第13話「守るための創造(つくるちから)」
枯れゆく草の匂いが鼻を刺した。
焚き火の明かりが揺れ、パチリ、と小さな破裂音を立てる。けれどその温もりはすでに、辺りの空気に呑み込まれていた。
「……なに……?」
シアは思わず一歩後ずさった。目の前に立つカグヤの雰囲気が、一変していた。
かつての穏やかな表情はそのままに、それを縫うように、静かに世界が歪んでいく。カグヤの座っていた丸太が、音もなく灰と化し、土に還った。
「君の願いと、僕の運命。どちらが“勝つ”のかな?」
優しげな声。だが、そこに宿る冷たい響きに、シアは喉の奥が凍る感覚を覚えた。
「やめてくれ、カグヤ……!」
願うように呼びかけた声は、足元に落ちた水滴のように虚しく消えた。
「君の“望み”が本物なら、証明してみせてよ――彼女たちを、守ってみろよ」
カグヤが顎で焚き火の向こうを示す。そこには、胸を押さえて倒れかけているユキとエリスの姿があった。
「ユキ!? エリス!!」
名前を叫ぶ。だが彼女たちは応えない。まるで、空気そのものが意識を奪っているかのように、二人の呼吸は浅く、途切れそうだった。
「どうして……! なんでこんなことをするんだよ!」
問いかけに、カグヤはどこか寂しげに微笑んだ。
「僕は、何をしたいんだろうね……知りたいだけさ。君の“答え”を」
その瞬間、地面が脈打つように震えた。足元から広がる黒ずんだ魔力の波紋が、大地を蝕む。生きていたはずの草が、次々と灰へと変わっていく。
――戦わなきゃ。
恐怖を飲み込み、シアは手を構えた。
「放出魔法――風槍!」
何本もの風の槍が放たれる。だが、カグヤに届く前に空気に呑まれ、失速していく。
「そんな……!」
魔力の抵抗。まるでこの場所そのものが、敵になったような感覚。
そのとき――。
『……力を貸そうか?』
声が聞こえた。甘く、冷たく、耳元に囁くような――ユキの声に似た“影”。
振り返ると、焚き火の明かりの向こうに立つ影があった。肩には、金色の蝶が一羽。
『使え――力を。さもなくば、彼女たちは……死ぬ』
「……嫌だ。僕は、あの力は……使わない」
震える声で拒絶する。だが、脳裏に暴力的な衝動が流れ込んでくる。頭の奥が熱い。暴れたい――壊したい――。
『使わなければ――勝てない』
「それでも……!」
地面に膝をついた瞬間、別の声がシアの胸を打つ。
「――シア、ダメッ!!」
ユキの声。目を見開いた彼女が、震える手を伸ばしていた。
「ユキ……」
その隣で、エリスもフラフラと立ち上がる。
「君が……君じゃなくなるのだけは、見たくないんだよ……」
言葉が胸に突き刺さる。
「……でも、僕が……僕がどうにかしなきゃ」
影の声が再び響いた。今度は、どこか柔らかく。
『今回は暴走させない――その“コツ”を教えてあげる』
『君の力は“全属性”……でも本質は、“作り出す力”。“何を作りたいか”を、強く思いなさい』
「……“作る力”?」
思い浮かべたのは、あの夜の焚き火。みんなで囲んだ小さな灯。笑い合った時間。
「……なら!」
シアは立ち上がり、両手に力を込めた。蒸気、雷光、氷片、風刃――すべての属性が渦を巻く。
「僕は“盾”を作る。守るための、世界で一番頑丈な盾を!」
光と魔力が交錯する。
一枚の魔法の盾が、空中に浮かび上がる。多層に重なった魔法陣が刻まれ、鋼鉄よりも強く、命よりも温かい。
「行くよ、カグヤ――!」
盾を前に掲げ、シアは駆け出した。彼の背中から、風が追い風となって吹き抜ける。
今の彼の力は、暴走ではない。希望と願いを込めて、己が選び取った“創造”の力だ。




