表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
43/47

第39話「やすらぎの一日」



 朝の屋敷の食堂には、いつもより穏やかな空気が漂っていた。


 ステインが食卓の席につくと、集まっていた面々――シア、ユキ、カグヤ、エリス、ユーリ、デント、カイン――に向けて口を開いた。


「今日は修行も訓練も休みにする。師匠から、シアの修行がひと段落ついたと昨日聞いた。いい機会だ、全員でゆっくり休め」


 一瞬の静けさのあと、歓声と笑顔が弾けた。


 ――食後、屋敷の一室にて。


 ステインは寝室で支度を整えていた。鎧のベルトを締めていると、ユーリが軽やかな足取りで近づいてくる。


「どこに行くの?」


 鏡越しに顔を合わせると、ステインは簡潔に答えた。


「師匠のところへ。礼を伝えに行ってくる」


 そう言って扉を開けたところで、廊下を歩いていたデントと鉢合わせた。


「おっ、ステイン! どっか行くのか?」


「師匠の鍛冶場だ。良ければ一緒に来るか?」


「いいねぇ、俺も顔出してぇと思ってたとこだ。行く行く!」


 二人が階段を下りようとしたところで、カインが廊下を通りかかる。


「カイン、よければ君も来ないか?」


「悪いけど……今日は調べ物で手が離せないのよ。ステイン、後で様子聞かせてちょうだい」


 カインはメモをめくりながらそのまま書庫へと向かっていった。


 ――陽が高くなり始めた頃、場所は鍛冶場へ。


 鉄を打つ音が止み、ふいごの風も落ち着いた頃。ゴルグが炉の前でゆっくりと腰を上げた。


 そこにステイン、ユーリ、デントが訪れていた。久々の休日を利用して、ゴルグに挨拶に来たのだ。


「カインは調べ物で不参加だ」


 ステインがそう言って苦笑すると、ユーリとデントが揃って頷いた。


「私たちも挨拶くらいはしたくてね」


「せっかくだし、街に出て飯でもどうだ?」


 ゴルグは無言で頷き、三人を迎え入れる。するとすぐに彼はステインを見て、ふと口を開いた。


「……面白い弟子を取ったな」


 ステインが少し驚いたように眉を上げると、ユーリがふふっと微笑んだ。


「うちの亭主と違って、優秀なんですのよ」


「……確かにな」


 ゴルグの静かな相槌に、デントが腹を抱えて笑う。


「ハハッ、そりゃ言いすぎだろ!」


 和やかなやりとりのあと、ステインが小さく咳払いをして言った。


「師匠。礼も兼ねて、食事でも。街に行こう」


 その提案に全員が頷き、外へ出ていった。


 ――昼過ぎ、街の通り。


 昼食を終えて街を歩いていたとき、偶然シアとユキが並んで歩いているのを見かけた。


「……ふふ、つけてみましょうか」


 ユーリが楽しげに囁くと、ステインが小さくため息をついた。


「……やめておけ」


 だがその横でゴルグが無言でユーリの後を歩き出す。


「……師匠まで……」


 ステインがぼやく横で、デントが楽しげに笑った。


「いいじゃねえか、面白そうだろ?」


「……来ないなら別にいいですわよ?」


 ユーリの言葉に、ステインはしぶしぶ頷いた。


 ――その頃、教会には子供たちの明るい声が響いていた。


 カグヤは男の子たちと庭でかけっこをし、エリスは女の子たちと並んで花冠を編んでいる。


「お姉ちゃん、その人好きなのー?」


「え、あ、う……うん……多分……」


 耳まで真っ赤に染まったエリスを見て、少女たちが「わー、照れてるー!」と笑い声を上げる。


 一方でカグヤは地面に倒れ込み、ぜえぜえと息を切らしていた。


 それを見たエリスは、手を止めてそっと呟く。


「……元気そうで、ほんとよかった」


 その直後、少年たちのひとりがエリスの方を指差して叫ぶ。


「エリスお姉ちゃんとカグヤお兄ちゃん、なんかぎくしゃくしてないー?」


 カグヤとエリスは同時に顔を赤らめ、視線をそらす。


「図星だー!」


 子供たちの笑いに、ふたりは恥ずかしさで肩をすくめた。


 ――夕暮れの帰り道。


「……ありがとう」


 ふと、カグヤが静かに言った。


 エリスは立ち止まり、振り返って彼の顔を見つめる。


「私は、どんなカグヤでも支えるよ。だから……」


 「……そばにいてくれ」


 照れくさそうに言うカグヤに、エリスは優しく微笑んで頷く。


「うん。私も、いたい」


 ふたりは自然と手を取り合い、並んで歩き出す。


 そんな中、道の先に見えたのは――


「……あれって……」


「……覗き見? 楽しそう」


 茂みに隠れているステインたち。そしてその先には、シアとユキの姿。


 カグヤとエリスも、笑いながらそっとその後ろに加わっていった。


 ――時を戻して、朝のユキの部屋。


 ユキは部屋の中を落ち着きなく歩き回っていた。


「どうやって誘おう……たまの休みだし……別に変じゃない……」


 鏡の前で髪を直し、何度も深呼吸。


 そして決意を胸に、部屋を出てシアの部屋へ。


 ドアの前で深呼吸をし、ノック。


「たまの休みだし……どっか、出かけない?」


 ぎこちなく言うユキに、シアはにこっと笑った。


「いいね、ユキ。……カグヤとエリスも誘おうか」


 その言葉に、ユキの心が少し沈む。


「……うん。そうだね」


 ふたりでカグヤの部屋を訪ねると、エリスがベッドに腰かけていた。


「ごめんね、今日教会に行く予定で……」


 エリスはユキの手をぎゅっと握る。


「頑張ってね! 応援してる!」


 顔を真っ赤にしながら、ユキは頷いた。


 ――屋台の賑わいが街に広がる中。


 シアとユキは笑顔で食べ歩きを楽しんでいた。


「美味しい……!」


「ユキ、これも食べてみて」


 ふたりの距離は少しずつ近づき、やがて夕暮れの広場へ。


 ベンチに並んで腰掛け、静かな風が頬を撫でる。


「……なんかさ。故郷を出る前のこと、思い出す」


 シアの言葉に、ユキは静かに頷いた。


「……父さんと母さんに、会うのが怖い。……でも、行かなきゃって思う」


 ユキはそっと手を伸ばし、シアの手を握った。


「大丈夫。私がいるから」


 目が合い、ふたりの距離が近づいて――


「ガサッ」


 茂みから、大人たちがどさっと倒れ出てきた。


「…………」


「なにやってんのよ!!」


 ユキの怒号が夕暮れの広場に響き渡った。


 ――その夜。


 カインの部屋には、ランタンの淡い光が灯っていた。


 机には、山のように積まれた本。


 その中の一冊を開いたカインが、目を見開く。


「……あった……これだ……」


 表紙には、こう書かれていた。


『はじまりの神々』


ご一読いただきありがとうございました。

誤字などございましたらコメント等含めて教えていただけると幸いです。

よろしくお願い致します

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ