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Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
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第48話 「暴かれる本性」



 魔物の咆哮が森を震わせた。

 四人は息を切らしながらも、なお構えを崩さない。


 見た目は獣のようだが、どこか“形の崩れた異形”――。

 魔獣とは違う、空気を纏うだけで吐き気を催すほどの瘴気。


「まだだ……こいつ、まだ動ける……!」

 シアの低い声に、ユキが頷く。


 魔物は、さらに大きく口を裂いた。

 地を這うような低音が響くたび、木々が震えているのが分かる。


 ユキの氷槍が貫く。

 エリスの光弾が弾ける。

 カグヤの黒い影を帯びた衝撃波が叩きつけられる。


 ――それでも。


(固い……っ!)


 攻撃するたび腕がしびれる。

 決して軽くはないはずの四人の一撃を受けても、魔物の動きは鈍らない。


 それは、簡単な勝利ではないという証。


 だが、追い詰められていたのは――魔物の方だった。


 シアの放った創造盾の連打と、ユキの足止め、エリスの牽制、カグヤの破壊力。

 四人が呼吸を合わせ、ついに隙が生まれる。


「――これでッ!」


 カグヤの黒い影がうねり、巨大な鎌が魔物を裂いた。

 魔物は崩れ落ち、静寂が戻る。


 その瞬間だった。


「ク、クク……ハハハハハッ!」


 森に響く不気味な高笑い。

 四人が振り向くと、ガバゼが肩を震わせて笑っていた。


「やはりだ……やはり“人間”の力――あの方が言った通り……素晴らしい……!」


 シアの背筋に嫌な汗が流れる。


「ガバゼ……さん?」

 問いかけた瞬間――。


 ガバゼはシアに向かって手をかざし、魔法陣を展開した。


「我が村を乱す者……いや、“人間”よ。ここで消えてもらう!」


「――っ!!」


 轟音とともに魔力の奔流がシアへと迫る。


 時間が一瞬“遅れたように”感じた。

 ユキの世界が一瞬、淡く揺れる。


(……え?)


 本当に止まっていたのか、ただの錯覚か。

 ただ、ユキは違和感を覚えたまま動けなかった。


 ――だが。


「間に合えッ!!」


 シアの叫びと共に、創造の盾が顕現し、魔力の奔流を真正面から受け止める。


 衝撃が森を揺らした。

 盾は砕け散ったが、シアはかろうじて踏みとどまった。


 粉塵の中、ガバゼは目を見開き、やがて狂気じみた笑みを浮かべた。


「本当に……本当に素晴らしいな、人間ッ!!」


 両手を広げ、天に向かって叫ぶ。


「“あの方”の言葉は真実だった……! もっとだ……もっと見せろ……!!」


「させない!!」


 叫んだのはカグヤだった。

 黒い影を纏った鎌が閃き、ガバゼへ一直線に突っ込む。


「ほう?」


 ガバゼは余裕の笑みで一歩横へ流れる。

 カグヤの鎌は空を切り、逆にガバゼの手が黒い魔法陣を形成。


「黙れ、小僧が」


「ッ――!」


 黒雷のような魔力が放たれ、カグヤを正面から撃ち抜く。

 鎌で受けたが衝撃が強すぎた。


「ぐっ……!」


 カグヤの身体は吹き飛び、大木に叩きつけられ、そのまま意識が途切れた。


「カグヤ!!」


 ユキとエリスは立ち上がろうとするが、魔力が尽きて脚が震える。


(……くそっ……動けない……!)


 そんな二人の前に、一人が歩み出た。


「――やっと本性を出したな、ガバゼ」


 ダイだった。

 その背は大きく、頼もしい。


「ダイ……貴様、まだ“人間”の味方をするつもりか!」


「当たり前だ。俺は……仲間を見捨てるタイプじゃなくてな」


 ガバゼが怒りで顔を歪め、魔法陣を構築する。


「ならば死ねッ!!」


 魔力弾が放たれる。

 しかし、ダイは自身の大剣でそれを弾き飛ばした。


「来いよ、ガバゼ。

 ――お前相手に手抜きはできねぇ」


 ついに、穏健派のダイと、過激派のガバゼが真正面からぶつかる。


 森が震え、空気が裂ける。

 凄まじい衝突の余波が、倒れたカグヤの髪を揺らした。


 そしてシアは、仲間の名を叫びながら拳を握りしめる。


「みんなを……守らなきゃ……!」


 こうして、魔界の闇が本格的に牙を剥き始めた――。



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