第14話「守るための力」
鈍い音が、地を揺らした。
シアは盾を構えて立っていた。全身が悲鳴を上げている。けれど、意識はまだ燃えていた。
「……やるね。まさか、ここまで耐えるとは思わなかった」
向かい合う銀灰の少年――カグヤは、ふっと息を吐きながら、手の中の瘴気を振るわせた。
その目は、鋭くもどこか迷いを含んでいた。
「でも、どうして……。僕の魔力で、どうしてその盾だけ腐らない?」
カグヤの力は、すべてを“朽ち果てさせる”。命も、鉄も、魔法さえも。その力でシアの剣は砕けた。地は溶け、空気さえ染まった。
……けれど、シアが握る漆黒の盾だけは、まるでその力を拒絶するように、変わらず存在していた。
「……わからないよ。僕も。けど」
シアは唇を噛んだ。
「この盾は……“誰かを守るための力”だって、そんな気がするんだ」
足元に倒れたユキとエリス。意識はあるが、動けない。二人を包むように、シアは盾を構える。
(僕は戦えない。剣も、魔法も……彼みたいに強くない)
でも。
(守ることなら、できる)
それだけは、誰にも負けない。そう信じていた。
「どうしてそこまでして、守るの? あの二人に、何か特別な理由でもあるの?」
カグヤの問いは、無感情に見えて、その奥には熱があった。
「理由なんて……いるのかよ」
シアが応える声は震えていた。
「大切だから。それだけで、十分だろ……!」
その瞬間だった。
「カグヤ!!」
立ち上がろうとするエリスの声が響いた。
「……あなた、なんでそんなに一人で戦おうとするの?」
エリスの声は涙で滲んでいた。
「今まで、どんなに辛かったのかは分からない。でも、これ以上壊さないで……! あなたにも、守りたいもの、あるんじゃないの!?」
カグヤの瞳が揺れた。
「僕は……」
その一言のあと、彼の気がわずかに逸れた。
その隙を、シアは見逃さなかった。
「──っ!」
シアが盾ごと体当たりをしかける。
「っ……!」
カグヤが反応した時にはもう遅かった。
盾の縁が、彼の胸にぶつかる。
ごぉん――と、鈍く重い音が響いた。
カグヤの体が、ふわりと宙を舞い、地面に転がる。
……静寂。
風が草を撫でる音だけが、辺りに残った。
「……やった……のか?」
膝をついたシアが、ぜいぜいと荒い呼吸を吐く。
倒れたカグヤの表情には、もはや敵意はなかった。ただ、どこか……晴れたような顔で、空を見上げていた。




