第5話:火花と試練
「──じゃあ、やってもらおうかしら。カイン様に“一撃”入れられるかどうか」
その声に応じて、静かな森の空気が一変した。
魔力の圧が地を這い、息をするだけでも身体が軋むような感覚に襲われる。
「僕たちがかかって、いいんだよね……?」
「ええ。遠慮はいらないわ。来なさい、“本気”でね」
軽く手を広げるカインは、どこか楽しげな笑みを浮かべていた。
だが、その足元には防御魔法の陣すらない。ただの布のローブが風に揺れているだけ。
(強い──次元が違う)
シアは感じていた。
この人は、ただの魔道士じゃない。
元・勇者パーティの一員、“本物の強者”だ。
「いくよ、ユキ!」
「……来なさいよ、変人!」
先に動いたのはユキだった。
足元に氷の魔方陣が展開され、瞬く間に大地を滑る氷刃が走る。
同時にシアが火の魔法を放つ。
火と氷、相反する属性の魔法が交錯しながら、カインへと殺到する。
だが──
「──ふふん♪」
風が舞っただけだった。
二つの魔法は、カインの周囲を掠めただけで霧散した。
「……!」
「わかる? 今のが君たちの“限界”ってことよ」
瞬間、背後から圧倒的な魔力。
振り返るより先に、地面が爆ぜ、二人の身体が吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
「きゃっ……!」
土煙の中、息を整える余裕もなく、カインが目の前にいた。
指一本をこちらへ向けているだけ。だが、それだけで身体が動かない。
「ね? 一撃も入れられなかったでしょ?」
「……まだ……!」
シアが立ち上がる。しかし足元はふらつき、魔力もすでに底を突いていた。
「おやめなさい。これ以上は身体を壊すわよ」
「……くそっ……!」
「ふぅ。じゃあ、予定通り──一人だけ選んで旅をしなさいな」
そのとき。
「ちょっと待って」
第三の声が割り込んだ。
「私も入れて、“三人”で修行するってのはどう?」
カインの背後から、金髪の少女が現れた。
鮮やかな長髪に緑の瞳。自信満々の笑みを浮かべ、シアとユキを見下ろすように立つ。
「あなた……誰?」
「エリスよ。カイン様の弟子。あなたたちよりちょっとだけ先輩♪」
「……なんであんたが」
「うわ、なんか感じ悪。初対面でそれ?」
一瞬で空気がピリつく。
エリスとユキ。
お互いに視線を逸らすことなく、火花を散らし始めた。
「……ふふ。いいわねぇ、そういうの。嫌いじゃないわ」
カインが満足げに頷く。
「三人で修行しなさい。一週間後、もう一度、私に挑みなさい。──その時こそ、覚悟を見せてもらうわよ」
その夜。
焚き火を囲む三人の間に、会話はなかった。
ただ、じりじりと火の熱と視線だけが交錯していた。
(なによ、あの女……!)
(なによ、あの子……!)
同じ想いを抱きながら、ユキとエリスは、まるで同時に鼻を鳴らした。
修正箇所とうあれば是非教えてください!
未熟ですがよろしくお願い致します!