表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
23/81

【第23話 それぞれの決意】



 夜の帳が静かに街を包み始める頃、カグヤは人通りの少ない広場のベンチに腰掛けていた。頭上には月が滲んで浮かび、宙に溶け込むように瞬いている。


 無言のまま空を見上げながら、カグヤは心の内に渦巻く葛藤を整理していた。


(……俺の旅の目的は、蝶の正体を知ること。そして、自分の居場所を見つけること)


 運命を変える蝶。それに出会ったことで力を得たが、それは同時に村を滅ぼすきっかけともなった。あのとき、あの力さえなければ、笑い合えた人々はまだ生きていたかもしれない。


(同じ蝶に選ばれたシアといれば、何かわかる気がした。それは間違いじゃない。だが――)


 彼は拳をぎゅっと握る。


(魔界に行くとなれば、問題は別だ。停戦中の今、俺のように力に波がある存在が踏み入れば、魔族を殺してしまうかもしれない……そんなことになれば、戦争の火種になりかねない)


 ついていくことが、本当に正しいのか。


 迷いは尽きなかった。


 ふと夜風が頬をなで、カグヤは目を細めて月を仰いだ。


 一方その頃、宿の一室ではエリスがベッドに寝転がっていた。天井を見つめてぼんやりしていた彼女のもとへ、窓から一羽の鳥が舞い込む。


「……ん? 手紙?」


 鳥の足に結ばれていたのは、見覚えのある封蝋が押された手紙だった。


「カイン様……!」


 封を切ると、そこにはカグヤに関する驚くべき事実が記されていた。


 エリスは読み進めるにつれ表情を変え、最後の一文を読み終えると、手紙を胸に抱いて立ち上がった。


「行かなきゃ……っ」


 そのまま勢いよく部屋を飛び出す。


 夜の街。広場に続く道をカグヤが歩いていると、慌ただしく駆け寄ってくる足音が聞こえた。


「カグヤっ!」


 呼ばれて振り返ると、そこには泣きそうな顔のエリスがいた。


「エリス……? どうした」


「私、知っちゃったの。カイン様からの手紙で、あなたのこと……」


 エリスは肩で息をしながら言葉を紡ぐ。


「……あなた、村に預けられていたのね。そして、蝶に選ばれて力を得て、でもその力で……村を……」


 カグヤは目を伏せた。


「……ああ。俺が……壊した」


「違う……あなたが壊したんじゃない。力が、制御できなかっただけ。あなたは悪くない……!」


 エリスは涙をこぼしながら、カグヤの胸に飛び込んだ。


「あなたが苦しんでいたこと、ずっと知らなかった……ごめんね……っ」


 カグヤの瞳が揺れる。


「……エリス」


「私は、あなたがどんな過去を持っていても、一緒に行きたい。あなたと、シアと、ユキと……ずっと一緒に」


 カグヤは少しだけ目を伏せ、そして小さく頷いた。


 朝。宿の食堂に4人が揃った。


 緊張した空気の中、カグヤが静かに口を開く。


「……俺は、ある村に預けられて育った。けど、蝶に選ばれて覚醒した日、その力を抑えきれず……村を滅ぼした」


 沈黙。


「それを知って、俺は旅に出た。蝶の目的を知るため、自分が何者なのかを知るためにな……」


 エリスが頷き、一枚の手紙を取り出した。


「これは、カイン様からの手紙です。そこには……あなたのことが書かれていました」


 彼女はみんなに向けて内容を語る。


「カグヤは……シアの腹違いの弟。そして、戦時中に身籠ったカグヤの母は、子どもを守るために二年もの間、無理に妊娠を維持したそうです。そして……命を落とされたと」


 言葉が震える。


「……カグヤもまた、シアと同じように“選ばれた存在”。その在り方を、魔王に問うために旅に出るべきだと……私は、そう思う」


 カグヤは静かに目を伏せたあと、顔を上げる。


「……ありがとう、エリス。俺は、行く。自分の過去も、力も、全部背負って……あの魔王に、俺の生き方を問いに行く」


 エリスは目に涙を浮かべながら、微笑んだ。


「私も行く。二人がどんな運命に辿り着くのか……この目で、最後まで見届けたい」


 強い意志が、四人の間に静かに灯った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ