第25話「試練の初日、デントの洗礼」
デントの屋敷の裏手には、街のどこにも見たことがないほど広大な訓練場があった。
地面は踏み固められた土で、ところどころに木製の訓練器具が置かれている。真ん中に立つのは、巨大な赤髪の男、デント。
その前に並ぶのはシア、ユキ、カグヤ、エリスの四人。
「まずはお前らの実力を見せてもらうぜ。……模擬戦だ」
デントの笑みは好戦的で、どこか子供じみた楽しさすら漂っていた。
ユキが先陣を切るように駆け出す。氷の刃を構え、一直線にデントへ。
「せぇいッ!」
だが、デントは木刀を片手に構えただけで、動かない。
――ガンッ!
音と同時にユキの攻撃は簡単に受け流され、力の反動で体勢を崩す。
「シア!」
エリスが叫び、シアが前に出て盾を顕現させる。銀色の魔力が煌き、デントとユキの間に立ちはだかる。
「ユキ、下がって!」
「わかってる!」
その隙に、エリスの詠唱が終わり、火球がデントに向かって放たれる。
「そらよ」
デントは木刀を軽く振るい、火球を斬り払った。
その瞬間、カグヤが動いた。
盾の影から身体強化を使い、デントの懐へ一気に間合いを詰める。黒い瘴気を纏った一撃――
「おおっと!」
デントがカウンターで木刀を振るい、カグヤの腹部に直撃。
「ぐっ……!」
カグヤは息を詰まらせながらも、吹き飛び地面を転がった。
「次!」
すかさず前に出たシアとユキが入れ替わり、ユキが斬撃を振るう。
「せいっ!」
デントは紙一重で回避し、返す足でユキを蹴り飛ばす。
エリスの魔法が再び炸裂するも、デントは剣で受け、その勢いでシアを盾ごと吹き飛ばす。
「っと、最後!」
木刀を逆手に構えたデントが、エリスに向かってそれを投げる。
「――えっ!?」
木刀はエリスの足元に命中し、彼女はバランスを崩して尻もちをついた。
……全員、戦闘不能。
「終了!」
デントは笑いながら手を叩く。
「はっはっは! まー、こんなもんだな!」
シアは膝をつきながら地面を見つめ、拳を強く握る。
「……こんなに違うのか」
「じゃあ、それぞれに課題を教えてやる!」
デントは指をバチンと鳴らしてから、まずユキを指差した。
「まずユキ!お前は遅い!動きに無駄が多すぎる!魔法発動も、身体の動きも、全部ぎこちない!魔力操作が原因だ!」
ユキは唇を噛み、黙ってうなずく。
「次、エリス!お前は後衛としてデカい魔法撃つのはいいが、守る壁がなくなったら脆すぎる!もっと早くて小回り効く魔法も使え!」
「うっ、はい……」
「それからシア!」
シアは顔を上げる。
「お前は……自分の力、分かってねぇな。まだまだ自分と向き合う必要がある。明日からは基礎練からやり直しだ。まずは“瞑想”だな」
「……はい」
「最後、カグヤ!」
デントは彼を真っ直ぐに見た。
「お前……遠慮してたな?俺じゃない。……他の三人に、だ」
カグヤの肩が僅かに揺れる。
「仲間に気を遣うのは悪くない。でもな、命の取り合いじゃそれが命取りになるんだよ。……本気で来い」
デントは落ちていた木刀を拾い上げ、構える。
カグヤは地面を睨みながら、ゆっくりと立ち上がる。
「……遠慮なんか、してねぇよ」
そう呟いた彼の背後に、大鎌が顕現する。黒い瘴気がふわりと揺れた。
「へぇ、ようやく見せる気になったな」
カグヤが爆発的な加速で踏み込み、大鎌を振るう。デントは木刀で受け止め、火花が散る。
「悪くない。いい目してるぜ、カグヤ!」
弾かれた大鎌が地面に突き刺さる。
カグヤは肩で息をしながら、再び鎌を見つめた。
「カグヤ」
デントが声をかける。
「その鎌――もっと上手く使え。その意味、分かるよな?」
カグヤはしばし沈黙した後、力強くうなずいた。
「……ああ」
朝の訓練は、こうして幕を下ろした。




