第2話:その力は誰のものか
その日、街に響いたのは鐘の音ではなく、悲鳴だった。
「魔族だああああっ!!」
突然の襲撃だった。空が黒く染まり、地鳴りのような足音と共に、異形の魔獣たちが街を包囲していた。その後ろには、角と鱗を持つ魔族の影――和平が結ばれているはずの彼らが、なぜ?
「みんな落ち着いて!北門の方がまだ空いてるわ、そっちへ!」
ユキの声が響く。訓練用の軽装備に身を包んだ彼女は、動揺する市民を必死に誘導していた。恐怖に震える子どもを背負い、母を支えながら避難する彼女の姿は、周囲にわずかな希望を与えていた。
そのときだった。
「ユキ――ッ!」
走ってきたのは、泥だらけの姿のシアだった。
「シア! 無事だったのね!」
「うん! ……僕も手伝うよ、避難誘導!」
再会を喜ぶ暇もなく、2人は協力して人々を北門へと導いていく。だが、戦場に安全な場所などない。森のような騒乱の中、静かに忍び寄る気配に気づいたのは――遅かった。
「ユキ、後ろ――!!」
魔族が跳びかかる。振り返る間もなく、シアはユキを突き飛ばし、自らがその爪を受け止めた。
ぐしゃり、と鈍く肉を裂く音。
「シアァ!!」
ユキの叫びが木霊した。シアの体は吹き飛ばされ、地に叩きつけられた。意識が薄れていく中、彼はぼんやりとユキの姿を見た。
「ダメ……動くなって……!」
彼女の声が震えていた。シアは唇を動かす。
「ユキ……逃げて……」
けれどユキは立ち上がる。剣を握り、魔族に立ち向かう。氷の刃が生まれ、放たれる――しかし訓練生の力では、魔族には届かない。
「くっ……!」
攻撃は弾かれ、防戦一方。焦りと恐怖がユキを支配していく。もう、ダメだ。
――そのとき。
シアの意識の底、闇の中で声が響いた。
『あの子を、守りたい?』
暗闇の中に、ユキに似た“何か”が立っていた。髪の色も、瞳の光も、少しだけ違う。それでも面影は彼女だった。
『なら、力を貸してあげる。シア……あなたなら、できるから』
ぞわり、と全身を貫く感覚。シアの瞳に、黒と紅が入り混じる。
――彼は、立ち上がった。
「……どいて、ユキ」
声は低く、どこか別人のようだった。
シアの足元に、七色の魔法陣が浮かび上がる。
「火よ、焼き尽くせ」
爆炎。
「氷よ、凍てつかせろ」
氷槍。
「雷よ、撃ち抜け」
轟雷。
目を見開くユキ。魔族が、次々に焼かれ、斬られ、凍りつく。
その魔法は――全属性。それも、異常な精度と威力を持っていた。
けれど。
その光景はどこか、異様だった。魔法は美しいはずの色を纏いながら、禍々しいまでの黒い瘴気を帯びていた。
「やめて……! もう、やめてえええっ!!」
ユキの悲鳴に、シアの手が止まる。
そして、彼はゆっくりと振り返った。
その瞳に、うっすらと涙が浮かんでいた。
「ユキ……僕、なんで……?」
そのまま彼は、ゆっくりと崩れるように倒れ、意識を手放した。
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少女は、少年を抱きしめたまま動けなかった。
ただ、彼の背から滲む熱と、どこか遠くで囁く声が――彼女の胸に、ひどく不安な影を落としていた。
──つづく。
修正箇所とうあれば是非教えてください
未熟ですがよろしくお願い致します