第82話 生成
剣を、強く握り直す。
倒すためじゃない。
奪うためでもない。
——止めるために。
シアは唇を噛みしめ、ミギドを見据えた。
怒りも、恐怖も、焦りも。
すべてが胸の奥で渦を巻いている。
それでも、目だけは逸らさなかった。
ミギドは、その姿を見て、ほんのわずかに目を細めた。
「……なるほど」
感心したように、静かに呟く。
「だから君は、面倒なんだ」
次の瞬間。
ミギドが踏み込む。
視界が歪むほどの速度。
だが、今のシアは——ついていけた。
「——っ!」
石床を蹴り、剣を振る。
ミギドはそれを受け流すが、後退する。
ほんの一歩。
それだけで、シアの胸がざわついた。
(……効いてる?)
違う。
効いているのは、剣じゃない。
力の質だ。
シアの足元に、いつの間にか魔法陣が展開されていた。
描いた覚えはない。
詠唱もしていない。
——勝手に、そこにある。
魔法陣から、剣が“生まれる”。
創造とは違う。
形を考えていない。
素材も選んでいない。
必要だから、そこに在る。
ただそれだけ。
「……生成、か」
ミギドが、楽しそうに笑った。
「いいね。
君、やっぱり面白い」
その笑みは、歓喜に近かった。
シアとユキの魔力が、確実に増している。
重なり合い、流れが太くなっている。
それを、肌で感じ取っている。
ユキが、苦しそうに息を吐きながら、立ち上がる。
瞳は揺れていた。
だが、逃げてはいない。
「……止めるだけじゃ、足りない」
小さく呟き、魔力を切り替える。
停止ではない。
稼働。加速。
シアの背中を、風が押した。
「——っ!」
シアの動きが、一段階跳ね上がる。
一瞬、互角。
剣と掌が交錯し、火花が散る。
だが。
「惜しいなぁ」
ミギドが、楽しそうに言った。
「君たち、噛み合ってきてる。
でも——まだだ」
片手が、ゆっくりと懐に伸びる。
魔力銃。
引き金が引かれる。
——ズドン。
教会に、重い発砲音が響いた。
同時に、ミギドの視線が、わずかに横へ逸れる。
「……これなら、君はどうするかなぁ?」
間。
ほんの、一拍。
——魔力弾が、放たれた。
狙いは、シア。
一直線に、迫る。
「——シア!」
ユキが叫ぶ。
だが、間に合わない。
次の瞬間。
魔力弾が、消えた。
爆ぜるはずの衝撃。
吹き飛ぶはずの空気。
それらすべてが、途中で“無かったこと”になる。
「……あ?」
ミギドが、初めて言葉を詰まらせた。
教会の扉が、音を立てて開く。
「——遅れたな」
低い声。
次の瞬間、ミギドの背後に回り込んだ影が、腕を振る。
消滅。
存在していたはずの魔力が、跡形もなく消える。
「……やっぱり来たか」
ミギドは舌打ちし、距離を取る。
視線の先には、灰色の髪の青年。
「カグヤ……」
厄介そうに、名を呼ぶ。
「君は本当に、僕の計画と相性が悪い」
ミギドは、魔力銃を空に向け、連続で引き金を引いた。
散弾のようにばら撒かれる魔力。
視界が白く弾ける。
「今日はここまでにしておくよ」
霧のような魔力の中、声だけが残る。
「君の“生成”は、確かに僕のものだ」
そして、静かに。
「……でも、邪魔が多い」
気配が、消えた。
教会に残ったのは、荒い息と、崩れ落ちるシアの膝。
剣が、床に転がる。
ユキが、震える目でそれを見つめていた。
カグヤは、黙って二人を見下ろす。
「……無茶しすぎだ」
それだけ言って、肩をすくめた。
戦いは終わった。
だが。
何かが、確実に始まってしまったことだけは、誰の目にも明らかだった。
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