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Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
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第79話 知らないという言葉



 神父の住まいは、王都の外れにあった。


 かつて教会があった場所から少し離れた、古い石造りの家。

 派手さはないが、壁も庭もきちんと手入れされている。


「……ここです」


 案内役の兵士――ギルが足を止めた。


 ダイ、シア、ユキの三人は短く頷き、家の前に立つ。


 ギルが扉を叩くと、少し間を置いて中から足音が聞こえた。


「はいはい……どなたかな」


 扉を開けたのは、白髪の老いた神父だった。

 年はかなりいっているが、背筋は伸び、声にも濁りはない。


「……ああ、ギルじゃないか」


「お久しぶりです、神父様」


 その一言だけで、二人が長い付き合いであることは分かった。


 簡単な挨拶を交わしたあと、ダイが一歩前に出る。


「お時間をいただき、感謝します。

 少し、お話を伺いたい」


「構わないよ。中へどうぞ」



 応接室は質素だった。

 古い椅子と机、壁には色褪せた宗教画が一枚。


 神父は穏やかな表情で三人を見渡す。


「……ミギドという名前の子供について、ご存じありませんか」


 ダイの問いは、回りくどさのないものだった。


 神父は一瞬、目を閉じる。

 記憶を辿るような仕草――だが、すぐに首を横に振った。


「残念だが……“彼”のことは分からなくてね」


 声は丁寧で、淀みがない。


「その名前の子供は、預かったことがない」


 はっきりとした否定だった。


 ユキは思わずシアを見る。

 シアもまた、神父の表情から目を離せずにいた。


「……では」


 ダイは続ける。


「ガバゼという男については?」


 神父の顔が、わずかに和らぐ。


「ああ……ガバゼさんか。

 半年前までは、ちょくちょく顔を出していたよ」


 空気が、静かに張り詰めた。


「どんな様子でした?」


「昼頃に来て、少し話をして……

 夕方頃に、もう一度来ることもあった」


 神父は淡々と語る。


「その時は決まって、『今日はありがとうございました』と、丁寧にね」


 シアの胸の奥が、わずかにざわついた。


「……誰かと一緒に来ていたことは?」


 慎重に、シアが尋ねる。


 神父は少し首を傾げる。


「いや……誰かを連れてきた記憶はないな」


 短い沈黙が落ちる。


「……ガバゼさんは、元気ですか?」


 神父の問いに、ギル、シア、ユキは一瞬言葉を失った。


 ダイが、静かに答える。


「……亡くなりました」


 神父は目を伏せた。


「……そうか。惜しい人を亡くした」


 それ以上、踏み込むことはなかった。



 宿に戻ったあと、四人は同じ卓を囲んでいた。


 しばらく、誰も口を開かない。


「……整理しよう」


 ダイが低く言う。


「ミギドは、教会に預けられていなかった可能性が高い」


「少なくとも……神父様は把握していませんでした」


 ユキが言葉を継ぐ。


「孤児が複数いたなら、把握していなかった可能性も……」


 シアの言葉に、ダイは首を振った。


「半年ほどで閉鎖される教会に、そこまでの人数は考えにくい」


 そこで、ギルが口を開いた。


「そもそも、孤児の受け入れ人数は定められています」


 三人の視線が集まる。


「上限を超えた場合は、孤児院が増設される。

 逆に、解体されるということは……」


「全員が独り立ちしたか、他で受け入れられる余裕があったか、だな」


 ダイが補足する。


 そして、続けた。


「王都で家庭を築こうとする魔族は、そもそも多くない」


 現実的な説明だった。


「商業中心の都市だ。

 生活はシビアで、家庭を持つ余裕のある者は限られる」


「政治上層部、魔王軍幹部、貴族……

 王都で家族を持てるのは、その辺りがほとんどだ」


 つまり。


「孤児が大量に出る環境じゃない」


 ダイは、強く拳を握った。


「……ガバゼの日記も含め、見えていなかったものが多すぎる」


 声に苛立ちが滲む。


「これは、異常だ」


 ユキが顔を上げる。


「でも……ガバゼが教会に通っていたのは事実です」


 三人がユキを見る。


「なら、その時……

 ミギドと一緒に外出していた可能性は高いと思います」


 迷いのない言葉だった。


「教会の周辺のお店。

 そこなら、誰かが見ているかもしれません」


 理屈は通っている。


 シアは胸の奥に、小さな違和感を覚えた。


(……何かが、引っかかる)


 だが、ユキの言葉も、

 ダイとギルの説明も、矛盾はない。


 考えても、その正体は掴めなかった。


「……そうだな」


 ダイが頷く。


「明日、教会の周辺で聞き込みをしよう」


 シアも、ゆっくりと頷く。


「……賛成です」


 違和感の正体は、まだ見えない。


 けれど。


(……知らなきゃいけない)


 シアは、そう強く思っていた。


 それが、どんな結果につながるとしても。

ご一読いただきありがとうございました。

誤字などございましたらコメント等含めて教えていただけると幸いです。

よろしくお願い致します

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