第42話「刻まれる成長」
ゴルグの登場で戦場は一気に引き締まった。
だが、試験は続く。すでに布陣は整い、自然と分かれた戦況の中で、若き四人と元勇者パーティーの戦いが始まる。
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ユキが地を蹴る。すでに剣を抜き、一直線にデントへと迫る。
「お、元気いいな!」
デントは笑いながら盾を構える。ユキの斬撃を受け止め、剣で切り上げる。
ユキは素早く後退し、魔法陣を展開。デントの足元から氷柱が突き上がる。
「っと、危ねぇ……!」
跳んでかわしたデントの着地先にも、再び氷柱が現れる。
すかさずユキも再接近。互いに走り寄る中、ユキは攻撃を受け流しながらバランスを崩すふりをして後退し、周囲に氷柱を三本配置する。
デントはその中央に立っていた。
ユキの手がわずかに動き、瞬間――デントの動きがピタリと止まる。
「……止めたか!」
ユキは加速。氷を滑るようにして肉薄し、斬りかかる。
デントは遅れて反応し、辛うじて盾でガード。
距離を取るユキ。
デントは氷柱の効果に気づき、もっとも近い柱を砕いた。
「止められるのはマズいな……」
次の柱へと駆け出す。ユキも同時に駆けるが、デントが一歩先に到達し、氷柱を破壊。
その瞬間――ユキの魔法が発動。
破壊された氷の破片が連なり、地面全体を氷が覆い始める。
ユキの足が氷に乗った瞬間、滑走するように一気に加速。
「速っ……!」
デントの驚愕が遅れる。
ユキが斬りかかる。デントは盾を構えようとするが――
氷が盾に絡みつき、動きが封じられる。
「くそっ……!」
ユキの剣が、寸前でデントの喉元に止まる。
「……まいった!」
勝負あり。
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一方、ステインと向かい合うカグヤの瞳には、一点の迷いもなかった。
二人の武器が激突し、火花が散る。
(ステインさんの方が速い……だが)
カグヤは瘴気をにじませ、牽制する。
(こいつには、衝撃波・瘴気・魔法陣・鎌の間合い……全部ある。読みにくい……)
ステインも冷静に観察を続ける。
数合交えたのち、カグヤが鎌を思いきり前方に投げた。
「……武器を捨てたか?」
その疑念に構える間もなく、カグヤは手をかざし、破壊の衝撃波を放つ。ステインがかわすと、鎌と繋がった鎖が引かれ、カグヤの手元に戻る。
「しまっ……!」
勢いを乗せた鎌が戻り、ステインの剣を弾く。その瞬間、カグヤが背後にまわり、手を軽く添える。
「僕の勝ちです」
ステインは苦笑を浮かべ、剣を下ろした。
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「5個も同時展開とか、ずるですっ!」
エリスの叫びが、戦場に響く。
「ふふ、あなたもやっていいのよ? できるならね」
カインが余裕の表情で火・水・風・土・光の魔法陣を維持している。
エリスは展開速度の差に苦しみつつも、避け、相殺し、巨大な土壁の後ろに隠れる。
(発動速度は負けてる。でも、素材の流れなら……)
カインの魔法が素材を引き寄せることに気づいたエリスは、小型の魔法陣を敵の魔法陣の前に展開。
「どこからでも来いやー!」
「あら、強気ね……」
しかし魔法は発動しない。
カインが目を細めて魔法陣を見ると、自身の魔法陣の前にエリスの干渉用陣が重なっていた。
「……上手くやったわね」
カインが陣を解除しようとした瞬間、エリスが逆転発動。
土煙が舞う中、カインは防御壁を張ってしのいだ。
だが次の瞬間、カインは手を下げる。
「今回は私の負けでいいわ。よくできたわね」
「はぁ、魔力空っぽです〜……」
エリスはその場にへたり込み、笑った。
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中央の戦場。
ゴルグとシアは向かい合ったまま、まだ動かない。
静寂の中、重苦しい気配が張り詰めていた。
そして、ゴルグが一歩踏み出す。
「さあ、始めるぞ……シア坊」
試練の刃が、ついに本当の意味で交錯しようとしていた。
――続く。
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