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「しっかし、いきなり国から出ていけ…か。
まぁ、イケメン君のお陰で殺されなかっただけマシだけど、右も左も分からない異世界で、どうやって生きていけってんだって話だよな…。」
半ば、つまみ出される様に城から放り出された僕は、何処に何があるかも分からずに困り果てていた。
なお、右も左も分からないと言うのは『その土地の地理がまったくわからない』と言う例えであって、いくら異世界だからって、右も左も元の世界と同じだから問題はない。
「とりあえず、渡された物のチェックから始めるか…。」
僕はそう呟くと、通行の邪魔にならない様に道の端へと避け、渡された鞄の中身を見る。
そこにはカチカチに固まっている黒っぽいパンが三切れと、同じくカチカチの…何の肉か分からない干し肉が三切れ入っていた。
「え?渡された食料ってコレだけ?」
黒っぽいパンは、よく小説などの話で聞く黒パンだろう。(そのまんまだが)
スープなどに浸して、柔らかくして食べるか、そのまま硬いままガリガリと食べるのが主流だったはずだ。
単純に放置された所為でカチカチに固まったパンじゃない事を祈ろう。
また、干し肉に関しても、小説などではよく聞くアイテムで、少しずつ噛み切って、よく噛んで食べれば問題ないはずだ。
余裕があれば、スープに入れ出汁の代わりにしても良いとか聞いた気がする。
まぁ、どちらにしても、かなり塩辛いって話も聞くので、そのまま食べるには塩辛いかもしれない。
結果、急ぎの問題としては、飲み物が何もないと言う事だろうか?
人は食わなくても数日は食わずとも生きていけるが、水がないとそれほど長く生きていけない。
それと、黒パン&干し肉が各三切れしかないと言う事も問題だ。
単純計算で三食分しかない…この世界が一日三食であれば、渡された食料は一日分しか無い事を意味している。
「…もしかして詰んだ?」
あまりの食料の少なさに、一瞬目の前が暗くなる…が、僅かな望みがある。
そう…城の者達に笑われながらも、頑張って拾ったお金である。
城の者達の気分を害さない為に、道化に見える様に拾ったが、拾ったお金には幾つか種類があったのだ。
おそらく、銀貨と思われる硬貨が三枚。
同じく銅貨だと思われる硬貨が八枚。
更には、その銅貨より大きい銅貨…仮に大銅貨と呼んでおくが、大銅貨が二枚。
そして、作りが荒く明らかに価値が低いと思われる硬貨…鉄貨とか賤貨とも思われるお金が十五枚、僕のポケットに入っている。
まぁ、このお金を見れば分かる様に、元の世界のお金は、まず使えないとみて正解だろう。
そうなると、わざわざ恥をかいて集めたお金の価値を知りたくなるのは当然だと思う。
そもそも、僕は先程、この国から出ていけと追い出されたのだ…それなのに、いつまでもこの国にいれば、今度こそ捉えられ、イケメン君達に知られる事なく、秘密裏に始末されるであろう事はは容易に想像出来る。
だからこそ、一刻も早く、この国を出る準備をしないといけない訳で…一先ず、少しでも城から離れるべく歩き出すのだった…。
†
「おじさん、コレ、いくらかな?」
城から追い出された通りは、そのまま大通りへと通じていたみたいで、そのまま進むと道幅の広い通りへと出た。
更に進むと、次第に人が増え活気も溢れかえっている。
どうやら、僕はいつのまにか大通りを抜け、市まで抜けていた様だ。
そんな中、街中だと言うのに武器を防具を身に纏う人達が多くいるのに気が付いた。
テンプレ通りで言うのであれば、おそらく冒険者とか探索者とか言われる人達である。
そして、そんな人達が見ているの物…それは、今、僕が一番必要としているであろう道具、水筒である。
まぁ、何故かバナナの叩き売りスタイルなのは不思議ではあるが、僕はその水筒を手に取り、つい店のおじさんに声を掛けてしまった。
「お、にぃちゃん、良い物に目を付けたね~、コレは今、王都で人気の『魔法の水筒』って品物で、この蓋の所に魔石をちょいと嵌めれてやれば、水筒の中に水が貯まるって言う便利な魔導具だ!」
「へ~マジックアイテムか…って、高いんですよねッ!?」
マジックアイテムも、効果により値段はピンキリと言うのはよく聞く話。
いくら叩き売り状態とは言え、安い買い物ではない筈だ。
「いやいやいや、この『魔法の水筒』なんだが、たったの大銀貨八枚!
こんな良心的な値段の店は、他には無いよ!」
「えっと…なら、コレで…。」
僕はそう言って、城で回収したお金から銅貨を八枚取り出す。
「おいおい、にぃちゃんよー、人をバカにしてんのか?
俺が言ったのは銅貨じゃなく銀貨だボケッ!」
「す、すいません…聴き間違いました、大銀貨ですね!」
僕は再び財布代わりの袋を開ける…が、中にある銀貨は三枚だけ…もしかしたら、大銀貨かもしれないが、あの様子からしてそれはないだろう。
そう、僕が笑い者になりながら回収したお金の中に銀貨が三枚しかなかったのだ。
「あ、あの…銀貨三枚しかありませんでした…。」
僕は申し訳無さそうに手に持っていた『魔法の水筒』を元の場所に戻す。
「チッ、貧乏人が!さっさと何処か行きやがれ!」
「す、すいませんでした!」
異世界に召喚され、無能と罵られ、理不尽に殺されかける。
たまたま『勇者』のイケメン君のお陰で追い出されるだけで済んだ。
…だけど、街に出てすぐ、こんな惨めな思いをするとは思っても見なかった。
いや、それ以前に、城からの支給品は、お金を含め、これから生きてくだけの物資が入ってないと言う事に、今更ながら気が付いた。
そりゃそうだ…元々、無能と言う事で処刑されようとしていたのだ。
そんなヤツに対し、あの城の人達が、生きていくだけの補償なんてするはずがないではないか…。
あの二人の印象を良くする為に、形だけの補償…この世界に来たばかりの僕達には、それの価値は分からない。
ならば、それらは、悪い意味での適当で良かったのだ。
そして、今、僕はその洗礼を受けた…つまりは、そう言う事…。
僕は絶望を感じながら、その場を後にするのだった…。
拙い作品ではありますが、気に入って頂けたら幸いです。
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