第81話 選択
石床を蹴り、ユキが剣を構えて飛び込んだ。
「——っ!」
迷いはなかった。
考えるより先に、身体が動いていた。
ミギドはそれを見て、ほんの一瞬、目を伏せた。
「……ダメじゃないか」
どこか悲しそうな声音だった。
次の瞬間。
鈍い衝撃が空気を裂き、ユキの身体が宙を舞う。
「——っ!」
蹴り飛ばされたユキは、柱に叩きつけられ、床に転がった。
「君の力は、近接向きじゃないだろ?」
ミギドは静かに言う。
まるで、昔から分かっていた事実を諭すように。
「無理をする必要はない。
君は——止める側だ」
「ユキ!」
シアが叫び、駆け寄ろうとする。
だが、ミギドは一歩も動かず、ただ視線を落とした。
「……君たちは、運命を理解していない」
その声に、怒りはない。
あるのは、深い失望だけだった。
「君たちの力は、そんな
そんな“足掻き”のためにあるものじゃないんだよ」
ダイは歯を食いしばる。
(運命……?
力……?
こいつは、一体何を——)
「お前のやっていることは!」
シアが声を張り上げる。
「——あの村の連中と変わらないだろ!
自分の目的のために、他人を傷つける!
そんなことが、許されるはずないだろ!」
ミギドは、ゆっくりと首を振った。
「わかっていないね」
その姿が、ふっと掻き消える。
次の瞬間。
シアの目の前に、ミギドがいた。
距離、ゼロ。
微笑みを浮かべたまま、静かに告げる。
「思い通りに動かないから、
君たちの力を回収したいわけじゃないんだよ」
そして。
「——君たちの力は、初めから僕のためのものなんだ」
衝撃。
視界が揺れ、呼吸が詰まる。
気がついたとき、シアは数メートル先の壁に叩きつけられていた。
視界の端には、床に倒れるユキの姿。
「……っ」
歯を食いしばり、シアは立ち上がる。
その前で、ミギドはユキの腕を掴み、軽々と持ち上げた。
「ほら、頑張って?」
柔らかな声。
「まだ立ち上がれるでしょ。
君の力を見せてくれよ」
訓練場で聞いたことのある口調。
「いつもの訓練の時みたいにさ」
「——やめろ!!」
シアの怒号と共に、魔法陣が展開される。
光が収束し、剣の形を成す。
シアは剣を握り、地を蹴った。
「うおおおっ!!」
——ズドン。
鈍く、重い音が響いた。
ミギドの片手には、魔力銃が握られている。
そして。
シアの視界を遮るように、一人の影が飛び出した。
「——ダイさん!?」
衝撃音と同時に、ダイの身体が前に倒れる。
シアを庇い、撃たれたのだ。
「……っ」
腹部を押さえながら、ダイは苦しそうに息を吐く。
「……バカ野郎」
それでも、視線はシアから逸らさなかった。
「あいつを倒すな」
血の滲む声で、はっきりと言う。
「止めろ」
一拍、呼吸を整え。
「あいつの“やり方”をだ」
震える手で、床を支えながら。
「お前なら、できるはずだ」
致命傷ではない。
だが、もう戦える状態ではなかった。
シアは唇を噛みしめ、ミギドを見据える。
剣を、強く握り直す。
倒すためじゃない。
奪うためでもない。
——止めるために。
ミギドは、その姿を見て、ほんのわずかに目を細めた。
「……なるほど」
感心したように、呟く。
「だから君は、面倒なんだ」
教会の中に、再び緊張が満ちる。
戦いは、ここからだった。
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