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第十六話 父の承認

 気が付けば、一ヶ月という時が静かに流れていた。

 庭に佇むレインを見つめながら、チャールズの胸に安堵と感慨が込み上げる。

 特に付与魔術も、レインは見事に会得し、むしろ教師である自分を凌駕する領域にまで至っていた。


 しかし、チャールズはある不思議な様子に気づいていた。

 家に伝わる秘術を使っていないはずなのに、レインの周りには微かな魔力の波が漂っているのだ。


 シルフィード家には代々、魔力を感じ取る鋭い力が備わっている。

 その波の性質は、あまりにも見覚えがあった——それは、リリアの身に纏う魔力とほぼ同じものだったのだ。


 この不思議な現象は、チャールズの知る全てを超えていた。

 恐らくレインとリリアの間には、目には見えない深い絆が結ばれているのだろう。

 だが、その正体は依然として謎に包まれたままだった。


 書斎の窓辺に立ち、庭で真剣な表情で剣を振るうレインを見守る。

 朝日が少年の姿を優しく照らし、その影を庭石に長く伸ばしていた。


 もう、この不思議を追い求める時ではないと、チャールズは静かに悟っていた。

 一人の父親として、今できることは、ただ見守ることだけだった。

 子供たちが自分の道を歩み、自分だけの物語を紡いでいくのを。


 穏やかなそよ風が遠くの花の香りを運び、そして近づきつつある別れの予感を伝えていた。

 レインの剣を振る音が、朝の静けさの中に響いていく。


 夜も更けた頃、一日の厳しい訓練を終えたレインは自室に戻った。夜の静けさの中、身体を清めた後、ベッドに腰掛け、能力表示を呼び出した。一ヶ月の猛練習の成果が、数値となって現れている。


【ステータス】

 名前:レイン

 レベル:18

 魔力適性:F(無適性)


【能力値】

 生命力: 8(8)▸ HPの上昇値に影響

 精神力:25(9)▸ FPの上昇値に影響

 持久力: 5(8)▸スタミナの上昇値に影響

 筋力: 3(8)▸物理攻撃力・防御力に影響

 技量:20(9)▸詠唱速度・武器技量に影響

 知力:24(8)▸魔法威力に影響

 感知:11(9)▸状態異常付与・発見力に影響


【習得技能】

「四方斬り」「円舞剣」「剣刃乱舞」「剣技『高山流水』」「付与魔術」「ミカエルの加護」「鑑定」「危険感知」...


【特記事項】

 ・魔力適性Fにより魔法の使用が制限される


 最初二つの能力値が重なり合い、レインの力を鮮明に映し出していた。

 数値そのものは妹からの基礎能力、括弧内は神秘の力による加護の値を示している。

 厳しい訓練の甲斐あって、剣術も魔術も、加護の値は着実に伸びていた。


 そして何より嬉しかったのは、基礎能力の成長だった。

 レインは思わず微笑んだ。

 それは、遠く離れた場所でリリアもまた、強くなり続けているという証だった。その事実が、彼の心をより一層奮い立たせた。


 月明かりが窓から差し込み、能力表示の青い光と混ざり合う。明日もまた、新たな強さを求めて剣を振るう。


 疲れた腕をさすりながら、レインはこの一ヶ月を思い返していた。


 朝露の中で剣を振るい、汗を流した朝の稽古。そして夜には、蝋燭の明かりを頼りに、一人黙々と本を読み漁った時間。

 全てが、今の自分を作り上げる大切な一コマだった。


 窓の外に広がる星空を見上げる。無数の星々が、静かに瞬きを繰り返している。レインはそっと息を吐いた。


 旅立ちの時が、すぐそこまで迫っていることを、彼は肌で感じていた。これまでの日々は、その準備に過ぎなかったのかもしれない。


「コンコンコン」


「私だ」

 チャールズの落ち着いた声が戸口から聞こえてきた。

「書斎まで来てくれないか。話がある」


 足音が遠ざかっていく。レインは能力表示から意識を戻し、素早く上着に着替えると、そっと部屋を出た。


 廊下には魔法の灯が幾つか掛けられ、深夜の闇に柔らかな光の輪を描いていた。馴染んだ道筋を辿って、レインは書斎へと向かう。


 重厚な木戸を開けると、温かな明かりが漏れ出してきた。

 そこで目にしたのは、父上だけではなく、いつもなら早くに休むはずの母上、カロリンの姿もあった。書斎には紅茶の香りが静かに漂っている。


 普段は父の執務スペースとして使われるこの場所が、今夜は何か特別な空気を纏っているように感じられた。

 テーブルの上には、湯気の立つ紅茶が三つ用意されている。


 チャールズに促され、レインは向かいの柔らかな椅子に腰を下ろした。

 揺らめく燭の光に照らされた父の表情には、いつにない厳かさが浮かんでいた。


「お前は、私の予想をはるかに超えてくれた」

 チャールズの声には、抑えきれない誇りが滲んでいた。

「少なくとも今なら、お前のやりたいことを任せられる。危険な目に遭っても、身を守れるだけの力はついた」


 傍らでカロリン夫人が、茶杯の縁に優しく指を這わせながら、寂しさの滲む柔らかな声で呟いた。

「レインちゃんまでこんな遠くへ行ってしまうなんて、ママ、寂しくなってしまうよ」


 両親の言葉に、レインは思わず拳を握りしめた。胸の内に込み上げる感情を抑えながら、言葉を紡ぐ。


「この一ヶ月、父上の訓練、本当にありがとうございました。最初は、自分の置かれた状況も理解せず、無謀で的外れな決断をしてしまいました。でも、父上の訓練のおかげで、希望が見えてきました」


 チャールズは茶杯を手に取り、一口啜ってから静かに尋ねた。

「では、いつ出発するつもりだ?」



最後までお読みいただきありがとうございます。

感想・高評価をいただけるととても励みになります。

完結できるように頑張ります。

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