第21話「受け入れた心」
静まり返った世界の中で、ユキは一人、凍った時の中にいた。
風も音も、命の気配すらもない。
ただ一人きり。そう思っていたその時だった。
「……ずいぶんと弱くなったのね、わたし」
振り返れば、そこには――幼い頃の自分が立っていた。
氷のように冷たい目。無垢な顔には不釣り合いなほど、底の見えない感情が宿っていた。
「覚えてる? シアが初めて魔法を失敗したとき、私、嬉しかったの。あぁ、やっと私のほうが上に立てるって」
ユキの胸が、ずしりと重くなった。
「守られるのが嫌なんじゃない。私が、シアを“守る存在”でいたかっただけ。シアが頼ってくれるように、私のそばを離れないように――支配したかったのよ」
幼いユキが手を差し伸べる。
「力を受け入れれば、それができる。あなたの“望み”を叶えてあげる。今のあなたは、ただの無力な女の子よ?」
冷たい声。けれど、その奥には確かに、自分の中にあった本音があった。
「……うん」
ユキは静かに頷いた。
「確かに……そう思ってた。守られてばかりの自分が嫌だった。強く見せたかった。強くありたかった。シアより上に立ちたかった。……全部、事実だよ」
差し出された手を、しかしユキはそっと、自分の手で包むように握りしめる。
「でもね、もう違うの。私はシアと“並んで”歩きたい。あの子の隣に、同じ目線で立ちたいって、心の底から思ってる」
幼い自分を、そっと抱きしめた。
「ずっと押し込めてた。こんな自分、見たくなかった。でも……これが、私」
涙がこぼれた。
「だから、もう逃げない。力が欲しい。あの子の隣に立つために……私自身を、全部受け入れるために」
その瞬間、世界に微かな振動が走った。
止まっていた時間が、音を立てて崩れ落ちる。
風が動き、音が戻り、魔獣の咆哮が世界を満たした。
「……来なさい!」
ユキが叫ぶ。氷の魔力が奔流となって広がり、魔獣の動きを一瞬にして封じた。
「今よ、エリス!」
「了解っ!」
エリスの雷撃が氷の檻を砕き、魔獣を切り裂く。
砂塵が舞い、静寂が訪れる。
そこに――息を切らせて駆けつけた銀髪の少年がいた。
「ユキ……!」
シアの声に、ユキは振り返る。
その表情には、もう迷いはなかった。ただ、自分自身を認めた少女の、まっすぐな強さがあった。
「……ありがとう、シア」
その言葉には、「あなたのおかげで、ここまで来られた」という意味が、すべて込められていた。




