第二話 教会への道で
今、リリアと過ごしていると、時々前世の妹のことを思い出して、後悔の念が胸をよぎる。
「せめて、この世界では、いい兄になれたらな……」
レインは鏡に映る整った顔立ちの少年を見つめながら、ぼんやりと考え込んだ。そして、服装を整えて部屋を出た。
一階のダイニングに降りていくと、父と母と妹がテーブルを囲んでいた。
テーブルに並んでいる朝食は普段ほど豪華ではないけれど、明らかに母のカロリンが作ったものだった。
年に数回しか味わえない、この家族にとって最高のもてなしだ。
リリアは両手で頬を支えながらテーブルに座り、得意げな表情を浮かべている。両親も笑顔だ。
「もう、レインってば遅いよ〜。まるでお爺さんお婆さんみたい。私たちずっと待ってたんだからね……」
リリアは頬を膨らませて文句を言った。
レインは容赦なく、妹の柔らかい頬をつねった。
「いたたたた……何するの、もう!」
リリアは膨れた頬を押さえながら、怒ってレインを睨んだ。
レインは首を傾げて、にっこりと笑う。
「今日のリリア、可愛く着飾ってるから、つい触りたくなっちゃった。へへ」
「もう、あんたって……」
リリアは人を食べそうな顔をしていたけど、レインにそう褒められて、内心ではすっごく嬉しかった。
父と母はそんな二人の様子を見て、安心したような、幸せそうな笑みを浮かべた。
「あなたたち二人の仲がこんなに良くて、私たちも安心だわ」とキャロラインが急いで取り持つように言った。
「ふん!」
リリアは顔を背けて、両手を腰に当てて怒ったふりをした。でも、時々チラチラとレインの方を見ていた。
でも、レインはふと前世の妹のことを思い出して、一瞬呆然としてしまった。何だか切なくなって。
リリアは肘でレインの脇腹をグイッと突いた。「なによ、その顔。急に暗くなっちゃって」
「ごめん……」
レインは頭を掻きながら、苦笑いを浮かべた。
朝食を済ませた後、リリアとレインは教会へと向かった。木々の隙間から差し込む陽光が石畳の上に斑模様を作っている。
リリアは前を跳ねるように歩いていて、黒い髪が弾むような足取りに合わせて、ふわふわと揺れていた。
「レイン!教会の魔法クリスタルがすっごくキレイだって聞いたの!」
リリアは興奮して振り返り、憧れの光を瞳に宿して言った。
「私もクリスタルを光らせることができたらいいのに!」
レインは足を遅くした。妹の無邪気な憧れを聞きながら、胸が鈍く痛んだ。
三年前、初めてあの荘厳なクリスタルの前に初めて立ち、期待に胸を膨らませて両手を差し出したのに、何も起こすことができなかった。
Fランクと判定されて、彼は生まれながらに魔力を一切持たない人間。
いわゆる「魔力無適性者」。
周りの人々の失望の眼差し、小声で囁きあう声、そして必死に平静を装って慰めてくれた両親の姿——それらは全て、刃物のように彼の記憶に刻み込まれていた。
それでも、家に帰ってリリアが心配そうに尋ねてきた時も、レインは落ち込む気持ちを必死に押し殺して、笑顔を保ち続けた。
何でもないかのように振る舞った。
妹にそんな暗い感情を見せたくなかった。それが兄としての務めだと思っていたから。両親もまた、特に何も言わなかった。
「レイン?」
レインの沈黙に気づいたリリアは、駆け戻って彼の手を優しく握り。
「何考えてるの?」と問いかけた。
レインは微笑みながら、妹の温かい手を優しく握り返した。
「何でもないよ。ただ……リリアが成功することを願ってるだけさ」
リリアは顔を上げて、屈託なく言った。
「心配しなくていいの!私が魔力適性者なくても、レインがいるでしょ?確かに大魔法師になるのが夢だけど、レインみたいに普通の人として楽しく生きるのも、悪くないよね」
そう言って、リリアは晴れやかな笑顔を見せた。
リリアの言葉に、レインの胸の中が温かくなった。
彼は遠くそびえる教会の尖塔を見上げながら、静かに祈った。
「せめてリリアだけは魔力適性者なれるように。僕みたいに、魔力が全くない人間にだけは……」
教会の鐘の音が、朝の澄んだ空気の中に優しく響き渡る。まるでこれから始まる魔力適性検査の儀式への序曲のように。