【第27話 導かれる先へ】
眩しい光に呑まれたシアは、思わず目を閉じた。 再び目を開けると、そこはどこまでも続く荒野だった。何もない、乾いた大地。だが、次の瞬間──
大地に杭が打たれ、道ができ、町が生まれ、やがて都市が築かれていく。加速度的に文明が発達し、人々は富み、争い、戦争を起こし、そしてまた文明は滅びていく。 その流れは止まることなく、幾度も繰り返された。
──場面が切り替わる。
魔界。禍々しい瘴気が漂うその地で、魔族たちが集まっていた。
「またか……また闇討ちか」
声を発したのは、その地を治める魔族の長。深い紅の瞳をした壮年の男。膝をつく部下が低く告げる。
「解析の結果……魔力の痕跡は、人間のものでした」
長の顔に険しい影が差す。
「愚か者どもめ……停戦の意味を理解していないか」
──場面が変わる。
人間界の軍議の間。高位の魔法使いや軍の幹部たちが顔をそろえていた。
「魔族の襲撃……急報です」
「何の前触れもなく攻撃してくるとは……」
「やはり、魔族は我々の地を手に入れるつもりか」
恐怖と憎悪が交錯する中、戦争の準備が進められていく。
──戦場。
炎と血の匂いが入り混じり、死の声が響いていた。人間が魔族に斬られ、倒れ、また逆に魔族が叫びながら倒れていく。 だが、その一瞬の勝利の安堵は、次の瞬間に砕かれた。
足元に現れた巨大な魔法陣。
「しま──っ……!!」
崖の上に並び立つ魔族たちが、同時に魔法を発動。 激しい閃光と爆発。
──暗転。
「……っ!」
シアは、自分が何を見ているのかも分からず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
その時。
すうっと、影が近づく。男女の姿。
男の影が低く、優しく問いかける。
「お前は、どうしたい? どうなりたい?」
女の影が続ける。
「あなたが望むなら、その方向に力は応える」
──目を覚ますと、そこは地下の訓練室。
「……シア、目を覚ましたか」
声をかけたのはデントだった。
「……何を見た?」
シアは見たものをそのまま語った。荒野、文明、戦争、魔族と人間の対立、そして影の言葉。
デントは静かにうなずく。
「力の正体は……正直、俺にもわからん。だが、お前のやるべきことは……決まったようだな」
──地上の訓練場。
ユキ、エリス、カグヤが、それぞれの訓練に集中していた。
そこへ、シアとデントが姿を現す。
「よし、今日はここまでだ。休憩にしよう」
そう言ってデントは三人に声をかける。
「明日の訓練は午後から行う。それまでは自由時間だ。街にでも出て、好きに過ごしていいぞ」
エリスはすぐさまユキの腕を取る。
「ユキ、街で買い物行こうよっ!」
「……別に、いいけど」
そう言いつつも、まんざらでもなさそうな表情を見せるユキ。
カグヤは無言で小さく頷くと、シアと共に建物の奥へと戻っていった。
──街の中心部、レストラン。
食事を終えたユキとエリスが並んで歩いている。
「ねえ……何で急に訓練が休みになったんだろう?」
「さあ……でも、何かあったのかな。シア、ちょっと顔色悪かった気もするし」
二人は店のドアを開けると、ちょうどその奥のテーブル席に、見覚えのある人物が座っていた。
「カイン様!?」
「カイン!?」
そこにいたのは、見事なポーズでティーカップを持ち上げる男。
「オ~ホホホ! まさかこんなところで出会うなんて、奇跡かしら! ユキちゃん、エリスちゃん、こんな偶然ってある~?」
仰々しい身振りとともに立ち上がるカイン。
「な、何してんの……こんなとこで……」
ユキが呆れ顔で言うと、カインはにこやかに胸を張った。
「このあたりに美味しいケーキがあるって噂を聞いて、ちょ~っと休暇がてらね! あらやだ、まさかあんたたちも休み?」
エリスが頷く。
「はいっ、カイン様。デントさんが今日は休めって!」
「なるほどなるほど~! じゃあ、せっかくだし三人でお茶でもしない? アタシ、噂のショートケーキ、二つ頼んじゃってたの!」
こうして、予定外の賑やかなティータイムが始まるのだった。




