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Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
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第51話 消えた影と、報告への道



 


 薄暗い天井がゆっくりと視界に入ってくる。

 重い眠りの底から、誰かに名前を呼ばれている気がした。


「……シア……シア!」


「……ん……?」


 かすれた声を返すと、ぱっと視界が明るくなる。


「シア! やっと目が覚めた!」


 エリスが涙ぐんだ目で覗き込み、思い切り抱きしめてきた。


「エ、エリス……? ここ……は?」


「魔王軍の駐屯地。……ここ、一週間ずっと寝てたのよ!」


「一週間……?」


 白い乾いた喉で呟くと、隣に座っていたユキが安堵の息をつく。


「シア、一時はどうなるかと思ったんだよ……。ほんとに……よかった……」


 ユキの声は震えていた。どうやら相当心配をかけてしまったらしい。


 シアはすぐにあの人物を探す。


「カグヤは……?」


 ユキが表情を僅かに曇らせた。


「目は覚めてる。でも……傷が一番深くて、まだ動けないの。今は別室でずっと寝てるよ」


「そうか……よかった。生きてるだけで……」


 胸がじんわり熱くなる。

 ガバゼの暴走のとき、一番深く巻き込まれたのはカグヤだった。


「シアはまだ起きたばかりなんだから、まずは水ね!」


 エリスが慌てて水を差し出すと、シアはゆっくりと喉を湿らせた。


 


 ***


 


 数時間後、シアは上半身だけ起こせる程度に回復していた。

 ユキは看病のためにカグヤの側を離れず、シアとエリスが駐屯地内の買い出しに出ることになった。


「じゃ、シア〜。私についてきて! 必要なものリストは全部覚えてるから!」


「その覚えてるって言うのが逆に不安なんだけど……」


「ひどくない!?」


 そんな軽いやり取りをしながら村の市場に入ると、店主らしき男がこちらを見るなり声をかけてきた。


「おう、あんちゃん。あんたがこの前来た人間の子か?」


「え、はい。なんで……?」


 店主は苦い表情で、後ろ頭をかいた。


「ガバゼさんのことだよ。村の衆から聞いた。……あれは、本当に気の毒なことにな」


 シアは自然と姿勢を正した。


「ガバゼさん……村の人たちから、慕われていたんですね」


「ああ。見た目はゴツくて怖ぇがな、人情味のある奴だったよ。

 困った家族にこっそり食料を届けたり……子供の頃から知ってるが、悪い奴じゃなかった」


 シアの胸に、あの暴走直前のガバゼの狂気がよぎる。


(あれは……あの人本来の姿じゃない)


 店主は続けた。


「ただ……最近は様子がおかしかった。妙に苛立っててな。

 任務がやたら増えてるのに、理由がどれも曖昧で……無茶をさせられてたんじゃねぇかって噂もあった」


 胸の奥にひどく嫌な予感が広がる。


(……誰かが、ガバゼさんを……?)


 だが、今はまだ答えを持たない。


 


 ***


 


 夕方。

 駐屯地の食堂に、シア、ユキ、エリス、カグヤ、ダイ、そしてミサヤが揃った。

 カグヤはまだ歩けず、車椅子のような椅子に座っている。動くたびに痛みが走るのか、ときおり小さく息を呑んでいた。


「店主さんから、こういう話を聞いたんだ」


 シアが語ると、カグヤは弱い声で頷いた。


「……ガバゼさん……そんなふうに……。気づけなかった……」


 ユキがそっと肩を支えた。


「カグヤ、しゃべるのも辛いでしょ。無理しないで」


「……ううん。知っておきたかっただけ」


 カグヤは痛みに耐えながらも、まっすぐシアたちの話を聞いていた。


 そんなとき――


「ダイ隊長!!」


 食堂の扉が勢いよく開き、兵士が駆け込んできた。


「町本部からの伝令です!

 ガバゼ隊長戦死の報告、および……ダイ殿を新たな“隊長”として任命するとのこと!」


 ダイが目を見開く。


「……俺が、隊長……?」


「さらに、事件の調査を含め、町へ報告のため全員連れてくるようにとの命令です!」


 緊張が走る。

 その兵士は続けて、気になっていた点を口にした。


「それと……ガバゼ隊長の最近の行動についてですが――

 ここ数ヶ月、妙に多い偵察任務や、村周辺の散策。

 部下からの報告では、無茶な指示や苛立ちが増えていたとのことです」


 シアの背筋に冷たいものが走る。


(……やっぱり……何かがおかしい)


 ダイは大きく息をついた。


「……わかった。

 まずは、ガバゼの部屋を調べる。何か残っているはずだ」


 カグヤが痛みに耐えながらも声をあげる。


「……お願いします。

 ガバゼさんが……何を背負っていたのか……知る必要が……ある」


 ユキが慌てて肩を押さえる。


「だから無理しすぎだってば!」


 しかしその瞳は、苦しみながらも強い意志を宿していた。


 シアも立ち上がる。


「……行こう。

 ガバゼさんが何を抱えていたのか、確かめないと」


 ダイが頷く。


「よし。全員、準備でき次第――隊長室へ向かうぞ」


 夜の静かな駐屯地へ。

 彼らは、真相へと続く暗い扉を開こうとしていた。

ご一読いただきありがとうございました。

誤字などございましたらコメント等含めて教えていただけると幸いです。

よろしくお願い致します

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