【第28話:それぞれの師、それぞれの修行】
昼下がり。青空の下、訓練場には涼やかな風が吹いていた。昼食を終えたシア、ユキ、エリス、カグヤの四人は、肩を並べて訓練場へと歩を進める。
訓練場にはすでに四人の人物が立っていた。 中央に立つのは、屈強な体格をしたデント。その隣には、渋みを増した表情のステイン、優しげな笑みを浮かべたユーリ、そして紫がかった黒髪を揺らすカイン。
「みんな揃ったな!」 とデントが明るく声を上げた。
「今日からは特別ゲストが訓練を手伝ってくれるぞ。もちろん、それぞれの担当も決めてあるから、よろしくな!」
「えっ……!? カイン様も!?」とエリスが驚きの声を上げた。 「っていうか、なんで昨日の夕食のときに言ってくれなかったんですか!?」
「ふふ、内緒にしてた方が面白いでしょ?」とカインが涼しげに微笑む。
「ちょっと待って……あの人たちは誰なの?」とカグヤが冷静に問いかける。
「紹介しよう」 ステインが一歩前に出ると、堂々と名乗った。 「俺はステイン。騎士団長をしている。そして、こちらが……」 「私がユーリ。よろしくね」
二人の落ち着いた雰囲気に、カグヤもわずかに眉を動かす。
「それじゃあ、さっそくだが──」 ステインが咳払いを一つして、厳しい眼差しを全員に向ける。 「模擬戦を行う。俺たち元勇者パーティーと、君たち四人の実力を確かめさせてもらうぞ」
「……四対四ってことか」とカグヤが呟いた。
◆ 模擬戦開始 ◆
「始め!」 デントの号令と共に、模擬戦が始まる。
まず動いたのはシア。瞬時に魔力を圧縮し、風の刃を飛ばす。 が、それをカインが指先一本で風ごと消す。 「魔法の方向性は悪くないわ、でも詰めが甘いわね〜」
ユキは素早く氷の槍を放つが、ステインが剣を振るうだけで粉砕された。 「力強くなったが、まだ読みやすいな」
エリスは全属性の放出魔法を連続で放ち、巧みに立ち回るが、デントの盾が全てを受け止める。 「悪くない、が……全力の俺を止められるか?」
カグヤは気配を殺し、背後からユーリに接近するが、 「……うふふ、気配遮断でも気づくわよ」と微笑んだユーリに一瞬で捕えられる。
終始、元勇者パーティーの圧倒的な戦力に、若き四人は翻弄され続けた。
◆ 模擬戦後・夕食の時間 ◆
汗と疲れを引きずりながら、夕食の席に着く。 食事中、各々が今日の戦いを思い返していると、
「シア、君には課題があるわ」とカインが静かに切り出す。 「明日から、皆のサポートを任せるわ。つまり家事全般。料理も洗濯も、ね?」 「……えっ」
「ユキ。お前には、俺が稽古をつけてやる。俺との訓練は、模擬戦だ。実戦に勝る訓練はない」 「……わ、わかりました!」
「エリス」 デントが真剣な表情で告げる。 「お前の周囲に魔力で玉を浮かべる。その玉を、俺の攻撃からすべて守りきれ」 「わっ……はいっ!」
「カグヤくん」 ユーリが微笑む。 「明日は、私と一緒にお買い物に行きましょうね」 「……は?」
◆ 翌朝 ◆
訓練場に再び集まった四人の前に、ステインが立つ。
「今日からはマンツーマンで鍛える。お前たちはそれぞれ、自分の師に師事しろ」
◆ シアとカイン ◆
「さあシアくん、今日の仕事はお掃除からね!」 「……戦闘訓練じゃなくて?」 「皆が気持ちよく訓練するには、清潔な環境が必要でしょ?」
掃除、洗濯、買い出し、炊事──まるで家政科の訓練のような一日が始まった。
◆ ユキとステイン ◆
「さあ、久しぶりに稽古をつけてやる。全力でかかってこい」
剣と剣がぶつかり合い、訓練場に火花が飛ぶ。 ステインの動きは重く速く、ユキの成長を見極める目も鋭い。 「まだまだだな、ユキ。体の使い方、まだ甘い」 「くっ……わかってます!」
◆ エリスとデント ◆
「魔法玉……?」 「そうだ。これはお前の集中力を測る訓練だ。俺の攻撃から、それを全部守ってみせろ」
魔力の玉がエリスの周囲に浮かぶ。 次の瞬間、デントの豪腕が容赦なく襲い掛かる──!
◆ カグヤとユーリ ◆
「じゃあ、これとこれ、あとこの野菜もお願いね」 「……なんで俺がカゴ持ちなんだ」 「うふふ、修行よ。買い物って意外と集中力と観察眼が必要なの」
市街を歩きながら、ユーリはカグヤに穏やかに話しかける。 彼女の言葉は柔らかいが、意外なほど心に刺さるものがあった。
──こうして、元勇者パーティーの指導の下、それぞれの修行が静かに、だが確実に始まっていった。




