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「お、美味しい…。」
コップに注いだ水を『ゴクリッ』と一口飲んだ感想は、その一言に尽きる。
実際には、無味無臭だし、中身は普通の水…しかも、冷たくも何とも無い、ただの水である。
にも関わらず、美味しいと思ったのは、それだけ喉が渇いていたと言う事を意味している。
しかも、眼下には未だに狼が彷徨いていて命の危険がある緊張感も相見あってか、喉が異常に乾いていたのも原因の一つかもしれない。
だが、そんな事など、今はどうでも良いと言わんばかりに、コップの水を飲み干すだけでは物足りず、直接、水筒に口を付けて『ゴクゴクッ』と勢いよく飲み干していく。
本来であれば、水筒に入りきれない程の量を飲み干しているが、この水筒は『魔法の水筒』…魔導具の一種で、水を生み出す事の出来る水筒の為、減ると同時に新しい水を作り出す。
そのお陰で、腹いっぱい飲んでも、水筒から水が枯れる事はなかった。
ついでに、水の心配がなくなったから…と、頭から水を被ると、今までボーっとしていた頭が冴えてくるのが分かる。
「さて、これからどうするかな…。」
喉の乾きが解消された事で、少し落ち着く事が出来た。
そこで改めて、先程のスキルについて、一考してみた。
先程、謎の声は【命の危険により救済処置として、スキル:レプリカが『無条件』で発動します。】と言っていた。
その言葉通りであれば、僕のスキルは『無条件』で発動したと言う事。
つまり、逆に考えるのであれば、通常であれば特定の条件をクリアすれば、スキルが発動出来るのではないだろうか?
そして、もう一つ…僕が手に入れた、この『魔法の水筒』…これは僕が見た『魔法の水筒』に比べて、作りが雑…それこそ1ランクどころか2ランク下と言っても良い程の出来だ。
例えるなら、僕が見たのが純正品であるなら、手に入れたのは**製のパチモノ…と言うのが相応しい位な出来である。
とは言え、スキルの名前が〖レプリカ〗である事を考えるなら、それは許容範囲なのかもしれない。
何故なら、レプリカとは複製品の事を意味する。
よくレプリカを偽物と間違って言う人もいるが、レプリカは恐竜の骨のレプリカなど、色々な所で見る事が出来る。
また、昔の武器のレプリカを展示してる博物館などもあるほどだ。
それと、余談であるが、レプリカの中には、本物を超える物も存在すると聞いた事がある。
まぁ、当時の技術を、現在の技術で作った場合、その精度の高さから本物を超えても何ら不思議ではない。
と、考察してみたが、結局の所、僕が手に入れた『魔法の水筒』がパチモノに見えるのは、スキルのレベルが低いからなのだろう。
だとすると、これから鍛えていけば、より本物みたいになるはずである。
「って、コレじゃ条件が分かってないままじゃん!」
スキルが発動した時、僕は何をした?
無条件で発動したとは言え、キッカケがあった筈だ…ん?あの時、僕は『くそー!飲み物がほしいッ!!』と叫んだ。
そう、飲み物がほしいと、強く願った…もし、それがスキルを発動させる引き金だとしたら?
そして、もう一つ…『魔法の水筒』を出した時、僕は、落とした水筒ではなく大量の水を望んだ…その結果、街で知った『魔法の水筒』が条件に合ったのではないだろうか?
だとしたら、スキルを発動させる条件と言うのは、『何が欲しいかを強く願う』事で、スキルが発動するのではないだろうか?
まさか、そんな都合の良いスキルが存在するのかは不明ではあるが、試してみれば分かる事だ。
喉が潤ったとは言え、ちょうどお腹も空いている事だから、実験には持って来いだ。
で、あるならば…どうやってスキルを使うかが重要になってくる。
まぁ、危険な状態になるまで発動しなかった事を考えると、常時発動型スキルではなく任意発動型スキルなのは間違いないだろう。
つまり、今から僕がスキルを使うにあたり、重要なのは『何を』求め、スキルを『使う』か…だ。
正直、何処まで可能なのかは分からない。
だが、この世界に来て食べた物と言えば、硬い黒パンと塩辛い干し肉…いくらお腹が空いているからと言っても『魔法の水筒』の時とは違い、自分の意志で使うスキルで黒パンや干し肉を出すのは何か違う。
どうせなら、もっと良い物…と言うか、食べ慣れた物が好ましい。
ならば、ここで望む物と言えば…もしかしたらダメかもしれない。
だが、だからと言って諦めたくない…心から迷いを消すかの如く強く願い、スキル〖レプリカ〗を使う事を意識する。
そして、その願いは叶えられた…。
「ただのおにぎり~♪」
どうせ願うならもっと良い物を願えば良いのに…とも思ったが、どうしても食べたくなったのは文字通り、ただのおにぎりである。
本当は、具入りを考えたが、どうしても海苔を巻いただけの塩むすびが食べたくなったのだ。
それに、もし本当に成功するのであれば、次回から選択すれば良いだけである。
正直、一回で成功するとは思わなかったが、それでも成功したのは嬉しい。
何はともあれ、望んだ食料…おにぎりが手に入ったのだから、さっそく食べてみる事にする。
なお、某未来から来た猫型ロボットの真似をしたのはご愛嬌である。
決して、一人で寂しいからではないと名誉の為に言っておく。
「いっただっきま~す!パクッ♪」
だが、スキルが成功した事で、この時の僕は、重要な事を忘れていた事に気が付いていなかったのだった…。
拙い作品ではありますが、気に入って頂けたら幸いです。
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