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第十二話 シルフィード家の秘密

 壁に埋め込まれた魔法結晶が、二人の足音に反応するように次々と灯りを放ち、柔らかな青い光が階段を照らし出す。

 地下からは、古い匂いを含んだ冷たく湿った空気が漂ってきた。


「これは...」

 レインは目を見開いた。幼い頃から数えきれないほど出入りしてきたはずの書斎なのに、こんな秘密が隠されていたなんて。


 チャールズは振り返った。魔法結晶の放つ青い光が、父の姿を神秘的な輪郭で縁取る。

「来い」


 レインは喉を鳴らし、父の背中を追う。一歩進むごとに未知の領域へ足を踏み入れているような感覚に、鼓動が早くなっていく。

 この地下に何が隠されているのか、想像が次々と膨らんでいった。


 螺旋を描く階段は果てしなく続き、魔法結晶の放つ青い光が、石壁に揺らめく影を投げかける。


「父上、いったいどこまで降りるのでしょうか」

 レインの声が狭い階段に響き渡る。不安と期待が入り混じった問いかけだった。


 チャールズは答えない。ただ黙々と前を行く。

 それからおよそ十分。ようやくレインの目に、階段の先にある光が飛び込んできた。


 レインは思わず息を呑んだ。目の前に広がっていたのは、想像を遥かに超える広大な地下室。


 家の庭園よりも広いその空間は、まるで地下宮殿のようだった。


 聳える丸天井には、無数の光る水晶が散りばめられ、まるで星空のように輝いている。

 その輝きは地下空間を昼のように明るく照らし出している。


 レインは思わず首を傾げながら見上げた。屋敷の真下にこれほどの空間が隠されていたなんて。


 床には精巧な魔法陣が刻まれ、銀色の光を放ちながらゆっくりと転がっている。

 大広間の両壁には、まるで博物館のように武具が美しく陳列されている。それぞれが専用の台座に丁寧に据えられ、その姿は圧巻だった。


 白く冴えわたる精鋼の長剣、魔法を纏ったルーン戦斧、そして微光を帯びた秘銀の甲冑。


 しかし、レインの目を最も惹きつけたのは、大広間の最奥に鎮座する台座だった。


 純白の大理石台座の上で、一振りの剣が宙に浮かんでいる。


 クリスタルのように透き通ったその刀身は、ゆっくりと回転しながら神秘的な輝きを放っていた。


 柄は秘銀で作られ、ムーンストーンとサファイアが優美な紋様を描いている。刀身には不思議な文様が浮かび上がっては消え、その軌跡が空気中に淡い光の跡を残していく。


 台座の周囲には複雑な魔法陣が刻まれ、剣を宙に浮かせ続けるための魔力を絶え間なく放出している。

 その様子は、まるで剣そのものが生きているかのようだった。


 レインは立ち尽くしたまま、部屋中の武具を見渡していた。これほどの数々を目の当たりにして、言葉を失っている。

 何か言いたくても、どこから話せばいいのか分からない。全てが、あまりにも衝撃的すぎた。


「どうだ?」

 チャールズは息子の驚きに満ちた表情を見つめながら、意味ありげな笑みを浮かべた。


 彼が一歩を踏み出すと、床の魔法陣の上で革靴が澄んだ音を響かせた。その音が静かな空間にこだまする。


「不思議に思っているだろう」

 父の声が地下空間に響き渡る。

「なぜ魔力の低いシルフィード家が、この地位を保ってこられたのか。そして私がどうしてアンダーソン領の領主たり得ているのか」


 レインの頭の中で、歯車が一気に回り始めた。


(シルフィード家は......ずっと魔力が低かった?)

 これまで一度も聞かされなかった家の秘密に、彼は息を呑む。次々と浮かぶ疑問が、まるで連鎖反応のように広がっていく。

(じゃあ、父さんも...?)


 そして、ある事実に思い至って目を見開いた。

(そうか...だから僕がF級の魔力なんだ。考えてみれば、当然の結果だったんだ)


 自分の魔力の低さに悩んできたレインだったが、今この瞬間、それが決して偶然ではなかったことを悟っていた。


 しかし、その瞬間、新たな疑問が頭を突き抜けた。

(待てよ。もし本当に家族の魔力が低いなら...どうしてリリアはあんなに強い魔力を...?)


「どうして...?」

 レインは足早に父の後を追い、その背中に問いかけた。瞳には知りたいという強い思いが宿っている。


 魔法水晶の柔らかな光が彼の顔を照らし、疑問に満ちた表情を浮かび上がらせていた。


 チャールズは振り向いた。その表情には、誇りが満ちていた。


「それはな」

 彼の声には深い自信が滲む。

「シルフィード家に伝わる剣術と、用具への魔力付与技術があるからだ」

 父は手を上げ、周囲の武具を示した。


 そして、父の声色が一変した。低く、神秘を帯びた響きに。

「そして何より重要な、家に伝わる秘術がある」

 一瞬の間。

 チャールズはレインの瞳を真っ直ぐに見つめ、重みのある言葉を紡いだ。


「生まれながらに魔力を持たない者でさえ——」

 さらなる間。

「魔法を扱えるようになる秘術だ」


 その言葉が空気に溶けた瞬間——

 周囲の魔法水晶が一斉に輝きを増した。まるで父の言葉に呼応するかのように、床一面に刻まれた魔法陣も鮮やかな光を放ち始める。














最後までお読みいただきありがとうございます。


感想・高評価をいただけるととても励みになります。


完結できるように頑張ります。

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