表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
26/79

第26話「それぞれの課題と、その奥にあるもの」


朝靄がまだ薄く残る訓練場に、今日も四人の姿が並んでいた。

デントの屋敷裏にある広大な訓練場には、木の人形や的、魔力を測るための石柱などが整然と並べられている。


「よし、今日もビシバシいくぞ!」

威勢よく声をかけるデントに、ユキが小さくため息をついた。

「……もう筋肉痛が治ってないんだけど」

「それは若さでなんとかしろ。カインもそう言ってたぞ?」


エリスはすでに魔法陣を展開し、軽くストレッチをしながら準備万端。カグヤは目を閉じて座禅の構えに入っている。

そしてシアは訓練場の中央に立ち、自らの魔力で無数の的を作り出す作業に入っていた。


「今日の訓練はこれだ!」

デントが指を鳴らすと、訓練メニューが魔導板に浮かび上がる。


シア:魔力操作の精密性を鍛えるため、訓練場内にランダムに的を出現させる。


ユキ:エリスの魔法を回避しつつ、シアが出現させた的を順番通りに破壊する。使用武器・魔法どちらでも可。


エリス:ユキの動きに合わせ、追い込むように魔法を放つ。威力は調整済み。


カグヤ:座禅を組みながら掌に鎌を乗せ、魔力吸収の柱に影響されず、自身の魔力を内側に留める制御訓練。



「じゃ、始め!」


シアが集中し、手を前にかざす。空間が揺らぎ、青白い魔力で構成された球体状の的が一つ、また一つと訓練場に浮かび上がる。

その順番も位置もランダムで、ユキにとっては瞬時の判断力が問われる訓練だった。


「来るよ、ユキちゃん!」

エリスが声をあげ、魔力弾を三連続で発射する。ユキは跳ねるようにステップしながらそれをかわし、横合いに出現した的を剣で真っ二つにした。

「っ……こんなの無理ゲーすぎ!」

「避けるのも攻撃するのも、動きの精度次第で楽になるんだよ!」

「エリス、狙いがいやらしすぎ!」

「褒め言葉〜!」


その間にもシアは的の出現を続けていたが、額には汗が浮かび、肩が小さく震えていた。

的の精密な制御には膨大な魔力と集中力が必要で、次第にその制御が乱れ始める。


一方カグヤは、座禅を組みながら掌に顕現させた鎌をじっと見つめている。周囲の魔力吸収柱が唸りを上げて魔力を引こうとするが、カグヤの身体からは一滴たりとも漏れない。

だが、その額にも、汗。


「がっ……!」

突如、シアが膝をついた。魔力の流れが乱れ、いくつかの的が爆ぜるように消えた。


「シア!」

ユキがすぐさま駆け寄ろうとするより早く、デントがシアをひょいと肩に担ぎ上げた。


「このままじゃ危ない。――地下だな」

デントは誰にも何も言わず、そのままシアを担いで訓練場裏の地下通路へと消えた。


* * *


シアの身体は、屋敷地下の一室、魔法陣が刻まれた部屋の中心にそっと横たえられた。

その瞬間、魔法陣が淡く青黒い光を放ち始める。


「ここからが……お前の本当の訓練だ」


呟いたデントは静かに扉を閉め、地上へと戻っていった。


* * *


訓練場では、三人が不安げに待っていた。デントが戻ってくると、少し表情を和らげて言った。


「……今は心配ない。ただし、あいつの訓練はちょっとばかし特殊でな。今は休憩だ。飯にしよう」


食堂で出された豪勢なランチに、ユキはフォークを握ったまま口を開いた。


「デントさん。……シアは、どこに行ったの?」


デントは少し考え、しかし包み隠さず語った。


「シアは、“魔王”と“勇者”の子供だ。そして――蝶の力も得た。つまり、あいつの中には三つの力がある」

「三つ……?」

「一つ目は、勇者の聖なる力。二つ目は、魔王の破壊の力。そして三つ目は――あの蝶から与えられた、未知の力だ」


デントは水を一口飲むと、静かに言葉を続けた。


「勇者と魔王の力は、互いを相殺し合ってた。だから適性は“生活魔法”という一番平均的なものしか出なかった。けど、蝶の力が加わって、バランスが崩れた。攻撃魔法、そして“創る”力を得た」


「創る力……」ユキが呟く。


「問題は、今あいつの中で一番強くなってるのが、蝶の力ってことだ。……それがどういうものか、俺にもわからねぇ。だから、シアには“自分の力を知る”訓練が必要だ。自分の心の、奥底まで潜る、本物の瞑想ってやつだな」


* * *


シアは深い暗闇の中にいた。

沈むように、落ちていくように、静かな、心の奥へと。


やがて、三つの光が現れる。

ひとつは優しく温かい光。

もうひとつは、鋭く激しい闇のような光。

そして最後は――言葉では形容しがたい、色彩を持たない光。角度によって青にも赤にも黄にも見える、不思議な光だった。


シアは、ただそれを見つめていた。

そして、最も奥で強く瞬いていたその光に、手を伸ばした。


光が、シアを包む。


――その瞼の裏に、新しい何かが映る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ