表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/68

第十三話 初めての練習

「受け取れ!」


 チャールズの声が響き渡る。木製の影が空中を弧を描いて飛んだ。


 レインは反射的に手を伸ばし、それを受け止めた。手に馴染む上質な木剣。刃には無数の訓練の痕跡が刻まれていた。


「父さん、これは...?」

 レインが木剣を回しながら問いかける。


 チャールズの眼差しが鋭くなった。

「お前が旅立つまでの間に、シルフィード家の剣術と付与魔術を伝授しよう」

 一呼吸置いて、

「そして、我が家の秘術もな」


「さあ、その木剣で攻撃してみろ。全力でだ」


 チャールズが一歩前に出る。軽く手を振った瞬間、地下室全体に目に見えない重圧が満ちた。レインの血が震え、呼吸さえ困難になる。


「今のお前の実力と、フレドへの覚悟を見せてもらおう」


 チャールズは息子の現在の実力に大きな期待はしていなかった。これまで普通の子として育て、特別な訓練は一切施していない。

 今、彼が見たいのは息子の決意と精神力——これから始まる厳しい訓練の礎となるものだった。


 レインは深く息を吸い、剣の柄を両手で握り締める。

 まるで本能に導かれるように、自然と戦闘態勢を取っていた——右足を引き、重心を下げ、木剣を胸の前で水平に構える。


 チャールズの目が輝きを増した。明らかに息子の姿に驚きの色が浮かぶ。


 その時、レインは何かを思い出した。瞳を細める。


『スキル発動:鑑定』


 次の瞬間、チャールズのステータスパネルがレインの視界に広がった。父の真の実力を見るのは初めて——心臓の鼓動が加速する。


【ステータス】

 名前:チャールズ

 レベル:26

 魔力適性:F(無適性)

【能力値】

 生命力: 26

 精神力:15

 持久力:27

 筋力: 25

 技量:28

 知力:13

 感知:29


【習得技能】

「瞬閃突き」「大地裂破」「四方斬り」「円舞剣」「剣刃乱舞」「剣技『高山流水』」……


【特記事項】

 ・魔力適性Fにより魔法の使用が制限される


 レインは父のステータスパネルを凝視し、その数値に心が震えた。


(すごい強さだ......でも、魔力ランクは僕と同じFか......)


 その発見に、特別な驚きはなかった。先ほど父が語ったように、シルフィード家は代々魔力が低く、リリアだけが例外だという。

 しかし、魔力はFランクでも、他の能力値は想像を遥かに超えていた。


 木剣を握る手が微かに震え、眉間に皺が寄る。

(このまま突っ込んでも、こてんぱんにやられるだけだろう......)


 チャールズは息子の躊躇いを見逃さなかった。声が一転、厳しく響く。

「どうした?なぜ攻撃しない?勝ち目がないと思ったか?」


 一歩前進する父。威圧感が更に増す。

「もし、お前の目の前にいるのが私ではなく、敵だったらどうする?」


「敵が強いからと言って、怯むのか?」

 チャールズの言葉が地下室に響き渡り、一言一言がレインの心に重く突き刺さる。


「今ここで敵に立ち向かわなければ、その敵は他人を、あるいはリリアを傷つけることになる」


 最後の一言が、レインの心の琴線に触れた。


 瞳の色が変わる。

 躊躇いも迷いも消え失せ、代わりに今までに見たことのない強い決意が宿る。

 木剣を握る手に、更なる力が込められた。


 次の瞬間、レインの姿が疾風となって飛んだ。


 稲妻のような速さで繰り出される一撃。木剣が空気を切り裂き、鋭い光を描く。

 床の魔法陣が彼の動きに呼応するように輝き、決意に満ちた表情を浮かび上がらせる。


 チャールズの目に驚きの色が走った。

(この速さは......予想以上だ)

 特別な訓練を受けていない息子が、ここまでの瞬発力を見せるとは。確かな才能の証だった。


 地下室の空気が一変する。魔法水晶の輝きが揺らめき、父子の戦いに厳かな空気を纏わせていく。


 木剣が鋭い弧を描き、チャールズの喉元を狙う。技こそ粗いが、その速度と力は予想を遥かに超えていた。


 チャールズは軽やかに身を翻し、一撃をかわす。目に喜色が浮かぶ。だがレインの攻めは止まらない。まるで本能に導かれるように、息つく間もない連撃を繰り出す。


 左からの斜め切り、右への薙ぎ払い、下から突き上げる一撃——動きこそぎこちないが、攻める角度は鋭く、隙を突く。

 チャールズは息子の攻撃を軽々とさばきながら、その変化を観察していた。表情が喜びから驚きへと変わっていく。


(これは......訓練を受けていない者の戦闘本能とは思えない)


 レインの一振り一振りが冴えわたる。次第に、体内に暖かな力の流れを感じ始める。

 剣を振るうたびにその感覚は強まり、動きは滑らかに、反応は鋭くなっていく。


「ドン!」


 木剣と木剣が激突する重い音が響く。チャールズが半歩後退し、目に信じられない色を浮かべる。

 息子の姿は、完全に想定を超えていた。戦いの中で高まっていく気迫、直感的とも言える戦闘センス......


 魔法水晶が、この異常な戦いを感じ取ったかのように明滅を繰り返し、父子の姿に揺れる光と影を投げかける。

最後までお読みいただきありがとうございます。

感想・高評価をいただけるととても励みになります。

完結できるように頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ