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ラスボスキャラに転生したので原作以上に覇道を進むことにした  作者: 城之内


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第20話


 血しぶきが舞った。

 

 背中に鋭い痛みを感じつつも、頬を緩めながらユリフィスは腕の中の少女を見下ろした。


 彼女は驚いた表情でユリフィスを見上げている。

 思わず安堵した。


 ブラストの大切な人は間違いなく生きている。


「……お、お前……」


 彼女の後ろで、尻もちをついているブラストは目を見開いて呆然としていた。


 ユリフィスは良かったと、素直にそう思った。

 原作ではブラストは裏社会を支配する大犯罪者として主人公の前に立ち塞がる強敵だ。


 そんな奴が魔導帝の一部下である事に戦慄しながら主人公は戦いを挑んでいく。


 もし、彼の恋人であるレイサが死んでいたら。

 ブラストは怒りのままに鬼化して暴れ、その後殺戮の限りを尽くす。


 そして恐らく指名手配されていただろう。


 騎士団や教会からの捜査を逃れるために、裏社会に身を潜めたのだとしたらその後の展開に納得がいく。


 だがその結果、彼の半生はきっと血に塗れた戦いの連続だったはずだ。

 ユリフィスと同じく愛する者の死によって彼は闇落ちした結果、最後は本物の英雄(原作主人公)によって悪として倒される。


 あまりに救われないと、ユリフィスは思うのだ。


「しまったッ、調子に――」


「乗りすぎたな」


 ユリフィスは背後を振り向きながら、長剣を抜いた。その瞬間、ユリフィスは一瞬だけ()()()竜化を発動して第二形態へ移行する。


 古今東西のラスボスは、よく形態を変化させる。

 当然、彼もそうだ。


 それも三つの形態を持っている。


 第一形態は人族と大差ない人間形態。


 第二形態は、人型のままで竜の鱗を鎧のように全身に纏う竜人形態。

 とは言え、傷が治るわけじゃない。


 そこはゲームのようにはいかないが、目的はレイサを救う事だ。

 既に目的を達成しているのだから、この場にいる必要はない。


「……また後でな」


 不気味な呟きと共にユリフィスは長剣を振るった。


 その一刀がジゼルの首を切断する寸前。


 ジゼルは十字剣を斬撃の軌道に割り込ませて盾とした。

 しかし、その威力は予想以上で、到底抑えられずジゼルは物凄い速さで屋敷の壁目掛けて吹き飛んでいく。


 それを見送ったユリフィスは一人無感情に眺めている。

 

「俺の身体に傷ができるとは。まさかあの剣のせいか……?」


 だが、ブラストとレイサは剣を振ったせいで流れ出る血の量が多くなった彼を心配した。


「ちょ、ど、どこの誰か知らないけどありがとう! 本当に! でももう動かないほうがッ」


「……お前……何で」


 背後に庇う二人を他所に平然としているユリフィスは屋敷に突っ込んだ十字剣を持つ青年を片眼鏡型の魔道具(マジックアイテム)、【探究者の義眼】に魔力を流して視た。


名前 ジゼル

レべル:59

異名:浄剣(魔に属する者と相対した時、全能力7%上昇)

種族:人族

体力:512/600

攻撃:258+140

防御:234

敏捷:304

魔力:19/284

魔攻:187

魔防:288

固有魔法【未来視認(フォアサイト)

血統魔法:【なし】 

技能:【危機予知】【未来視】【身体能力強化】【浄掃剣】




 


 現時点のブラストより一回り高いステータス。

 魔の者への特攻能力。


 そして未来を視る固有魔法。


 確かに強い。

 流石は教会の最強戦力である【正義を正す者達】だ。


 固有魔法は、偉業を達成した者に与えられる崇高な力。というのがこの世界での認識である。

 まさしく神に祝福された選ばれし英雄の証。


(だが、魔力が著しく減っている。未来を視る魔法か。強すぎる故に代償が大きいわけだ)


 だからこうなる未来を視れなかった。レイサを人質に取ったままでいれば良かっただけなのに、余計な事をするからこうなる。


 更にユリフィスは彼が持つ特徴的な獲物、十字剣も【探究者の義眼】で鑑定した。



【浄剣ハーミア】攻撃力+140

レア度A

長い年月聖水に浸らせ続けた聖銀(ミスリル)金属を加工して造られた剣。魔に属する者への特攻能力がある。また不浄を浄化し、魔物の能力を封じる。ステータスに差がありすぎると効果が及ばない。



(なるほど。俺には通じなかったが、ブラストには通じるか)


 メタ的に言うと、ラスボスの変身を封じる事などできないというわけだ。


「お前には……一生かかっても返せない借りができた」


 情報を一通り調べ終わったユリフィスの肩をブラストがそっと支える。


「……なら、将来の進路は決まりだな」


 軽口を叩くユリフィスにブラストは躊躇いなく頷いた後、ジゼルに鋭い視線を届ける。


「……アイツ、直前で防ぎやがっただろ。止めを刺してやる」


「まあ待て」


「……あ?」


(まだアイツには役割があるんだ。原作通りならここでブラストは……)


 ユリフィスは片膝をつきながら、()()()表情を苦痛に歪める。


「……流石に限界だ。大分と傷が深い……今すぐ治療しないとヤバいかもな」


「な、何ッ? 大丈夫か? ど、どうすりゃあいいッ、舐めれば良いのか⁉ 俺は大体そうやって治してきたんだが⁉」


 ブラストがおろおろし始める。


「馬鹿! し、止血よ、まず止血しないと、そう、ほ、包帯、街で買って……あ、でもまず縫わないとッ」


 レイサも同じように慌て始める。

 似た者同士の二人に内心呆れつつも、


「悪いが……フリーシア達の所まで運んでもらえるか」


「わ、分かった。掴まってろ、レイサもだ」


 さらにブラストは自らの恋人であるレイサも同じように担いで、


「……ふあッ」


「よし、行くぞ!」


 二人を抱えてブラストは走り出した。一刻も早く治療しなければ。

 そんな焦りが表情から見て取れる。


(悪いな……)


 気が付けば完全に朝日が昇っていた。

 

 街中でこれだけ大騒ぎしたからか、周りには多くの民衆が遠目からこちらを見つめていた。

 ユリフィスはその様子を確認しながら、二人にそっと見えないように欠伸をした。


 救えた安堵感からか、眠気が催してきた。夜通し走っての救出劇だったわけで、ほぼ徹夜である。

 肩に担がれ、程よく揺すられながらユリフィスは呑気に寝息を立て始めた。


 その様子に気絶したと勘違いしたブラストたちが更に慌てたのは言うまでもない。

 



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