第8話:旅立ちの決意
──夕暮れ。
山の広場にはまだ魔力の余韻が漂っていた。
「……やっと、起きたわね」
重い瞼を開けると、目の前にカインの顔があった。
その隣には、心配そうに覗き込むユキと、腕を組んだまま拗ねた表情のエリス。
「……僕、また……暴走、したのか」
「ええ、でも今度は自分で抑え込んだわ。ほんの少しだけ……誇っていいわよ」
カインが口元を歪める。その目は、確かに少しだけ優しかった。
シアはゆっくりと身体を起こし、拳を握る。
「僕……旅に出るよ。父さんと母さんに会う。そして、僕の力と、この中にいる“何か”のことを、ちゃんと向き合いたい」
カインは静かに頷いた。
「それなら……私からもう教えることはないわ。あなたたち、三人で行きなさい。ユキ、エリス、シア──これがあなたたちの旅の始まりよ」
「ようやく、だね」
ユキが小さく笑う。
「ふふん、あたしがいればどんな敵だって吹っ飛ばしてあげるんだから!」
エリスは張り切った様子で荷物を抱えた。
「……ありがとな、カイン。きっと、また会いにくる」
「来るなら、もう少し成長した姿で来なさいな。……あ、それとひとつだけ忠告」
シアが振り返る。
「あなたの中にいる“それ”、完全に沈んだわけじゃないわ。あれは、ユキに“似たもの”だけど……本当は、もっと別の何か」
シアはわずかに眉をひそめ、うなずいた。
そして翌朝。
カインの家の前、三人はそれぞれの荷を背負い、並び立っていた。
「じゃあ、行こうか」
シアが一歩、道を踏み出す。
その背に、ユキとエリスも続いた。
魔界へ。
真実へ。
そして──この世界を変えるために。
三人の旅が、いま始まった。
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