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届かぬ想いを抱えて 〈高校時代 カノン〉

カノンの目線から。

 集団の中では幼い頃から嫌な思いばかりしていた。


 それが私への嫉妬の結果だとは知らずに。


 私は自分が可愛いだなんて知らなかったし、思った事もなかった。



 人気のある男子に好きになられるとつらかった。だって、その子を好きだった女の子たちの敵意が一気に私に向けられるから。私は何にもしてないのに。


 交際をお断りすればしたで相手から恨まれる。勝手に好意を寄せておいて、思い通りにならなかったら私を中傷する。


 本当は私のことなんて誰も見てない。あの人たちが私に見ているのは理想化されたただの偶像。



 関わりたくない。男子は私に近づかないで。



 ***




 私は高校生になった。とにかく私はずっと憧れていた弓道部に入部し、打ち込むことにした。


 次々の男子からの告白には、今は勉強と、新しく始めた弓道で余裕がないからと全て断った。



 部室から弓道場への移動の時、校庭横を通る。放課後集合が早い陸上部の練習が自然と目に入った。



 うわー‥‥100メートル走。さすがすごく早い。


 誰だろう? あの小麦色の手足のスラリとしたショートヘアの女子。フォーム、カッコいい‥‥‥



 何度か彼女を見かけるうちにその子はアヤと呼ばれていることが知れた。同じ1年生だってことも。


 アヤさんか‥‥‥うふふっ。


 私の目はいつも彼女を探していた。彼女の姿が見られた日は、本当に幸せ‥‥‥



 ***



 調べた結果、彼女は理数系が好きで、古文が死ぬほど嫌いらしい。ならきっと2年の進級時には理系を選択するはず。


 私は来年度の選択には迷わず理系を取った。毎年理系は2クラス。きっと私の進級時も変わらない。ならば同じクラスになれる確率はハーフハーフ。


 結果、私は賭けに勝って憧れのアヤさんと同じクラスになることが出来た。



 私はアヤと友だちになり、彼女のことが益々大好きになった。サバサバした気持ちの良い人。人の悪口も言わないし優しい。もちろん誰かにマウントなんてしない。



 アヤ、私アヤのこと大好きだよ! 一緒にいられて幸せ。



 私はこんなにハッキリ想いを伝えているのに。


 しかも何度も何度も。


 どうしてわかってくれないの? アヤ。


 私はアヤのことが誰よりもこんなに好きって伝えてるのに、私を差し置いて男子なんかと付き合うなんて?


 アヤは彼氏が出来たこと、私に言うタイミングを見計らってるのを感じてる。そのたび私は話題を反らす。私はそれを聞く前に対処しなくちゃならないから。



 私からアヤを盗らないで!



 アヤの彼氏の陸上部の先輩を、早急に落とさなきゃ───



 ***



 アヤの彼氏が外水道で顔を洗ってる最中に、隣からわざと水を飛ばして彼氏の下半身にかけた。私は必死に謝りながら下僕のようにタオルで脚を拭く。


『ごめんなさい! 私の不注意で』


 男の脚はキモいけど、この人は脱毛されてたからまだ耐えられた。これもアヤのためだから、私がんばる。


『ホントにごめんなさい。他に濡れたところはないですか? このタオル、使って下さい』


 流石に脚以外のとこは触れない。


 私は立ち上がってタオルを差し出し相手の目をじっと見つめる。この人、耳が赤くなった。私、イケる?


『‥‥あっと‥‥どうせ汗かいてるからいいって。そのタオル、俺の汗ついちゃったし、洗って返すから』


 私の手からタオルを受け取りながら言った。



『え、でも。ご迷惑だし、捨ててしまって構いません』


『でも、このタオル高そうだから、悪いし‥‥』


『‥‥なら──』



 私は捨てアカを教えた。



 呆れるわ。


 アヤという最高な、しかも出来たばかりの彼女がいながら、私にお誘いのメッセージを送って来る先輩。これだから男って。



 私は誰かに公開されても困らない、差し障りのない言葉を慎重に選んでリプを送る。気があるような無いような判断つきかねる返答。


 この男、なかなかアヤとは別れない。二股する気かも。


 ならば、新たな対処として、『先輩、私と写真を一緒に撮って下さいませんか?』と、お願いして1枚撮った。そんなの、私はあなたに気があるって言ってるようなものだけど、私は実際は何も言ってないのが現実だから問題は無い。


 ここまで私がしたのだから、早くアヤを振って欲しい。私の好みは誠実で真面目な人だってことも追加でお伝えしておいた。




 先輩がやっとアヤと別れた。私はコクられる前にミュートにして先輩とは連絡を断った。後は知ーらない。3年生なんだからもう受験準備だろうし、あと半年くらいしか学校にだってこないだろうし。あんな人、もうどうでもいいよ。



 私の捨て身の努力のお陰で、アヤが私に戻って来て嬉しい。誰にも渡したくないの。


 しばらくは平穏な日々が続いた。だけど、あの盛り上がりの季節はね───



 半年後。クリスマス前に、またもやアヤに彼氏が出来そうだったから、私はまたもや忙しくなった。どうやらその人は偶然にも去年、私と同じクラスだった野田くん。


 見張ってたら放課後、靴箱の前の廊下でアヤと野田くんが少しお話ししてから別れた。アヤはこれから急いで陸上部に行くの。アヤが昇降口から出て行くのを確認してから野田くんに声をかけた。


『あ、野田くん! 久しぶりだね。あれ、髪型変えたんだ?』


 急に私に話しかけられてドギマギしてる。


『前のも似合ってたけど、そういうのもカッコいいよねー』


『‥‥えっと? ありがとう。急にどうしたんだよ?』


 私はオドオドしながら彼の目をチラリと上目遣いで見る。


『‥‥ごめんね。私なんかが急に話しかけて迷惑だったよね。何でもないから‥‥‥じゃあね』



 ちょっと弱いかなって思ったけど、私を意識するのには十分だったようね。


 野田くんはアヤと別れてくれた。


 大丈夫だよ。アヤには私がいる。ねえ、アヤ。私と楽しく過ごそうよ。私、何度も何度もアヤに告白してるよ? 『アヤが大好き』だって。アヤは私だけを見ていて。



 ***



 もう私たちは本格的に受験へと向き合ってる時期。それなのに、アヤったら‥‥‥


 私だって忙しいのよ?


 今度は他校の生徒と恋仲になろうとしてるなんて。油断ならないわ。アヤには私がいるというのに。引き離さなくちゃ。その男子と。



 アヤと私のために3回目、がんばるね。



 ***



 ───うん、上手く行った。彼は私に夢中だよ。だからアヤはもう忘れなよ。あんな男子のことなんて。



 それなのに、私にそんなに怒るなんて。私は悲しい。アヤだってこの1年半、私と過ごして楽しかったはずなのに。今更私を拒絶するなんて。



 当分アヤの機嫌は直りそうにない。仕方がない。私たちにはクールダウンの時間が必要なんだ。



 ***



 アヤの機嫌は一向に直らない。私たちの関係がこのままの状態で卒業なんて、私は寂しい。


 私の最後の説得により、アヤとの一筋の繋がりは保ったまま卒業した。



 ***



 大学に入学して早2か月過ぎた。新しい生活にも慣れたけど、私はやはりアヤのこと引きずってる。


 アヤはネットを通して私を見てるよね。私を憎んでるんだもん。だから私は日々の出来事を次々upする。 大好きだったアヤにお知らせするために。


 アヤは写真見てくれた? どう、この男子? 好きってわけではないけれど、アヤの好きそうな男の子だったから接近した。彼、蓮くんていうの。


 なんで私がアヤをここまで意識してこんなことするのか自分でもよくわからない。私を置いて離れていったアヤにジェラシーして欲しいのかな‥‥




 秋になる頃、アヤから、学園祭への招待メッセージが私に届いた。



 私は蓮くんを誘ってワクワクしながらアヤに会いに行った。



 ───なのに。



 アヤは結構つまんない真似してくれた。


 私は外ではいつも演技してる。じゃないと美貌の私には、外野からいろんな感情が集まって、窮地に落とされるから。 現実的な私は、作り物だってわかってるお化けを怖がる筋合いなんて無い。そして、過去の恋愛巻き込まれ被害のトラウマによって男子にときめく事はない。よって彼氏とお化け屋敷に入ったところでドキドキなんてするはずないよ。



 アヤ? それが一体どうしたっていうの?



 こんな作為的な意地悪する人は、私が知ってるアヤじゃない。アヤは朝日に光る朝露を思わせる、透明感のある清々しい女の子だった。


 私の愛してたアヤは、あの高3の夏にいなくなってたんだって、この時やっと気がついた。



 アヤ本人を目の前にして、私の失恋を知った瞬間。すごく悲しかったよ。言葉も思いつかないくらいに。



 ───だから。



 アヤも蓮くんも、もう要らないや。








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