第4話:試される絆
数日後、街の復興を背に、二人の若者は出発した。
道の先にあるのは、深い森。魔道士カインが住む、霧の谷だ。
「……まさかアンタと二人で旅することになるなんて、思ってもなかったわ」
「僕も。……でも、頼りにしてるよ、ユキ」
「ふん。最初からそれくらい素直なら苦労しないのに」
皮肉を込めたユキの言葉に、シアは笑った。
森の奥、濃霧に包まれた谷の中に、その人はいた。
紫がかった黒髪。肩までの長さをきちんと揃え、涼しげな青緑の瞳をした人物。
どこか気品を感じさせる佇まい。そして──なぜか“オネェ口調”。
「やぁん、やっと来たのね、坊やたち」
カインは、彼らをまるで旧友のように迎え入れた。
「久しぶりねぇ、ユキちゃん。あら、初めてかしら? 今は“お師匠様”って呼んでもいいわよん?」
「……やっぱり変な人だった」
「それ、褒め言葉と受け取っておくわ♪」
茶化すように笑いながらも、カインの視線はシアに注がれていた。
「で? あんたが、あの“子”の息子……ってわけね」
「……はい」
一瞬で空気が変わった。
先ほどまでの飄々とした雰囲気が嘘のように、カインの瞳が鋭くなる。
「中を見せて」
「え?」
「君の中に、“何か”がいる。──覗かせてもらうわよ」
ふっと指が動いた瞬間、シアの身体が金縛りに遭ったように動かなくなった。
カインの魔力が、まるで霧のように纏わりつき、精神の奥を覗き込んでいく。
「……やっぱりねぇ。これは……とても、危険な繋がり」
「危険?」
「そう。──“君自身”じゃないものが、君の中に入り込んでいる。そして、それは“彼女”から繋がってるわ」
ユキを見ながら、カインは冷たく告げる。
「つまり、シアとユキの間にある“絆”が、この不穏な力を引き寄せてるってわけ」
「嘘……そんな……」
「でも、逆に言えば──それだけ“深く繋がってる”ってことでもあるのよ。フフ、恋って怖いわねぇ」
「ちょっ、そんなんじゃ……!」
「まあまあ、冗談よ。……さて、本題に入るわ」
カインは背を向け、書斎のような部屋へと入っていく。
「シア、君は修行を受けなさい。そして“力”の正体を理解し、制御する方法を身につけるの。ユキ……君には“別の役目”があるわ」
「別の……?」
「この先の旅、どちらか一人だけを連れて行くの。シアか、ユキか。──どちらか一人だけ」
「……は?」
「冗談じゃないわよ!」
「勝手にそんなこと──!」
二人の抗議を、カインはきっぱりと遮った。
「力が暴走すれば、君たち自身を壊す。──最悪、どちらかが相手を殺すことになるわ。だから私は、見極める必要があるの。君たちの“覚悟”と“強さ”を」
「……なら、どうすればいいの」
「一週間後。私に一撃でも入れられたら、二人で旅をしてもいいわ。──それまで、修行よ。命がけでね」
火が灯された部屋に戻った後も、二人は言葉を交わさなかった。
けれど、どちらも同じ想いを抱いていた。
(一緒に、行きたい)
ただそれだけが、今の彼らの確かな願いだった。
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修正箇所とうあれば是非教えてください
未熟ですがよろしくお願い致します