第40話「最終試験、旅立ちの刻」
朝の光がまだ柔らかく、空気に冷たさが残る頃。訓練場にはすでに八人の影が並んでいた。
中央に立つのはデント。相変わらずの豪快な笑みを浮かべながら、腕を組んでいる。
「今日が最終試験だ。旅立ちの前に――けじめをつけてもらうぜ」
そう言って、彼は四人の若者――シア、ユキ、カグヤ、エリス――を見渡す。
「条件は簡単。最初の試験と同じだ。一撃でも入れられたら、お前たちの勝ち。だが今回は――」
視線がすっと横に流れる。元勇者パーティーのメンバーが静かに並び立っていた。
「四対四でいこうじゃねぇか」
静かに空気が引き締まる。
ゴルグが無言のまま見学席に腰を下ろすと、ステインが言う。
「遊びじゃない。……本気で来い」
配置につく。
元勇者パーティー側:前衛にデントとステイン、その背後にカイン、さらに後方にユーリ。
対する若者側:先頭にシア。右後ろにカグヤ、左後ろにユキ、さらに後方にエリスが位置する。
場の中央に立ったゴルグが、懐から一枚の銀貨を取り出す。
「コインが地に落ちたら、開始だ」
そう言って指で弾く。
銀の円盤が静かに空を舞い、太陽の光を一瞬だけ反射してきらめく。
その間、四人の若者はそれぞれの記憶と想いに沈んでいた。
シア――鍛冶場での修行。ゴルグの無骨な背中、火花と汗、物を作るという行為の重さ。彼は想いを込め、空間に意識を集中し、創造の構築を思い描く。
ユキ――父との訓練。水と氷。止める力と流れる力。初めて発動したあの感覚。心を澄まし、流れる川のように動く準備をする。
エリス――デントとの防御訓練。見る、避ける、当てる。自分の居場所を見極める。手を前に伸ばし、仲間を守る陣を描く。
カグヤ――子供たちとの教会での交流、そして自分が暴走した時の記憶。壊すことでしか表現できなかった力。それを、誰かのために、守るために使うと決めたこと。シアの存在が、自分を本当に受け入れるきっかけとなった。
――銀貨が落ちる。
鋭い音とともに、戦端が切られた。
シアが創造魔法を発動し、巨大な盾を生成。その場ではなく、遠く離れたカグヤの前に。
エリスが両手を広げ、陣の前に光の魔法陣を展開する。
カグヤは大鎌を顕現させ、ユキは一直線に駆け出した。
雨のあと、山から流れる川のような勢いと滑らかさで、ユキはデントへ斬りかかる。
デントがその攻撃を盾で受け止め、すかさずステインが剣を横薙ぎに構える。
ユキは軽やかにバックステップでかわし、距離を取る。だがステインの追撃が早い。剣が振り下ろされる直前――
シアが割り込むように前に出て、その剣を盾で受け止める。
その上空を、カグヤが跳び越える。
宙にいる間、彼はユーリに手をかざし、破壊の衝撃波を発動。
だが、魔法陣がその衝撃を反射する。
衝撃波が反転し返ってきた瞬間、カグヤは再度の衝撃波を展開し、両者を相殺。
着地したカグヤの前に、いつの間にかカインが立っていた。
三人が後退したそのタイミングで、エリスの魔法陣が光を放ち、巨大な光線が放たれる。
ユーリを中心に、結界の光が広がっていく。
光線がその中に飲み込まれると、勢いを緩める。カインが魔法陣を弾き、デントがそれを盾で支える。
しばし、膠着。
見学していたゴルグが、鼻を鳴らした。
「ふん」
「やるようになったじゃねぇの!」
デントが笑い、膠着を破ったのはユキとカグヤだった。
ユキが再び前へ、デントに向かって駆け出す。
カグヤはステインへ向かって走る。
二人に対して、今度は魔法が飛んでくる。ユキには炎、カグヤには風の刃。
シアがその両方の魔法に対して対応する。
ユキの前に盾を構え、片手で炎を防ぎながら、カグヤの足元にはもう一つの盾――シアが遠方で創造した盾が現れ、風刃を受け止める。
双方の盾は魔法を受け止めた瞬間に朽ち、消えた。
エリスはカインに対して連続した魔法を放ち、発動の隙を潰していく。
ユキは再びデントに斬りかかり、デントが盾で受ける。
「ほぉ、お前が俺の相手をしてくれるのか!」
「そうよ!」
ユキが跳ねるようにバックステップし、手をかざす。
デントの足元に魔法陣が展開される。彼はすぐさま後退。
魔法陣から氷柱が伸び、影から再びユキが斬りかかる。
カグヤはステインに衝撃波を放つ。
ステインは剣を一閃、風刃を飛ばして衝撃を切り裂く。
二人の視線が交錯する。
「……あの時のリベンジマッチだな」
「俺からしても、そうだよ」
鎌と剣が激しくぶつかり合う。
エリスはカインと魔法の撃ち合いを続けていた。
「なかなか面白い選択ができるようになってきたのね」
「因縁の対決ってやつですね!」
「……あら、そんなに恨まれることあったかしら?」
「旅に出るまでの間、師匠の家事全般やってたの私なんですけど!」
笑いながらも、魔法は鋭く飛ぶ。
シアがユーリの光のサークルを破壊しようと走り出したその時、突如として轟音と共に目の前に黒い影が落ちる。
土煙が舞う中、姿を現したのは――
「ステ坊! お前はまだ後衛をほっとくようなバカなことしかできんのか!」
刀を担いだゴルグが、目の前に立っていた。
ユーリが「ええ」と微笑んで結界を閉じる。
「……代わってもらっていいかな?」
そして、ゴルグはシアに向き直る。
「ワシも混ぜてもらおうかな? ワシの作った傑作と、お前の創る武具、どちらが優れているのか……見てやろう、シア坊!」
戦場にさらなる緊張が走る――
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