表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/68

第四話 天才の誕生

「シルフィード家?魔力のない跡取りが出た貴族だよね?」


「今年は末の娘に望みを託しているとか...」


 ささやき声が次々と重なっていく。容赦ない囁きが教会中に広がっていった。


 レインは拳を固く握り、祭壇へ向かうリリアの小さな姿を見守った。今日のために選んだ淡い色の絹のドレスは、彼女を朝露に濡れた雛菊のように見せていた。


 リリアは両手を水晶に置いた。最初は、何も起こらなかった。ソフィア司教の優しい表情が固くなり、小さな溜息と共に、次の人を呼ぼうとした。


 その時、水晶の中心が突如として輝きを放ち始めた。


 最初は清らかな白。次いで燃え上がる炎の赤、生命の息吹を感じさせる翠緑、海のような青、大地を思わせる黄土色、眩い黄金色、神秘的な紫色...。


 七色の光が万華鏡のように水晶の中で交錯し、やがて誰も見たことのない色へと融合していった。


 それは、まるで星空のような漆黒。だがその暗闇は死のそれではなく、無数の色とりどりの光が瞬く、生命に満ちた闇だった。


 教会は静まり返った。先ほどまでの私語は消え、誰もが息を呑んでいた。


 グレースの魔法モノクルが床に落ちる音が響いたが、誰も気付かない。彼女の指が震えながら水晶を指し示す。


「こ、これは...これは...」言葉を詰まらせた。


「カ、カオス属性...」

 ヴィクター教授が足を踏み外しそうになりながら後ずさった。老教授の顔が驚愕で歪む。


 クロード騎士が突然立ち上がった。椅子が床に倒れる音が、静まり返った聖堂に鋭く響き渡る。


 周囲の人たちは呆然としていた。大きく口を開けたまま固まる者、目を擦って夢かと疑う者。

 普段は威厳に満ちた貴族の若様たちさえ、今は作法など忘れ、驚愕の表情を隠そうともしなかった。


 祭壇の上のリリアは、ただ困惑の表情を浮かべていた。何が起きているのか分からず、兄の方を振り返る。


 レインは何かを伝えようと唇を動かしたものの、言葉にはならなかった。


「奇跡だ...これこそ真の奇跡だ!」

 ヴィクター教授は興奮のあまり全身を震わせながら叫んだ。

「お嬢さん、これが何を意味するか分かりますか?あなたはあらゆる属性の魔法を、制限なく操れるのです!」


 モノクルのことなど既に頭にないグレースが祭壇へと駆け寄り、興奮で裏返った声を上げた。


「リリア!どうか私を師として!魔法の奥義をお教えさせていただきたく...」


「いいえ、王立魔法学院こそが彼女にふさわしい場所です!」


 ヴィクター教授が、グレースの言葉を遮るように声を上げた。


 その言葉に、クロード騎士はただ立ち尽くしたまま、言葉を失っていた。


 議論が白熱する中、ソフィア司教が突如として厳かに手を掲げた。その仕草一つで、聖堂内の喧騒は水を打ったように静まり返る。


 彼女はリリアの目をまっすぐに見つめ、静かに問いかけた。


「あなたには何が見えているの?」


 リリアは首を傾げて考え込むと、無邪気な笑顔を浮かべて答えた。


「たくさんの色が見えるの。きれいな色がいっぱい、踊ってる!」


 レインは人々に囲まれた妹の姿を呆然と見つめていた。喜び、不安、誇り、恐れ...相反する感情が胸の中で渦を巻く。

 けれども最後には、安堵の微笑みが彼の唇を柔らかく彩った。


 聖堂のステンドグラスを通り抜けた光が、リリアの姿を優しく包み込んでいた。


 色とりどりの光に照らされた少女の周りで、誰もが気付かぬうちに、新たな物語の幕が静かに上がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ