第44話「魔界の影」
森に鳴り響く獣の咆哮と、爆ぜる魔力の音。木々の隙間を縫うように魔物たちが蠢いていた。
「くっ、数が多すぎる!」
ユキが氷の槍を放ち、前方の魔物を貫く。だが、倒れた魔物の背後からさらに二体、三体と次々に現れる。
「大規模魔法は……使えないのか」
シアが唇を噛んだ。ここは魔界。ここで下手に大規模な魔法を使えば、人間側の宣戦布告と捉えられかねない。無用な戦争の火種を撒くわけにはいかない。
「でも、きりがないぞ……!」
エリスの放つ火球が地面に爆ぜるも、焼け残った魔物が怯まず迫ってくる。
そして、ついにカグヤが呟いた。
「まずい……このままじゃ、包囲される……!」
そのときだった。轟くような咆哮と共に、森の奥から現れた一団がいた。
漆黒の鎧を纏い、刃を携えた魔族の軍勢だった。
「魔族……!」
一瞬、緊張が走る。だがその魔族たちは、魔物へと矛先を向けた。
鋭く洗練された動きで、次々と魔物をなぎ倒していく。まるで訓練された兵士のような統率――いや、それ以上の力を感じさせる迫力だった。
「援軍……?」
数分後、魔物たちは森に消え、静寂が戻る。
静かに剣を収めた魔族の一人が歩み出た。黒い鎧を纏い、短髪の黒髪に鋭い目つき。角が額から後ろへと伸びる、屈強な男。
「貴様ら……人間か?」
警戒と殺気をはらんだ声だった。
シアは一歩前に出て、はっきりと言葉を返す。
「僕たちは戦争をしに来たわけじゃない。だから、大規模な魔法も使わなかった。……話をしたいだけなんだ」
男はしばし沈黙した後、後ろに控えていた兵士に合図を送り、やがて言った。
「……目的があってのことなら、こちらで預かる。村まで来い」
その言葉に、一行は静かに頷いた。
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村に案内される途中、ガタイの良い魔族の男――名をガバゼと名乗った――は、何度も一行を振り返った。
「この村の連中は、人間にいい感情を持ってねぇ。駐屯地からは出るな」
そう念を押され、一行は魔王軍の駐屯地で休むことになった。
カグヤは部屋の片隅で、静かに外を見つめながら呟いた。
「……なんとなく、嫌な感じがする」
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一方その頃。
ガバゼは誰もいない地下の空間へと向かっていた。その最奥。石造りの部屋に一人、ローブを目深にかぶった男が立っていた。
「来たか、ガバゼ」
その声は冷たく、だがどこか狂気を孕んでいた。
ガバゼは恭しく膝をつき、言葉を返す。
「例の人間たちが村に入りました」
男はローブの下から口元だけを覗かせる。歪んだ笑みが浮かんでいた。
「ようやくだ……ようやく計画が進む!」
その笑みは、深淵のように黒く、禍々しかった。
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