身長と運動神経は関係ない〈中学2年 しずか〉
第2話の続きの組曲。今回はコメディタッチ。
中学2年の夏休み明けだった。
アレレ? クラスで一番背が高いのは私だったのに。
クラスの男子、坂口くんに背比べを挑まれた結果、私は2センチも負けているではないですか!
私に勝って歓びの舞を披露する坂口。なんか憎たらしいわ〜‥‥
勉強も運動も平々凡々の私の、唯一のクラス順位1位を奪われてショック! なんだか無意味に悔しい。いいんだけどね‥‥‥
私は中2になってからは伸びが鈍くなって、168で詰まってる。どうせ背が高くなるなら、私も大台に乗りたいんだけど、このままでは無理かもしれない。
それからは男子に次々と抜かされていった。どうやら男子の成長は今頃から来るようだね。そして女子の成長は終わる頃?
私の背丈は思ったより伸びずに168.5で止まったみたい。
それでもクラスの女子の中では1、2を争う。わりと高めな方。
背が高いと、なぜかスポーツが得意だと思われがちなんだけど、私は特に運動神経がいいわけじゃない。脚が長い分アドバンテージあって、短距離なら幾分、速いけれど、バレーボールもバスケットボールも全然上手くない。クラス対抗の球技大会とかで期待しないで欲しいよ。私は文化部だし。
今日は学年球技大会。男女別でバレー組と卓球組とソフトボール組に別れて、クラス対抗で勝負。
私は卓球組。個人トーナメント戦で雅ちゃんと私は早々に負けて、体育館の2階の隅っこで体育座りして、後はのんきに2人でお喋りしながら見学してた。柵の下の1階を見下ろせばバレーボールの試合が盛り上がってる。でも、私たちには関係ないしー。
「ねえ、しずかちゃん。私、密かにチョコバー持って来てるんだ。ウヒヒ‥‥半分こして一緒に食べようよ。うちら全然汗かくこともなく終わってペットボトルも無傷で残ってるし」
「おお、さすが雅ちゃん! 用意周到じゃ〜ん♡」
皆が汗を流し球技にいそしむ時間とは一線を画し、私たちは別世界。片隅で、チョコ&配布スポドリで宴を満喫していた。
授業よりめっちゃいい。球技大会最高〜!
って、してたら───
「あ、しずかちゃんミッケ! あのさ、大和ちゃんがバレーで突き指しちゃったの。しずかちゃん代わりにお願いッ!」
バレー部の竹中さんが慌てて飛んで来た。
「わ、私ッ!? なんで? 他の人の方がいいと思うよ‥‥」
「だって、バレーは背が高いとそれだけで有利だし」
「そうかもしんないけど‥‥人によるんじゃない?」
私は特にタマ系は苦手なんだよ。球技って経験値しかもの言わなくない? ボールだって学校の体育授業以外で触ったこと無いよ。
「大丈夫、大丈夫! コートに立っててくれればいいからさ。ほら、タイムで待たせてるから急いでよっ」
立ってればいいってホントかよ?
「ブロック要員じゃん? 行ってあげなよ。竹中ちゃん困ってるんだし。私、応援してあげるからさ」
雅ちゃんが口の端のチョコをさり気なく拭いながらシレッとそんなアシストを。
仕方ないか‥‥‥
急いでいたみたいだし、断り切れずコートに立った。
ああ、ネットの向こうからの視線が痛い。
背の高い私がコートに現れて、相手チームが私を見ながらヒソヒソ作戦会議をしてる。私は、そんなに警戒されるレベルの人じゃあないんだけどね‥‥‥
私は緊張しながらコートに。なんか、足元が落ち着かない。ドキドキ緊張。
笛が鳴り、再スタートしたら、向こうから打ち込まれたアタックが、ブロックの手の隙間からいきなり私に向かって飛んで来たから、とっさにレシーブする。
腕、い、痛ーーーッッ!! ビリビリヒリヒリジ~ンジ~ン‥‥
バレーボールって硬過ぎん? 凶器じゃん。
こんなの私には無理だって。アタックまた来たら怖い‥‥‥
私がとんでもないところに上げたレシーブを、竹中さんがコート外に追って飛び込んで、片手で繋ぐ。
すっご。さすがバレー部。それを同じくバレー部の清水さんがフェイントで相手コートに落として決めた。2人、ハイタッチ。
この2人、ガチで勝ちに行こうとしてる。スゴイ気合のオーラ。
私は立ってればいいなんて言ってたけど、もしかして私、失敗したらヤバない‥‥? うえ~ん、ミスしたら後から絶対なんか言われるパターンじゃん‥‥‥
身長高いからって、バレーが人より上手いわけじゃないんだよ! それ、ただのイメージだから〜。
「来るよ、しずかちゃん! レシーブだよッ!」
「しずかッ! 大林にトス上げてッ!」
「しずッ! 止めてッ! ほらッ、ブロックジャンプ!」
もう、私の呼び方さえ変わってる。体育会系、怖いよぉ‥‥
ギャー! 私にボール来ないでーって、願えば願うほど来てしまうのはなぜなのッ? 立ってればいいんじゃなかったのッ! 私に向かって次々飛ぶ司令。
私がトスを上げたらとんでもなく高く上がってしまって、アタッカーのタイミングがズレて、意図せず時間差攻撃になって得点。
私がサーブを打てば、あまりにへなちょこで飛ばなくて、ネットの高さギリギリを超えてすぐに落ちたため、誰も拾えずサービスエース!?
そんな私のレベルの低さが幸いしたらしい。
私がヘタ過ぎて通常のバレーボールの軌道にならなかったのが相手チームの感覚を乱した。私たちのクラスは大和さんというアタッカーの主力を欠いたにも関わらずミラクルで勝った。
「お疲れ! しずか。しずかが入ってから試合メチャ楽しかったwww」
大林さんが私の背中にタッチして追い越して行った。
褒めてるような褒めてないような‥‥‥
立ち止まって大林さんの後ろ姿をぽやんと見つめてたら、後ろから来た竹中さんと清水さんに両脇から肩をポンポンされた。
「ありがとう! しずかちゃんのお陰で接戦をモノにしたね! でも、次の準決勝戦はもういいから」
青春の汗輝く爽やかな笑顔を私に向けて、そう言った。
2人はそのまま私を追い越し、壁際で体育座りしてる雅ちゃんに駆け寄る。
「雅ちゃん、次の準決、お願いね!」 (´▽`人)
「あ? あ、‥‥うん。おけ」 ( ゜Д゜)b
そうしてもらえたらめっちゃホッとするけど、なんかそれはそれでモヤるんですけどー
(-ω-。)