表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
17/79

第17話『凍てついた刻(とき)』



「……あれ、煙?」


森の先、空を焦がすように黒煙が上がっている。シアは眉をひそめ、風の匂いをかぐ。


「誰かが襲われてる!」

エリスが表情を引き締め、すぐに駆け出そうとする。


カグヤは静かに目を閉じ、魔力の流れを探るように口を開いた。

「……魔獣だな。二体、それもかなりの手練だ」


「分担しよう。カグヤさんとエリスは西側。僕とユキは東へ!」


頷き合い、四人はすぐに二手に分かれた。



村の東――火の粉が舞い、瓦礫に覆われた道を走る。

崩れかけた納屋の陰に、怯える住民たちの姿があった。


「ユキ、あっちの家の中を! 僕はこの人たちを!」


「うん、任せて!」


ユキが中に入ると、年老いた女性が倒れていた。

彼女を背負って表に出たその瞬間――森の方角から黒影が躍り出た。


「魔獣っ!」


全身を覆う黒い体毛、硬質な爪、凶悪な魔力の波動。

ユキが反射的に魔法を展開しようとした――が、間に合わなかった。


「ユキ、下がれっ!」


シアが飛び込み、ユキの前に盾のように立つ。

魔獣の爪がシアの脇腹を裂いた。


「シアっ!!」


「……大丈夫……少し、掠っただけ……っ」


そう言う顔は苦痛に歪み、血が服を染めていた。



ユキは拳を握りしめる。


――私の判断ミスだ。焦ったせいで、シアが……!


怒りと悔しさ、そして恐怖が混ざり合う中、魔獣が再び跳躍する。


「もう、誰も傷つけさせない――!」


ユキの両手に冷気が収束する。

だがそれはいつもと違った。


冷たさの質が、異なる。


氷が広がるだけじゃない。何か――空間そのものが「静止」する感覚。

世界が、息を潜めるような……。


「――凍て、砕けろッ!!」


氷の槍が放たれる。しかし魔獣はそれを強靭な前脚で叩き落とす。


効かなかった――そのはずだった。


だが、次の瞬間。


魔獣の動きが、止まった。


ほんの一瞬。呼吸も音もない空間で、時が“凍った”ような沈黙。


ユキ自身も驚く。

今のは――本当に、氷の魔法だった?



「下がれ!」


鋭い声とともに、カグヤが魔力の雷を叩きつける。

魔獣は悲鳴を上げて森へと逃げた。


「……なんだったんだ、今の感覚は」


カグヤが呟いたが、その目はユキの方を見ていない。

彼にも何か違和感はあったようだが、“魔獣の動きが止まった理由”までは掴めていないらしい。



夜。

シアは治療を受け、ようやく息を整えていた。


その横で、ユキは静かに湖を見つめていた。


「私の魔法、今までと……何か違ってた。

ただ冷たくて鋭いだけじゃなくて……空気が、止まった感じがした……」


掌を見つめる。そこに残るのは、確かに氷魔法の余韻。

けれど、それだけじゃない“何か”があった。


「……あれは、氷だけじゃない……なにか……違う……」


ユキの瞳が揺れる。

凍てついたその刹那を思い出しながら、彼女は自分の中に芽吹いた“何か”を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ