第15話「創られた盾」
夜の風が、静かに草をなでる。
戦いが終わった草原の中心で、カグヤは焚き火の向こうに座り、ぽつりと口を開いた。
「僕の力は……“朽ち果て”させる力だ。触れたものを、否応なく壊す。制御できなければ、味方だって、町だって、全部……」
焚き火の火がはぜた。
「……昔、そうやって……僕は、自分の周りの人を……殺した」
重い沈黙が落ちる。ユキとエリスは目を伏せ、シアだけがまっすぐにカグヤを見ていた。
「だから、僕は一人で旅をしてた。誰かを巻き込まないように。けど、あの時……君の盾だけが、僕の力に抗った」
視線がシアに向けられる。
「普通なら……あれも、一瞬で朽ちるはずだった。でも、壊れなかった」
シアは傍らを見た。
……盾は、もうそこにはなかった。
「あれ……いつの間にか……消えてる?」
「だから聞くけど、あの盾。どうやって作ったんだ?」
ユキが身を乗り出すようにして尋ねる。
「え、えっと……僕もよく……覚えてなくて……。ただ、守らなきゃって、それだけで……」
シアが困ったように笑う。
「……やっぱり、そうか」
カグヤは少し目を細めた。
「君の力は、きっと“創造”なんだと思う。何もないところに、自分の意志で形を与える。存在しない盾を“創り”、守る力として具現化した」
「創造……?」
「そう。僕の力は、万物を“壊す”力。君の力は、その真逆……“創る”力かもしれない」
焚き火の炎がゆらりと揺れる。
「君の盾は、確かに朽ち果て続けていた。でも同時に、君が無意識に“創り続けていた”から、壊れたように見えなかったんじゃないかな」
「……」
自分の手を見るシア。そこに盾はないけれど、感覚だけは残っていた。
「カグヤ。君はどうやって……その力をコントロールできるようになったの?」
「……してないよ、まだ」
「じゃあ、どうやって今まで……?」
「壊さないように、気を張って生きてるだけ。それだけじゃ足りないときは、離れる。逃げる。……旅するしかない」
風がそよいで、焚き火をくすぐる。
「でも、もしそれでもいいなら……一緒に旅をしながら、教えてあげるよ。僕なりの、“壊し方”と“守り方”」
カグヤの瞳が、わずかに笑ったように見えた。
シアは力強くうなずいた。
「ありがとう。……カグヤ」
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