【第12話:交換された運命】
朝焼けが淡く辺りを照らし始める頃、焚き火の炎はまだかすかに揺らめいていた。
その前で、シアとカグヤは静かに向かい合って座っていた。
「……蝶について、何か知っているの?」
シアが問いかけると、カグヤは少しだけ瞼を伏せ、柔らかく微笑んだ。
「君は……どこまで知っているのかな?」
「僕は……何も知らない。ただ、蝶に出会ってから、僕は変わった。魔法が使えるようになった。それだけなんだ」
その言葉に、カグヤの瞳が一瞬だけ揺れる。
「蝶はね、極めて稀に人の前に姿を現すんだ。そして……その人の運命を“入れ替える”」
「運命を……入れ替える?」
「そう。人は、本来の“運命”に沿って生きていく。でも蝶は、その運命を別のものに変える。そして、新しい運命に見合った力を与える。ただし――」
そこでカグヤは焚き火を見つめながら、口を閉ざす。
「その力に身体がついていかなければ、死ぬ。蝶に選ばれた多くの人間は、変化に耐えきれずに命を落とす」
シアは言葉を失う。そしてカグヤは静かに尋ねた。
「君は……どんな運命を望んだの?」
「……“守る力”が欲しかった。ただ、それだけだ。僕の魔法は……全部の属性が使えるようになった」
その言葉に、カグヤの手が強く握られた。
その細く長い指が震えているのを、シアは見逃さなかった。
「じゃあ……カグヤはどうして蝶のことを知ってるの? もしかして、君も――」
「……知らなくていいことだよ」
カグヤは静かに微笑む。けれど、その瞳の奥にあったのは、どこか諦めと絶望の色だった。
「でも、どうしても聞きたい。君も何かを望んだんだよね? だから力を得たんじゃないの? それとも――なにか追ってるのか?」
問い詰めるシアに、カグヤはぽつりと呟いた。
「君が得たその力……元は、誰かの運命だったんだよ」
「え……?」
「蝶は、運命を“移し替える”。君の“守りたい”という想いは、君だけのものじゃないかもしれない。僕は……誰の運命を受け継いでしまったんだろうね……?」
その言葉と共に、カグヤの周囲の草木がふいに色を失っていく。
生命力を吸われたかのように、枯れ、萎れていく。
「……君は守る力を望んだ。なら、証明してみせてよ。君に与えられた“その運命”で、本当に守れるのか」
カグヤの声は穏やかなまま、しかしその背後に、何か破滅的な“力”が揺らいでいた。
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