マウントとサゲ合戦〈大学1年 蓮〉
「でね、私の高校の友だちがその大学の看護学部にいるの。文化祭に誘ってくれたから蓮くん、良かったら私と二人で行ってみない?」
「え? いつ? 俺、行きたいかも」
もちろん俺はオッケーに決まってる。
「ウフフ‥‥私、羨ましがられちゃうかも〜? 蓮くんをお友だちに見せたら♡」
「んー‥‥それはどうかわかんないけど‥‥‥」
照れ笑いを浮かべながら俺の左腕に巻き付く彼女。ちょ‥‥コイツかわい過ぎん?
俺は内心とんでも無く浮かれているけど、それでもクールに平静を装う。
大学入学して、大分慣れて落ち着いて来た頃から、なにかと事あるごとに彼女の方から、『私を誘ってアピール』が来てるっぽいのを感じていて、彼女顔は可愛いしスタイルもまずまずだったから、タイミング見て、
『俺ら、結構気が合ってるよね? 今、彼氏いないんだったら俺と付き合ってみない?』
‥‥って軽いノリで言ってみたら、即その場で付き合うことに決まった。
カノンと付き合って早3ヶ月過ぎ、もうそろそろあっちの方の関係も最後まで深めてもいい頃だった。
文化祭を引いた後なんか、めっちゃチャンスかもしんないと思った。
***
当日になり、俺たちはたくさんの来場者に紛れながら構内を散策した。構内でのストリートピアノの演奏を取り巻きの後方で立ち止まって聞いてたら、隣でケータイから目を上げた彼女が言った。
「ねえ、蓮くん。私の看護学部の友だちのいるサークルが、お化け屋敷をやってるの。行ってみようよ! 今彼女、当番で受付にいるみたい。そういうの嫌い?」
「オッケー! でもさ、お化け屋敷って、カノンは泣き虫だし怖がりじゃん? 大丈夫?」
「怖いけど、だって今日は蓮くんが一緒だもーん♡ うふっ‥‥」
俺の心を惑わすその照れを滲ませた上目遣い。めっちゃかわいい。怖がる彼女に抱きつかれるのも悪くない。
それに一緒にドキドキ体験すると両思いになるってトリビアがあったよな。俺ら、これでもっと親密になれそうじゃん。そしてそのあと今日は一気に‥‥‥
お化け屋敷の受付にはカノンの友だちがいて、お世辞の社交辞令を言いながら愛想よく迎えてくれた。
「あー! 来た来た! ひっさしぶりー! 待ってたよ、カノン。この人が彼氏だよね? 実物もカッコいいね。はじめまして。私、カノンの高校の同級生のアヤです。私、カノンのSNSのアカウント、フォローしてるから、色々知ってるからあんま久しぶりな感じはしないけどね。今日は彼氏さんも楽しんで行って下さいね」
「私もアヤのたまに見てるよ。今日は文化祭誘ってくれてありがとう。お陰で蓮くんと私の思い出も一つ増えたね? ねー、蓮くん♡」
「やっだぁー、カノンたら相変わらず暑苦しいんだからー。ふふふっ‥‥」
ん? 今、バチってしなかった? 気のせいかな、この二人‥‥‥
「でね、ここは看護学部の実習もかねて、お化け屋敷に入る前と出た後に血圧と心拍数を測って、『怖がりさんドキドキ度測定』サービスしてるの。是非参加して!」
カノンと俺は言われるままに腕を差し出し、測定してもらい、アヤさんは数字を記録用紙に書き込む。
「二人とも正常範囲ですね。カノンはちょっと低血寄りだけど」
俺が110/72 心拍数は58
カノンは、102/62 心拍数は63
「出た後も計測してこれに記録するからなくさないでね」
数字が書き込まれた小さな紙を差し出す。
「これをポケットに‥‥あ、いいよ、やっぱ二人のは特別私が預かっとくね。出た時にどうせまた計測するし。はい、いってらっしゃ~い! 楽しんで来てね〜」
このお化け屋敷のクオリティは高かった。おばけ役、特殊メイクしてるみたい。
カノンは事あるごとにキャーキャー叫んで俺にしがみつき、俺はめちゃビビって驚いてんのに平気な振りをして余裕をかます。
「怖いよぉ‥‥蓮くん。私から離れないでね。ぐっすん‥‥」oc(>_<。)
「カノン、大丈夫? 俺がついてるから‥‥‥ヒッ‥‥」(;・∀・)
ああ、ようやく出口だ。
カノンの友だちのアヤさんがニコニコしながら待っていた。
「あ、カノンたち戻って来た。お疲れ〜! どうだった? 我がサークル渾身のプロジェクトは? よく出来てたでしょう? お化けたちのクオリティ。美術専攻の人たちが手伝ってくれたから、本格的だったでしょ?」
「うん、めちゃめちゃ怖かった〜! 絶対一人じゃ無理だった。蓮くんがいなくちゃ〜」
「カノンは相当叫んでたよな。俺にしがみついて。あー、俺はわりと平気だったかな‥‥うん」
「‥‥ふうん? じゃ、早速 測ろっか? カノンここに座って。私が測ってあげる。彼氏は隣の机でどうぞ」
俺たちは、それぞれ計測してもらい、先ほどの紙切れの残りのスペースに数値を書き入れられる。
「えっと、カノンは‥‥105/63 心拍数65だね。‥‥‥怖がって叫んで彼氏にしがみついてたんだっけ? その割に誤差くらいしか変わってないねー‥‥」
苦笑を堪えたようなシニカルと哀れみを浮かべて、アヤさんが俺と目を合わせた。
それって暗にあんたの彼女のカノンは大袈裟女、もしくは演技派だって俺に言ってる。
俺を計測してくれた女の子が言った。
「えっと、彼氏さんの方は、うっそ! 175/95 心拍数165ですかね? すっごく上がってるwww あ、今んとこ今日の怖がりさんのトップです!」
「カノンの新しい彼氏さんって、アレだね。ビビり? ま、相変わらずこの彼も、カノンの好きそうな外見はしてるよね。クスクスッ‥‥」
急に出現するお化けたちにはめっちゃ驚いたし、表面クールに取り繕っても体は正直なんだろうけど。でもさ、なんで俺が今初めて会った彼女の友だちに毒舌向けられる? カノンにも失礼じゃない? その言い方。
真っ赤な顔をしたカノンが黙って立ち上がった。
その後のことはあんま覚えてない。俺はありふれた言葉ながら慰めたはずだけど、どうにも彼女、すっごい不機嫌になっちゃって。
俺の本日の交際進展の目論見は外れ、俺たち二人は微妙な空気に包まれて、そのまま駅で別れた。
そんで俺ら、そのまま自然消滅───
あれって、カノンが嵌められたんだろうな。友だちを装う敵に。
カノンもアヤって子も、どっちもどっちだったのかもな。お互いネットで監視し合って、マウント取り合って、牽制し合って、サゲ合って。
アイツら、なんでお互い友だちやってんのか謎。
俺はカノンのマウント取りのダシに使われただけじゃん。
思い出すとイタい思い出。見かけ良ければとにかくオッケーだった俺。あれ以来、そういうのもうやめようと思った。人間、性格が一番大切よ。
マジ、女ってこえー‥‥‥