第6話:魔獣の谷、共闘の証
「ちょっと! そっちに飛ぶって言ったじゃない!」
「言ったけど、そっちに“撃つ”とは言ってないでしょ!?」
修行開始から三日目。
ユキとエリスは、訓練場の端で、早くも火花を散らしていた。
「なによ、やたら自信満々で先輩ぶって。そんなに上手なら一人でやれば?」
「ふーん? そっちこそ、ちょっと魔法ができるからって調子に乗ってない?」
互いにぴりぴりとした空気の中、魔法陣が暴発する。
「ちょ──危ない!」
次の瞬間、爆ぜる風圧に巻き込まれ、二人の身体は崖の縁を越えて転がり落ちていった──
「……イッタ……」
茂みに落ちたユキが体を起こす。周囲を見渡しても、そこは地形すら見覚えのない谷底。
「ユキ! 無事!?」
少し離れた場所で、埃を被ったエリスが走ってくる。
「……大丈夫。たぶん」
「よかった……はぐれたかと思ったよ」
ほんの一瞬、二人の間に安堵の笑みが浮かぶ。
だがそれも束の間、地の底から唸るような鳴き声が響いた。
「ッ……!」
現れたのは、四足の魔獣。
全身に黒い鱗をまとい、赤く光る眼。
低く唸り、二人に狙いを定めていた。
「魔獣……!?」
「ヤバ……ユキ、戦える!?」
「やるしかない!」
エリスが風の魔法で前線を張り、ユキが氷魔法で足止めを狙う。
しかし──息が合わない。
「前に出すぎ!」
「だったら後ろから援護してよ!」
タイミングがずれる。魔法の軌道が交差し、威力が半減。
魔獣の爪が風を裂き、ユキの肩を掠める。
「ッ……!」
「ユキッ!」
焦りが走る。だが、その時、ユキが叫んだ。
「エリス、前に出て! 私が援護する!」
「──了解!」
一瞬、目が合った。
互いの動きが重なった。
エリスが風の刃を巻き起こし魔獣の視界を塞ぐ。
その隙にユキの氷槍が正確に魔獣の関節を貫いた。
「今!」
「いっけぇええええっ!!」
エリスの風魔法が集中し、魔獣が吹き飛ぶ。
数秒の静寂の後、地響きとともに魔獣が崩れ落ちた。
二人はしばし、息を整えるようにその場に座り込む。
「……あんた、ちゃんと戦えるんじゃない」
「そっちこそ。少しは認めてあげる」
火照った体に風が吹き抜け、少しだけ緊張が解ける。
そのとき、上から声が降ってきた。
「やっと仲良くなった? おバカちゃんたち」
カインが枝の上に立っていた。
「カ、カイン様!?」
「さ、戻るわよ。そろそろ“本番”が来る頃よ」
その夜、焚き火のそばで。
ユキが、ぽつりと呟く。
「……さっきは、ありがと」
エリスも、気まずそうに頭を掻く。
「こっちこそ。……まあ、嫌いじゃないよ、あんたみたいなの」
ギクシャクはしている。
でも、確かな一歩。
明日からの修行に、微かに希望が灯った瞬間だった。
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