ある日の一幕:龍神様の葬列/雨音の独白
彼の葬儀は歴代龍神が祭られている祠堂で行われた。多くのあやかし達が喪に服す為に各地からやってきた。何百、何千というあやかし達が長蛇の列を作り先代の冥福を祈った。
当時、異界には黒い衣を身に纏うものたちで溢れていた。雪が溶け始める、まだ少し肌寒い春のことだった。
表が黒い衣を着た者達で溢れ返っている中、雨音は祠堂の裏にある森の中で一人、ただ歩いていた。
耳を澄まさずとも主人の旅立ちに心を痛めるあやかし達の声が聞こえる。
「あぁ...民が泣いている。」
あなたを思って、あなたの民が泣いている。私はどうすれば良いのですか。どうすれば良かったのですか。
私は最善を尽くしたつもりでした。貴方はお優しい方です。こんな私を救い、傍に置いてくださった。
貴方からしてみれば私は相当ひねくれていたことでしょう。何を言っても素っ気なく、貴方に対する態度も悪い。それでも貴方は私に笑いかけてくれた。あれでも嬉しかったんですよ?
それなのに貴方は私を置いて旅立ってしまわれた。何故ですか。何故貴方はそんなにも...
生産性のないことだと理解している。
今更後悔しても無駄だと理解している。
けれど、どうしても思考が止まない。
何故貴方が死ななければならない?
民、一人一人に心を砕き、自身のことは常に後回し。私とは違う。善良で寛容、皆に愛される貴方が何故...
理解できない。理解できない。
何故?何故俺を身代わりにしてくださらなかったのですか!!そうしていれば貴方は今も......
分かっている。貴方は優しい。それこそ底無しに。だからこそ俺を身代わりにし、貴方だけが生き残ると言う選択肢はなかったのでしょう。けれど...
「俺を......置いて行かないでくださいよ......」
小さなその声は木々のざわめきのかにかきけされた。