クラスで背が一番高い私の痛み〈小学6年 女子〉
今年は惜しかった。春の健康診断。
また一番後ろになってしまった。あと1ミリ縮こまってればよかった。あの子とタイだから、ジャンケンで勝てば、後ろから2番目になれたかもなのに。2ミリ抑えることが出来てたら確実2番目だったのに。ハァ‥‥
クラス男女別整列の、背の順での並び。
どうしてなのかな?
両親とも、とりわけ背が高いってわけじゃないのに、私の背丈はニョキニョキ伸びる。
今は6年生半ばにして160センチ前半。
なんでってお母さんに聞いたら、どうやら隔世遺伝というヤツらしい。お母さんのお父さんは昔の人なのに、185センチもあったんだって。その成分のいくらかが私に受け継がれたらしい。
幼稚園のころ、寝ていると関節がキシキシしてるのがわかる夜があった。最近もまた始まった。成長痛が、すごく痛くて泣きたくなる夜。
幼稚園の頃からやはり他の子より大きかったし、小学校に入学してからは、クラスではいつも一番高いのがデフォ。
私、6年1組。今んとこ男子入れても私が一番デカい。
背が高いのを羨ましがる子もいるけど、私は程々になりたいよ。
だって、例えば体育の時間には、パスの練習だの、ストレッチの補助とか、二人組がつきものだし、そういう時に一番後ろの私はあぶれがち。
私だけ先生と組んでするんだよ。なんかそういうの微妙につらいんですけど。
みんなキャッキャ言いながら楽しげにボールパスやってんのに、私だけ先生が放つマジパス受けててマジパス返すんだよ? 笛をピッピ鳴らす先生に足首押さえられて、ガッツリ真剣腹筋30回だよ。みんなは、あうんの呼吸で回数少なく誤魔化せるのに。
なんのためにやるんだかわかんない組体操、7段人間ピラミッド。もちろん私は一番下の土台。土台だって一番前列ならまだいいよ。目の前開けてるから。土台2列目は立ったまま1列目の背中に手を置くから地面に手も膝もつかないからまだいい。土台3列目の私たちは一番悲惨。
四つん這いで、手のひらや膝に突き刺さる砂利は痛いし、前には誰かのお尻。私のお尻の後ろには誰かの顔。そして背中には、何段にも人が乗っかる。この体勢を一番長くしなきゃなんないのも土台の私たち。拷問かよ?
集合写真なんて、どれ見てもいっつも一番後ろの列の一番端っこに、はみ出しぎみでいる。
前列の子たちは正担任たちとウェーイって、ポーズ作ったりしていい感じに映れるのに、私ときたら、どの写真も背後霊じゃん‥‥‥哀しい。
最近じゃ洋服だって可愛いのが無い。大人用のなら私にも長さは足りるけど、デザインが可愛くないし、小学生の今しか着らんない感じのカラフルなポップなデザインがいいのに、そういうの、私サイズのが無い。カワイイ洋服着てキラキラしてる前列たちが、ホント羨ましい。
夏休みのある日、仲良しの雅ちゃんと私は区営プールに行くことに。
今日の雅ちゃんはツインテールでかわいいな。お洋服もキュート。私はツインは似合わないからポニーテールにシンプルな白いワンピ。仲良しの印に、おそろいのピンクのハイビスカスの髪飾りしてる。
ここは小学生は無料のプレイスポットだよ。オシャレして夏休み初のイベントにウキウキの私たち。
なのにアクリル板向こうから、受付のおじさんたら───
「すみませんが、妹さんは無料ですが、そちら中学生のお姉さんからは入場料100円なんです。ごめんなさいね。横の販売機でチケット買って下さい」
────はぁっ?! 中学生って? どうして私だけ受付のおじさんから老けて見られなきゃいけないのさッ!
『またかぁ‥‥』って、微妙な顔してる雅ちゃんの横で、私は涙声で抗議した。
「ちょと待っておじさん! 私たち同級生で12才で、私だって立派な小学6年生なんですけどッ!!!」
「おじ‥‥? あっと‥‥そうでしたか。それは失礼しました。でもね‥‥僕のことおじさんって‥‥。僕だってまだ19才の大学生だよ。それでも僕は小学生から見たらおじさんかな‥‥ははっ」
自嘲ぎみに質問してきたその人の目は、潤んでるように見えた。
もしかして、私たちは『同士』だったようだ。『実年齢より上に見られがち属性』という。
私には悪気はなかった。そしてこの人にも。この場合はお互い平和に許し合おう‥‥‥
そう思った時だった。
早くプールに入りたい雅ちゃんが、私の腕をじれじれ引っ張りながら言った。
「しずかちゃん、そんなのどうでもいいじゃん。このおじさんにお兄さんって言っとかないと100円取られちゃうよ! で、早くプール行こっ!」
あっ‥‥雅ちゃん、言っちゃったね‥‥‥
俺が小学生の時は、高校生すら大人に一括りに思ってて、もう感覚別世界の人だったなー。
運動会で人間ピラミッド披露なんて鬼畜はもう無くなったんだろうね。コロナもあったし。時代だね。