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「いっただっきま~す!パクッ♪」
スキルが無事に発動し、成功した事で気を良くしていた僕は、重要な事を忘れ、勢いよくおにぎりに齧り付く。
その瞬間、口の中に広がる、おにぎりの味…。
「不っ味~ッ!!」
予想以上の不味さに、おにぎりが手から転げ落ち、木の下に待機している狼のお腹の中へと入っていく。
いや、食べ物を粗末にするのは悪い事なので、その件に関しては良いのだが、あの狼たち、本当に何でも食うんだな…と言うより、それだけお腹を空かせる程、食料が不足しているのだろうか?
それならば、いつまでも僕が木から降りてくるのを待つのも理解出来ると言えば理解出来る。
それにしても、まさか〖レプリカ〗で作った『おにぎり』が、こんなに不味いとは…だが、そんな不味さも、少し考えれば分かる事だった。
水が欲しくてたまらなかった時、緊急処置として発動したスキルから出てきた『魔法の水筒』…。
だが、その『魔法の水筒』は僕が見た物とは比べるのも烏滸がましい程、ちゃちな物で、ひと目で偽物だと分かる出来だった。
とは言え、『魔法の水筒』としての機能は有効だった為、こうして生きているのでそれは良しとする。
問題は、出てきた『魔法の水筒』が本物と比べるのも烏滸がましいレベルの物が出てきた事である。
おそらくはスキルランクが低い事による弊害…その為、明らかな偽物が出てきたのだろう。
ならば、それを踏まえて考えなければいけなかったのだ。
そう、僕がスキルによって手に入れた『おにぎり』が偽物となって出てくる可能性を僕は考えていなかったのだ…。
その結果、『おにぎり』は偽物として姿を現し、それに気が付かなかった僕はそのまま食べてしまったのだ。
幸いな事に、味こそ不味いが、それでも我慢すれば食べる事が出来る物が出て来たのは僥倖だと言えよう。
まぁ、それをまた食べたいかと言われたら、遠慮したいと答えざるをえないのだが…。
「それでも、食べるしかないんだよな…。」
食べ物を残すと、もったいないオバケが出るぞ~と言い聞かされたってのもあるが(もちろん信じてない)、持ってきた食料は凡ミスで木の下に落としてしまい、先程の『おにぎり』も予想外の不味さに落とし、今では狼どもの腹の中に収まっている。
故に、手元には食べ物は何も無い状態だ。
もちろん、どこまで可能か分からないが他の食料をスキルで出す事は可能だと思う。
だが、例え食料を出しても、スキルのレベルが上がるまでは、今と同じ様な結果になるだろう。
とは言え、不味くても食べれる物なのだから、そこは我慢せれば良いだけの話…創っては食べ、創っては食べる。
不味い、不味いと言いながらも、それを繰り返せば、否が応でもお腹が膨れる。
Q:お腹が膨れたら、どうなる?………A:眠気が来る。
この世界に来てからの目まぐるしい出来事の数々。
そして、現状に至るまでの道のり…その疲れが押し寄せてきた様な、妙な感覚に襲われる。
今まで緊張していた事で気が付かなかったであろう疲れが、お腹が膨れた事で緊張が解け、その疲れが堰を切ったかの様に一気に押し寄せたのだろう。
とは言え、ここは木の上と言う事もあり、決して安全な場所ではない。
そんな木の上で寝てしまえば、バランスを崩して落下するのは目に見えている。
そうなれば、まともに動けなくなるばかりか、未だに木の下で獲物が降りてくるのを待っている狼たちには御馳走?を与える様なもの。
落ちてしまえば、間違いなく襲いかかって来て喰われてしまうはずだ。
だが、そんな事は分かっていても眠気は先程同様…いや、先程より強く襲いかかって来ている。
ならば、どうする?とっさに思い付いたのは、至極、単純な事だった。
「スキル発動!」
ぶっちゃけ、声に出さなくてもスキルは使えるのは確認済み。
だが、一人と言う事もあり、寂しい気持ちがあるのか独り言が多くなるから不思議だ。
つまり、コレもその一環で、つい口走ってしまったのだ。
そして、今回、僕が手に入れたのはキャンプ等で使われる紐…それも、かなりの強度がある紐を選んだ。
その為、本来であれば十分な強度があるのだが…問題は、今のスキルレベルで望んだ物が手に入るかは、分からない。
僕は出て来たの紐を力を込めて引っ張ったりして強度を確かめる。
「だ、大丈夫だよな?」
ひとまず、僕の力で引っ張っただけでは問題がある様には思えない。
ならば…と、もう何度か同じ作業をして幾つかの紐を用意する。
その紐を、幾つかの枝に巻きつける様に配置して、最後に自分の身体にも巻き付けて縛る。
コレならば、力も分散されるだろうから、寝てる間に落ちる事はないだろう。
まぁ、流石に狼達が木の上まで登って来られたら逆に逃げる事が出来ずに終了だが、その時はその時である。
半ば、諦めモードになりつつ、僕は保っていた意識を手放すのだった…。
†
「う、う~ん…。」
どれくらいの時間眠っていたのか分からない…だが、目が覚めたの立ち上がろうとしたのだが、身体が動かない。
いや、正確には手足は動くのだが、身体がまるで縛り付けられているかの様だ。
「………って、そりゃそうだ、実際に縛ってんだから…。」
どうやら、まだ完全には覚醒してないのか寝惚けていた様だ。
下手をしなくても落下しそうな危険な状態だから…と、落下防止の為に自分の体を木に縛ったのを思い出す。
正直、今の姿を誰にも見られていなかったのは幸いである。
木の上で、幾つもの紐に縛られている男…とんだ変態である。
「って、アレ…紐が解けないぞッ!?」
落下しない様に身体を縛った紐は、寝た事で負荷が掛かり、キツく縛った状態へと変化していた。
その為、安定はしているものの、逆に解く事が困難な状態になっていたのだった…。
拙い作品ではありますが、気に入って頂けたら幸いです。
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