて、選んで、縛って……それで“救い”だって言うのは、間違ってる」


 ユキは俯いた。


「……でも、悩まなくていい世界なら……」


「いいことかもしれない」

 シアはそれを否定しなかった。

「争いは減るかもしれないし、苦しむ人も減るかもしれない」


 そこで一拍、間を置く。


「でも俺は——ユキと一緒に悩みたい」

 ユキの呼吸が止まる。

「迷って、考えて、間違えて……それでも選んで、前に進む強さが欲しい」


 シアは、静かに言う。


「今悩んでるのは、悪いことじゃない」

「成長するために必要なんだと思う」

「ミギドは、それを“必要ないもの”にしたいんだろうけど……」


 シアは小さく息を吐き、背筋を伸ばした。


「俺は、嫌だ」


 それだけ言うと、シアは踵を返す。


「……シア」


 ユキが呼ぶと、シアは振り返らずに手を上げた。


「明日、また話そう」

「一人にしないから」


 扉が閉まり、ユキはしばらくその場に立ち尽くした。


 胸の奥が、痛いほど熱い。


(置いていかれたくない)

(でも、追いつくために何をすればいいのか分からない)


 ユキはゆっくりとベッドに戻り、今度は仰向けになった。


 天井がぼやけて見える。


 悩みを捨てる世界。

 悩みながら進む世界。


 どちらが正しいのか、まだ分からない。


 でも——


 シアの「一緒に悩みたい」という言葉だけが、やけに確かなものとして胸に残っていた。

毎週金曜日に確実に投稿いたしますので今後もよろしくお願いします。

早く書き上がった場合金曜日とプラスアルファで投稿いたします。


今回は早めに書き上がったので投稿してます!


ご一読いただきありがとうございました。

誤字などございましたらコメント等含めて教えていただけると幸いです。

よろしくお願い致します


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