【第33話 それぞれの歩幅で】
朝の訓練場に、シア、ユキ、カグヤ、エリスの4人が集まっていた。彼らの前には、デント、カイン、ステイン、ユーリ。かつての勇者パーティーが揃い、それぞれの訓練の成果を確認するための時間が始まった。
「じゃあ、まずはシアからだな」 デントの声に、シアが一歩前へ出る。掌に意識を集中すると、小さな短剣が魔力で形成される。それを軽く投げると、設置された的の中心に突き刺さる。が──刃はすぐに霧散した。 「形は安定してきてるが……強度がまだだな。お前ならもっとできる」 デントが笑みを浮かべながらも、きっぱりと指摘した。
「次はユキ」 ステインの言葉に、ユキは静かに前へ出た。 まずは氷の結晶が羽織のように彼女を包み込む。冷気のバリア。次いで、水の魔力が鞭のようにうねり、空を裂くように駆け抜けた。 「戦術の構築ができるようになったな」 カインが隣から評価を加える。
「……カグヤ」 ユーリが名を呼ぶと、カグヤはゆっくりと歩み出て、静かに鎌を顕現させる。瘴気はもう漏れ出していない。張り詰めた気配の中に、静謐が広がっていた。 「制御、できるようになったのね。よく頑張ったわ」 ユーリの微笑みに、カグヤは小さく頷いた。
「最後、エリス」 デントの声でエリスが浮かせた魔法陣からは、小規模の魔弾と、大規模魔法の展開が切り替わる。そのどれもが、周囲の仲間の動きを確認しながら発動されていた。 「ようやく周りが見えてきたな。悪くない」
4人はそれぞれに評価を受け、それぞれの課題を胸に刻む。空気にほどよい充実感が漂っていた。
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夜。
ユキはひとり、再び訓練場に立っていた。氷と水の魔法を交互に発動させながら、じっと自分の魔力と向き合っている。 ふと、頭をよぎったのは──あの"ルーツ"の映像。
(氷は……止める魔法。水は……流れを作る魔法)
その二つが交差した時、自分の中に何か新しい可能性が生まれる気がした。 「……カインに、相談してみよう」 迷いのない足取りで、彼女は夜の屋敷へと戻っていった。
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一方、シアの部屋。 机の上に並ぶ短剣の残骸。再生と創造の魔力で作った武器は、形こそ安定したものの、力を込めると脆く崩れる。
(……足りない。何が、足りない?)
そう考えた瞬間、脳裏に浮かんだのは──ゴルグの鍛冶。 炉の熱。鉄を打つ音。汗。時間。そして……意思。
(……俺は、"作ってない"のかもしれない)
その想いが、胸の奥に静かに沈んでいった。
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カグヤの部屋。 彼は鎌を静かに顕現し、その刃先をじっと見つめていた。 瘴気は静まり、制御はできている。 けれど、それがどういう力なのか──わかっていない。
(……ルーツ)
思い出す。シアとユキが語っていた、魔法の根源を見た映像。 恐怖と好奇心がせめぎ合う中、カグヤは立ち上がり、迷いのない足取りでエリスの部屋へ向かった。
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エリスはベッドの上、今日の訓練を思い返していた。 他の3人が、自分の核に触れていく中、自分はまだ──と、焦燥に駆られていた。
コン、コン── ドアがノックされ、開けるとそこにはカグヤ。 「話がある」
部屋に招き入れると、カグヤは真っすぐな視線で言った。
「……俺、自分の力のルーツを知りたい。でも、それが怖いんだ。もし、また何かを壊したらって……。だから、エリス。一緒に来てくれ」
エリスは一瞬きょとんとしたあと、優しく笑って頷いた。 「もちろん。私も、知りたいから」
2人の影が、月明かりに照らされて寄り添っていた。