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Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
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第52話 残された記録、乱れた筆跡



 ガバゼの部屋は、驚くほど整然としていた。


 壁にかけられた地図。

 規則正しく並んだ任務報告の束。

 鍛えられた者らしい几帳面さ――本来なら、そういう印象で終わるはずだった。


 だが、室内に足を踏み入れた瞬間、全員が気づいた。


「……なんか、変じゃない?」


 ユキが小声でつぶやく。


 カグヤは壁の一角に近づき、貼り付けられた紙に目を細めた。


「この地図……同じ場所に、丸印が三つ重ねて描かれてる」


 確かに、同じ地点に赤丸が重複して描かれていた。

 しかも筆圧が強く、紙が少し破れかけている。


 ダイも眉をしかめる。


「ガバゼの字じゃねぇな。あいつ、もっと丁寧なはずだ」


 エリスは机の上の書類に目を通し、首を傾げる。


「えぇと……これ、同じ報告書が三枚……。でも、全部書き方が微妙に違う?」


 シアも横からのぞき込む。


 一枚は几帳面で正確。

 二枚目は焦ったように文字が歪んでいる。

 三枚目は文が途中で終わり、インクがページに滲んでいた。


 そこに書かれていた内容は、ごく一般的な業務報告――のはずだった。


 だが、ところどころに異様な点が混じる。


「“魔獣の移動、不可解。再調査。”」

「“人間の動き、再検証。”」

「“至急――”」


 その“至急”の横のペン跡は、書きかけのまま止まっていた。


 ダイは深く息を吐く。


「……おかしい。ガバゼはメモを残すタイプじゃねぇ。必要なことは全部頭の中で整理する奴だ」


「じゃあ……これ、なんなの?」


 ユキの問いに、ダイはわずかに顔を険しくした。


「……焦ってた。相当な」


 丁度その時、コンコンと部屋の戸が叩かれた。


「ダイ隊長! 失礼します!」


 兵士が駆け込んでくる。


「町から急ぎの使者が。今回の件の報告を明日までに出すようにとのことです! また、ガバゼ隊長の行動記録と任務内容についても、詳細な調査を求められています!」


「行動記録……ね。で、お前は何か知ってることは?」


「はっ!」


 兵士はどこか言いにくそうに口を開いた。


「ガバゼ隊長は……ここ最近、様子が違っていたと複数の者が……」


 シアたちは息をのみ、兵士の言葉に耳を傾けた。


「夜中によく一人で外へ出て行かれたり……任務の指示が重複して出されることが増え……

 部下の顔を覚え違える、ということも……」


「覚え違える……?」


 カグヤがわずかに眉を寄せる。


 兵士はさらに続けた。


「偵察任務の範囲も広がっており……誰に命令されたのかを尋ねると、

 “本部からだ” とだけ言われておりましたが……確認したところ、本部はそのような命令を出しておらず……」


 空気が凍る。


 ダイは大きく舌打ちした。


「……じゃあ、ガバゼは“誰の”命令で動いていた?」


「それが……不明です。隊長の日記や資料があればと探したのですが……

 隊長の書類は一部、王都に送ったという話だけが……」


 その瞬間、全員の視線が机の上の乱れた報告書へ向く。


 ――これは、“変わってしまっていた”証拠だ。


 シアが拳を握りしめる。


「……ガバゼさん、無理してたんだ」


 ユキも静かにうなずく。


「こんなに、いっぱい……ひとりで抱えて……」


 エリスは胸に手を当て、小さく呟いた。


「……気づいてあげられなかったね……」


 ダイは彼らの言葉を聞き、まっすぐ前を向いた。


「今は落ち込んでいる暇はねぇ。

 町に行って全部報告する。

 そして――ガバゼの本当の任務と、誰があいつを使ったのか……必ず突き止める」


 シアたちは強くうなずいた。


「準備を整えろ。明朝、出発するぞ」


 その声は静かで、芯があり――

 ガバゼの無念を背負う覚悟に満ちていた。


ご一読いただきありがとうございました。

誤字などございましたらコメント等含めて教えていただけると幸いです。

よろしくお願い致します

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