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28 やる気が無いのはともかく、確かにちょっと不気味ですわね。

 他の公国はいざ知らず、カルンブンクルス公国から帝冠継承候補者を支えるために送り込まれる魔術師たちは揃いに揃って事なかれ主義だった。


 何しろ、88代を数える歴代皇帝でカルンブンクルス公国出身の皇帝はわずかに5人しかいないのだ。

 カルンブンクルス公国では帝冠継承候補者というのは、要するに公国の対面を保つためだけに送り込まれるものと理解されている。


 気がつけば1000余年の歴史の中で、公子に随伴する魔術師団は厄介者の隔離先か引退間近の魔術師の最後のご奉公に成り果てていた。


 レオンハルトを取り巻く魔術師団も、過去の先輩諸氏に倣ってやる気が無い。

 真面目は真面目なので給料分のルーチンワークはちゃんとこなすが、それだけだ。


 それで十分だったはずなのだ。

 今までは。


※ ※ ※


「えらいことになった……」


 レオンハルトの筆頭侍従、セバスティアンに呼び出された魔術師団の長クラウスは話を聞いて真っ青になっていた。


「殿下が試しの塔に挑まれることになった。今後はこれを皮切りに本格的に試練に取り組まれることとなろう。魔術師団はこれをよく補佐し、殿下を助けるように。まずは試練の塔の突破のために力を尽くせ」


 と命じられたためだ。

 

 魔術師団の存在意義は帝冠継承候補者が試練を突破するためにあるのだから、断ろうにも理由が無い。

 カルンブンクルス公国の候補者が試練に挑むなど、ご冗談をとはさすがに言えるはずも無かった。


 実態がどうあれ、建前としては候補者は試練に挑むために帝城に居を構えているのだ。


 ことの経緯はどうあれ、命令が下った以上はレオンハルトの命を守るために全力を尽くすのが魔術師団の務めである。

 

 クラウスは執務室に魔術師団の全員を集めると、いつも通りノンビリと毎日の仕事の準備をしている部下達に事の次第を切り出した。

 とはいっても、ローランを含め6名しかいないのだが。


「みな、落ち着いて聞くように。セバスティアン様より命が下された。殿下が試しの塔に挑まれるゆえ、これをよく補佐するようにとのことだ」


 いつもと同じ朝が始まるのだと思い込んでいた魔術師達はピタリと動きを止めた。

 

「試しの塔? 誰がですか?」

「レオンハルト殿下がだ」


 呆けた顔の中年魔術士のクルトにそろそろ老境にさしかかったクラウスが答える。

 クルトは先代の帝冠継承候補者の時代から、クラウスに至っては先々代から事なかれ主義で乗り切ってきた。窓際は窓際でも筋金入りの窓際魔術士といえる。


 一方、そんな事情は知らないローランにしてみれば、なぜ皆がそれほど緊張しているかがわからない。


「たしか、試しの塔というのは……」


 と記憶を掘り起こしていた。

 ローランの記憶では試しの塔とは、帝冠継承候補者が試練に挑むことを周知するという意味合いが強かったはずだ。


 そう疑問を呈するローランにクラウスは重々しく頷いた。


「確かに試しの塔は言ってみれば、ただの通過儀礼のようなもの。いかに公国の候補者が建前だけのお飾りとはいえ、これぐらいは歴代の候補者の皆さまもこなされておる」

「では、何も問題はないのではございませんか?」

「それがあるから、困っておるのだ」


 と、クラウスはまるで国境を数万の兵士が越えたと言わんばかりの重々しさで、言葉を続けた。


「数年前の話になる。カルネウス公国の公子殿下が試しの塔に挑まれた。むろん、誰も心配などせずに翌日には帝冠継承候補者として名乗りを上げる予定だったのじゃが――亡くなられた。塔の中でな。高所から足を踏み外した転落死であった」

「そんなことが、あったのですか」


 試しの塔で命を落とすというのはさすがに前例がほとんど無い。まったく無いわけではないが、どれもこれも事故の一言で片付く問題だ。

 帝冠候補者ともあろうものが試しの塔で落命するなど、恥でしか無い。

 カルネウス公国としては騒ぎ立てるわけにもいかず、そのまま何事も無かったように次の帝冠候補者を送り込んできたという。


「じゃが、話はここでは終わらなんだ。次の帝冠継承候補者も試しの塔に挑まれて……やはり亡くなられた。同じく転落死じゃった」

「塔に何かあったのではございませんか? 階段が痛んでいたとか。あるいは塔の試しに問題があったとか」


 試しの塔は要するに肝試しだ。


 塔の床は処刑台の材木と処刑場の敷石を組み合わせて作られており、タップリと死霊が染みついている。夜になれば死霊が湧き出て、塔の中を徘徊するという仕組みだ。

 塔には結界が施されており、魔術の類は使えない。

 無防備な状況で死者に囲まれながら一晩を過ごす。

 それぐらいの胆力がなくては1000年もの呪いに打ち克ち玉座に座することは不可能だ。

 

 実に悪趣味かつ合理的な試しと言える。


「無論、調べられた。念には念をということで、陛下の許可を得てカルネリウス公国は公庫を開けて床板も階段も新しく設えたそうな。しかし、3度目もやはり失敗した。カルネウス公国は今代は帝冠継承候補者を出すことは叶わぬじゃろうな」

「試しの塔を終えていない帝冠継承候補者は我が公国とヴィリロス公国の2つだけ。ヴィリロス公国は自分たちの魔術師を調査と称して試しの塔に送り込んだが、やっぱり死んだというわけさ。というわけで、元々帝位にそれほど執着していないウチはともかく、ヴィリロス公国の公女殿下も足踏み状態というわけ」


 爽やかな笑顔の好青年魔術師カスパルはそういうと、何の脈絡もなくローランにパチリとウィンクを決めた。

 ちなみに彼は女性関係で色々とやらかして、左遷されてきたクチである。


「それは確かに……少し不気味ですわね」

「であろう。塔の秘密を解かねばならぬ。それが最初の役目となろう」

 



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