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Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
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第49話 崩れゆく均衡



 森を揺らしていた魔物の咆哮は、つい先ほどようやく途切れたばかりだった。

 息を切らしながらも武器を構え続ける魔族の兵たちの中央で、ガバゼとダイが対峙している。


 ガバゼの右腕は黒い魔力を帯び、その周囲の空気が歪むほどだ。


「……やっと本性を出したな、ガバゼ」


 ダイが大斧を構え、低く睨みつける。


「黙れ。穏健派の分際で、まだ“人間”の味方をするか……!」


 ガバゼの声は唸るように低く、怒りの熱が込められていた。


 次の瞬間、「ガッ」と大地を踏み砕く音が響く。

 ガバゼの拳が地面ごと爆ぜるような衝撃波となり、ダイに迫る。


 ダイは辛うじて斧を盾代わりにし、吹き飛ばされずに踏みとどまった。


「くっ……! 重てぇなコラ……!」


 それでも押し返す力はない。

 ダイの腕は震え、膝は悲鳴を上げる。


 ――このままじゃ、ダイさんが……!


「やめろッ!」


 叫びながら、シアが横から飛び込んだ。

 魔法陣が六つ展開され、瞬く間に銀の盾が彼の腕に収束する。


 シアはそのままダイの前へ踏み出す。


「人間ごときが……!」


 ガバゼの拳がまた振るわれた。

 大気が悲鳴をあげるほどの威力――シアの盾が火花を散らし、きしむ。


 ――重い……!

 だけど、まだ……まだ押せる……!


「シア、下がれ!」

「大丈夫です、ダイさん!」

 二人は息を合わせるように前進し、ガバゼを押し返した。


 ダイの目が感嘆で見開かれた。


「シア、お前……やるじゃねぇか!」

「まだまだです……!」


 一瞬だけ均衡が揺れた。

 だが――それだけだった。


「……面白い。ならば見せてやろう、“力”というものを」


 ガバゼの魔力が一気に膨張した。

 黒い靄が身体中から吹き出し、筋肉が膨れ上がり、骨が軋み音を立てる。


 地面の草木が枯れ、空気が腐る。


 まるで――魔物がそこに生まれ落ちたかのような異常変化。


「まずい……!」

 ユキが足を震わせながら呟く。


 エリスは木に寄りかかったまま、もう魔法を撃てる気配がない。


「ガバゼ……完全に我を失ってやがる……!」

 ダイが歯を食いしばる。

 対するガバゼは、人間も魔族も関係なく“敵”を見る狂気の瞳で笑った。


「全部壊す……全部だ……!」


 叫びと共に地面が爆発した。


 黒い影の触手のような魔力が四方八方に伸び、兵たちを払い飛ばす。


「ぐああッ!!」

「ひっ、ひい……!」


 倒れていく魔族兵たち。


 シアは盾を構え、ダイの盾となって立ちふさがる。


(止めなきゃ……! でも……!)


 体が震える。

 今のガバゼは、先ほどまでの“強い魔族”ではない。

 明確に――“災害”だ。


「くくく……いい顔だ。もっと絶望しろ、人間」


 ガバゼがさらに魔力を膨張させようとしたその瞬間。


 森の奥、濃い影の下――

 ローブの男が、ただ一人、静かに腕を組みながら見ていた。


「ようやく起きたか……ガバゼ。あとは勝手に暴れてくれればいい」


 男の口元が、不気味に吊り上がる。


 その気配に気づいた者は、誰一人いなかった。

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