第11話「灰の夜、焚き火の灯り」
焚き火が静かにぱちぱちと音を立てている。
炎の揺らめきが、三人と一人の影を照らし、夜の帳の中に小さな温もりを生み出していた。
「そろそろ、君たちも休むといい」
焚き火を整えていたカグヤが、柔らかな声音でユキとエリスに声をかける。
「……お言葉に甘えて、休ませてもらうわ」
ユキはわずかにためらいながらも、眠りにつく支度を始めた。
一方で、エリスは焚き火の向こうのカグヤをじっと見つめていた。
どこか影を落とすその横顔が、どうしても気になってしまう。
「ねえ、カグヤって……旅してる理由、あるの?」
「……自分の居場所を探しているんだ。
身内も、帰る場所もない。だから、世界を歩いて、生きる意味を探してるんだ」
その声は穏やかだったが、どこか諦めを含んでいた。
エリスはしばらく黙ったまま炎を見つめていたが、意を決したように言った。
「じゃあ、私たちと旅しようよ。……ね?」
カグヤは焚き火に木の枝を一本くべると、小さく笑った。
その笑みには優しさと、同時に遠ざけるような切なさがあった。
「ありがとう。でも……今は、まだ一人でいいんだ」
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翌朝
静かな朝焼けが空を染めていた。
焚き火の名残が微かに温もりを残し、冷たい空気の中にまだ夜の香りが混じっている。
「……ん、ここは……?」
ゆっくりと瞼を開いたシアが、寝袋の中で身を起こした。
その顔に、焚き火の向こうから声がかかる。
「おはよう。……目覚めたんだね」
カグヤだった。静かに湯気の立つカップを差し出す。
「コーヒー、苦くないようにしたから」
「ありがとう……君は?」
カグヤは焚き火の向かいに座り、灰色の髪を風に揺らしながら答える。
「昨日、君が倒れてたところに通りかかってね。
君の仲間が必死に介抱してた。ここは、僕の仮拠点なんだ。しばらくなら安全だよ」
「……助かったよ。本当にありがとう」
しばらく無言が流れた。シアは火を見つめながら、ぽつりと語り出す。
「僕……蝶に出会ってから、変わった気がする。身体も、魔力も……何かが」
その瞬間、カグヤの表情が少しだけ強張る。
彼は視線を伏せ、かすかに呟いた。
「……蝶、ね」
焚き火の中で、枝が小さくはぜた。




