第22話「それぞれの覚悟」
轟音とともに、魔獣が大地を揺るがす。鋭い牙と無数の脚を持つ異形が、街の外れを蹂躙していた。
「いっけえええええええ!」
エリスの放った火球が魔獣の頭部に炸裂する。だがそれでも止まらない。巨体が揺れ、なおも進もうとしたその瞬間――
「動きを止めろ、雷迅!」
カグヤの詠唱に応じて雷撃が降り注ぎ、魔獣の脚を痺れさせた。隙を逃さず、シアが剣を握って突っ込む。
「今だ――っ!」
シアの一撃が喉元を穿ち、魔獣は咆哮とともに崩れ落ちた。
すべては、遠く離れた場所に置かれた水晶に映し出されていた。
その映像を、フードを深く被った男が静かに見つめている。
そして、不気味な笑みを浮かべた。
「ふふ……来たね。ようやく、物語が動き出す」
男の声は誰に向けられているのか定かではなかった。ただ一言――
「もうすぐだよ……“あの子”が、選ぶときが来る」
***
街のレストラン。窓の外では暮れかけた陽が差し込んでいた。
戦闘を終えたシアたちは、木製のテーブルを囲み遅めの昼食をとっていたが、その場に漂う空気はどこか重かった。
「最近の魔獣出現は、どう考えても異常だ」
料理に手をつけながら、カグヤが口を開いた。
彼の落ち着いた声に、皆の視線が集まる。
「魔界に近い街だから、野生化した奴らが多いって考えるのも無理はない。でも、今日のあれは違った。動きに“指示”があった。明らかに、誰かに操られてた」
「でも……魔界に近ければ、魔獣が出るのは普通じゃないの?」
ユキが問い返す。が、カグヤはすぐさま首を横に振った。
「違う。それは“魔物”の話だ」
シアが聞き返すように眉をひそめる。
「魔物と、魔獣……違うのか?」
「魔物ってのは、動物や虫なんかが魔力を吸いすぎて暴走したもんさ。けど魔獣は違う。魔族が自ら作り出した、自然に生まれることのない“異形”。戦争時代に量産された兵器みたいなもんだ」
「……そういえば!」
エリスが思い出したように身を乗り出す。
「カイン様が昔、魔獣の中には“実体を持たない個体”がいて、そういう奴らは強い魔力を持った魔族を見つけると乗っ取るって……そんな話をしてた!」
「でも、私たちの中に魔族なんていないよ」
ユキがそう言った瞬間、カグヤとシアの表情がわずかに陰る。
それを見逃さなかったユキが、静かに尋ねる。
「……シア?」
シアは俯き、そしてカグヤに一度視線を送ってから、ゆっくりと口を開いた。
「蝶は……力を与える存在じゃない。運命を入れ替える存在なんだって、カグヤに教えてもらった。もし、僕やカグヤの運命が“魔族”に関わるものだとしたら……魔獣が反応しても、おかしくないのかもしれない」
ユキは何も言わなかった。ただ、シアの言葉を静かに受け止めるように頷いた。
その様子を見て、シアはわずかに息をつき、そして言った。
「僕の旅の理由を……カグヤとエリスにも聞いてほしい」
エリスとカグヤが目を見開く。
「僕の父は……魔王なんだ。そして、母は勇者。……僕は、まだその事実をちゃんと受け止めきれてはいない。でも、力を得た今、自分がどうあるべきかを知りたくて――二人に、会いに行こうと思ってる」
「……」
「ユキは、ステインさん――君のお父さんから、この話を聞いてたんだよね」
ユキはうなずいた。
「ええ……お父さんは言ってた。『あいつが歩き出すとき、隣にいてやってくれ』って」
シアは笑顔で「ありがとう」と小さく言い、そして改めて、カグヤとエリスへと視線を向けた。
「これを聞いても、まだ一緒に来てくれるかどうか……ちゃんと考えてほしい。僕のためじゃない、自分の意思で決めてくれればいいから」
その言葉に、カグヤもエリスもすぐには答えなかった。ただ静かに、真っ直ぐにシアを見つめていた。
心の奥で、何かが動き始めていた。




