声 (上)
ガタンガタン、ガタンガタン......
カーンカーンカーン......
電車が線路を通る音
「これからどこ行く?」
「マック行かね?」
「おっそれいいな!ちょうど腹減ってたし」
「いつきちゃん、サッカーしよう?」
「いいよ!!じゃあ、はるちゃんも呼ぼー!」
「今日の課題多すぎー」
「まじでそれな??」
「先生さようなら~!」
「さようなら」
下校中の学生達の声
その中に......
「たす....け...ぇ......」
人の耳に届かない声が混じる。
――――――
「雨音ー」
「......」
「雨音ー?どこだ??おーい!」
どこ行ったんだ?あいつ?
さて、事の発端は数時間前.......
――
夜行水清 、雨音の屋敷、庭
「ん?」
「どうかした?」
「いや、誰か屋敷の門前に来たらしい」
「だったら早く行ってこいよ?」
「絶対面倒事だろ。誰が好き好んで...」
「雨音さん??」
「はぁ......分かった。」
そう言って雨音は渋々、屋敷の門前へ向かった。
数分後、雨音はため息を吐きながら屋敷へ戻ってくる。
「なんの用だった?」
「面倒事」
「ふ~ん」
「......任務だ」
やっぱりそうか。
こいつどんだけ嫌なんだよ......
「まぁまぁ、どうせすぐ終わるよ」
「いや、蘇芳から回ってきた」
「......最近多くない?」
「今、幾つか掛け持ちしているらしい。手が足りなくてこっちに回していると言っていた」
「今日は誰が言付けに?」
「紅」
「今日は紅君か」
「相変わらずだった??」
「それはそうだろ。式神の性格や調子が変わるのは結構な大事だぞ?」
「それはそうだ」
「とにかく支度する」
「ん、了解」
そうして現世へ来たのだが......現在。
雨音が見当たらない......マジでどこに行ったんだ??
鳥居を通り、結界の外へ出たのだが一緒にいたはずの雨音の姿がない。
もしかして早速はぐれた??
「まぁ、はぐれてしまったのは仕方ないし、取り敢えず聞き込みしますか...」
少し不安に思いながらも辺りを散策する。
ここは桜の木が立ち並ぶ川沿いの土手。といっても季節は秋。桜の花はとうに散っている。通学路の役割も担っているのか、少し遠くから同じ様なデザインの制服を着た7~18歳位までの少年少女がこちらへ歓談しながら歩いてくる。
流石にこのままではまずい。
散策していて気づいたが僕は今現世の服装ではない。
雨音がいない今、この現代社会において17,18の和装の男が一人で歩き回るなど不審だ。普通に考えて怪しい。厄介なことになる前に身を隠そう。
そう思い近くの桜の木の影に隠れる。
「雨音が居てくれればこんなコソコソと隠れる必要なんてないのに......」
小さくそうぼやくが返事は反ってこない。
「あの、すみません」
「うへぇ!?」
いきなり後ろから声を掛けられ、かなり間抜けな声が出てしまった。
「んんっ..なんでしょうか?」
驚きながらも体勢を立て直し、返事をして声を掛けてきた男を振り返る。
「へ?」
「ふっお前なぁ、気づけよ」
そこには学生服を来た雨音が立っていた。
「...雨音......お前......なにやってんだよ」
「ん?見れば分かるだろ?」
「......コスプレ?」
「んな訳ないだろ。任務だよ」
「コスプレの?」
「......お前話聞いてたか?」
雨音があきれた顔をしてこちらを見る。
流石に悪ふざけが過ぎたか?
「ごめんごめん。任務だっけ?僕まだその辺聞いてないんだけど?」
「そうだったか?ならこれから説明する。まず、今回の任務は元々蘇芳の管轄だったところを人員不足のため手が回らないと言うことでこちらに回ってきた。ここまでは知っているな?」
「まぁ、さっき屋敷で言ってたし」
そう、基本的に現世での調査は蘇芳さんの管轄だ。
異界では龍神様が最高権力を握っているが先代が亡くなった後、代替わりまでの間、混乱を避けるために雨音が考案した代表制が今も機能しているのだ。
簡単に説明すると一般の妖達の要望や意見、他にも事件などを各領地の代表が集め、議題に相応しいものを選定する。この時点でそれぞれの領地で対処可能なものはそれぞれの領内で処理していく。己の領地で対処しきれない場合、または各領への周知が必要と判断された場合のみ議会で話し合う。
話し合った結果は龍神様に確認して頂き指示を仰ぐ。
最終的な決定権は龍神様にあるという形を取っている。現世の日本的な例えをするのであれば政治家と天皇陛下のようなものだ。
代表は5名おり、それぞれが領地を納める力のある妖だ。雨音、黒芭、蘇芳はその代表でもある。
議会とは別に代表達にはそれぞれ役割がある。
大きく分けると潜入調査、現世調査、軍事、物資の調達、救援の五つ。
現世調査が管轄の蘇芳の手が回らない今、救援の役割を担う雨音に白羽の矢が立ったというわけだ。
「内容を簡潔に言うと最近この辺りで17,18頃の人間が行方不明になる事件が多発しているらしい。その事件の調査だ。」
「なるほど?結構、省いたな?」
「簡潔にと言っただろ」
「はいはい。で、その格好は?」
「変装だが?」
「学生のコスプレ?」
「まだ言うか?」
「わかったわかった。ごめんて。それで蘇芳さんが手一杯と言うことは現世でそういった事件が多発してると言うことだよな?」
「察しがいいな。そう。最近特に多いらしい。」
「最近いきなりってなんか怪しくない?」
「それは俺も思っていた。だが調査しないことには状況は変わらない。さっさとやるぞ」
「はーい。で?雨音お前だけなんで現世の装いで僕はこのままなんだよ!!」
「なに言ってるんだ。お前」
「は?」
「もう終わってる」
「は?」
そう言って自身の衣服を改めて見てみるといつもの和装とは違う。黒い詰襟の学生服を着ていることに気づく。
「……いつの間に?」
「いつだろうな?」
雨音が意地の悪い顔でそう言う。
こいつ本当に何百年も生きてる鬼かよ??
やってること中学生だぞ??
「で?今回の手掛かりは?」
「ない」
「は?」
「だから、ないと言っている」
「うん?そうだね?......いや!そうじゃなくて!!は?なんで?」
「いやそうだろ。今回は逃亡者を捕らえろではなく、事件を調べてこいだぞ??あるわけがないだろ」
「いや、まぁそうなんだけどさ??ないの?」
「ないものはない。文句があるなら無能な現世の奴らに言え。元々現世からの支援要求で調査担当の蘇芳の所に行った案件だったんだ。仕方のないこととは言え陰陽師達も随分とひ弱になったものだな」
「陰陽師って本当にいるの?」
「は?今更じゃないか?」
「いやさ?だってみたことないし」
「お前がいつもみてる方術は陰陽師らが使っていた術式が元なんだが?」
「いや!?知ってるよ?知ってるけど実際にあったことないな~って」
「それはそうだろ。あいつらは基本的に異界のことに干渉しない。ただ現世で起こったこちら関係の事件についてだけしゃしゃり出てくる。全く面倒な奴らだ」
「まぁまぁ、そう言うなって」
ヤバい...雨音機嫌悪くなってきた……
既に帰りたい…………
「ところで今回は助っ人はいない感じ?」
「残念ながら」
「そっか……まぁ、みんな忙しいから仕方ないか」
「…………不満?」
「いや、そうじゃなくてたまにはワイワイしながら任務って言うのもいいなと思って」
「なるほど……」
雨音が考え込んだ様子で黙る。
「さて、雨音さん?考え込んでるとこ悪いけどさっさと任務終わらせるんでしょ?まずは基本の聞き込みから。ボーッとしてないでさっさと行く!!」
「はぁ、はいはい分かった分かった。」
「はいは一回!分かったも一回!!」
「はぁ……分かりました。これでいい?」
「それでいいから!早く。」
「なんなんだ全く」
丁度こちらへ向かって歩いている17歳頃の学生服を着た少年に声をかける。
「すみません。とある事件について聞きたいことがあるんですけど、お時間宜しいでしょうか?」
「いいですけど…………君達も学生でしょ?そんなこと聞いてどうするんですか?」
おっと……そういやそうだわ……どうしよ
返答に困っていると後ろにいたはず雨音が数歩前に出る。
「彼の叔父が探偵でして、僕たちはその助手をしてまして」
そう言って目の前の少年に笑いかける。
なんだよ"僕"って?お前一人称"俺"だろ!?
なんかゾワゾワする!!やめてくれ!!
「なるほど……そうなんですね。失礼しました。」
この人めちゃくちゃ礼儀正しいな!?しかもしっかりしてる。もしかしてお金持ちの家の人なのかな?
取り敢えず話してくれそうだしこのまま聞いちゃえ。
「では改めてお聞きしますね。最近この付近でなにか不思議なことが起こったり、行方不明になった人がいたりしませんでしたか?」
「そうですね。不思議なことというか、なんというか......その、聞こえるらしいんです。」
「聞こえる?なにがです?」
「声が……聞こえると……」
「なんの声です?」
「子供の声だったり若い男の声だったり様々だと聞いています。」
「場所と時間は?」
「場所はこの辺り、河原近くの桜並木の土手で、時間は丁度今みたいな学校が終わった後、みんなが下校する時間帯です。」
「それはどこで聞いたんですか?」
「学校の噂話です。何でも人が消えた所を見たとか……」
「その見たと言う人は!?」
「えっと……その人も行方不明で……」
「あ……失礼しました。」
「いえ、お仕事ですから仕方ないですよ」
「たす……けぇ……」
その時、聞き覚えのない微かだが確かに聞こえる幼い少年の声が聞こえた。不自然にも風が強く吹きどこからか赤い紅葉の葉が渦を巻くように風に飛ばされて来る。
キィン……
刃物がぶつかった音がした。
驚いて音がした方向に目を向けると黒の詰襟に学生帽を被った14歳頃の少年と雨音が刀を合わせているのが目に映る。
「雨音!?」
「こいつ、いきなり現れてそこの少年を拐おうとした」
「え!?ちょっマジかよ!?」
先程まで目の前にいた少年は余程ショックだったのか倒れて意識を失っていた。
「海摛、取り敢えずその少年を結界に」
「分かった」
海摛は詰襟のポケットから札を一枚取り出し印を結ぶ。すると薄い半透明な幕が海摛と気を失った少年の周りを囲む。
「雨音!出来たよ!」
「了解。」
雨音は相手の刀を弾き、一旦距離を取る。
次の攻撃の体制に移ろうとしたその時
「もしかして見つかっちゃった?」
そう言って学生帽の少年は赤い紅葉の舞う中、ケラケラと笑いながら姿を消した。
「逃げられたか」
雨音が呟く。
「……みたいだね。雨音、さっき"見つかっちゃった"って言ってた。なにに見つかったんだろう……もしかして僕達に……?」
「さぁ、知らない。それよりも一旦状況を整理して体制を立て直す。それでいいか?」
「そうだね。今分かってる情報だけじゃ満足に推測も出来ないし、ひとまず気絶してる彼を家まで送り届けて、また後日詳しいことを聞こう」
ザァ…………
「"あの人"じゃなさそうだけど多分同じ、もしくは……似たような"もの"だよね?だって同じ術を使ってる……はぁ、やっとだ……やっと……ねぇ?……さん?」
風のなか聞こえた微かな声。それに気づくものはきっと現し世の者ではない。
――
雨音の屋敷
「何故かどっと疲れた……」
「海摛、横になるなら自室に戻った方が」
「雨音……」
「なんだ?」
「あの子大丈夫かな?」
「大丈夫。式神を憑けてきた。流石に消滅はさせられないが、結界としては十分だ。それに術が発動すればこちらに伝わるようしてある。安心しろ」
「ん、流石だね」
正直雨音を誉めるのはなんだか悔しいがこういうときは素直に凄いと思わなくもない。
「ねぇ、雨音」
「ん?」
「強くなりたい」
「……お前はそのままでいい」
「でも……」
「変わらなくていい。俺がやる。だから……」
「違う。雨音がどうこうって訳じゃなくて僕が!!僕が嫌なんだ。弱いのも、雨音に守られ続けるだけなのも、役に立たないのも……僕は強くなりたい。お前が作った札を使うだけの木偶の坊にはなりたくない」
「…………少し……考えさせてくれ」
「分かった…………」
…………ん?いや、待てよ?何故雨音の許可がいるんだ?
冷静に考えるとおかしくないか??
でもさっき分かったって言っちゃったよ……
訂正できないかな?でもな……この重い空気のなかで「さっきの訂正する」なんて言えない……
はぁ……後悔先に立たずか。
――
雨音の屋敷、朝食後、縁側
いつものごとく朝食が終わった後雨音がお茶をいれる。
縁側には日の光が当たり、心地の良い風が吹き抜け周囲の木々を揺らす。
あれから数日がたったが例の少年に憑けた式神からの反応はない。つまり今のところ被害にあっていないということだ。その事実に安堵しつつもいつまた狙われるか分からない。もしかすると標的を変えているのかもしれないという不安感がある。が、先日雨音が言ったのだ。
「あいつは標的を変えない」と、何故そう言いきれるのかと聞くと雨音は"あいつは見つけたからだ"と言った。正直、"何を"と聞きたかったが雨音はそのまま厨へ行ってしまいこの話はそのままだ。
「なぁ、雨音」
「ん?」
「あのさ?この間のあいつは標的を変えないって、どうしてそう言いきれるんだ?」
「あぁ……そうか。お前には聞こえなかったのか……」
「聞こえなかったって?なにか聞こえたのか!?」
「あぁ……そうだな。」
「で?何を聞いたんだよ?」
「誰かを探しているらしい。」
「は?誰かって誰だよ?」
「そこまでは分からない。風に掻き消されてそこまでは聞こえなかった。けど、俺達と同じ術を使っていたと」
「と言うことは陰陽師を探してる?」
「それもだがあの術は議会の代表の配下も使用しているはずだ」
「…………絞れない」
「そう言うことだ。だがあいつは同じものだと、やっとだと、そう言っていた。と言うことは必ず俺達の前に現れるはずだ。だから唯一の手掛かりである彼以外に標的を変えることはない。」
「確かに?」
「取り敢えず、黒芭に過去あの辺りであった事件について調べて貰っている。もう少し落ち着け」
「……分かった」
落ち着くために雨音が淹れてくれたお茶に手をつける。今日は煎茶だ。朝食後で茶菓子はでないが煎茶は甘味、渋味、苦味が程よく感じられ親しみやすさがある。慣れ親しんだ味で茶菓子がなくとも心を落ち着かせてくれる。
「雨音さーん」
屋敷の外から声がする。
「客人だな」
「この声、黒芭じゃない?もしかして例の件でなにか出てきたとか!?」
そうこう言っている間にも雨音は屋敷の門へ足を向けていた。その数分後、雨音が黒芭を連れ屋敷に戻ると黒芭は軽く挨拶をし、真剣な顔をして話し始めた。
「"とうりゃんせ"って知ってますか?」
「とうりゃんせ?」
雨音が首を傾げる。
「あ!?もしかして昔、子供が歌って遊んでたって言う童謡?」
「そうそう、それなんだけどどんな歌か知ってる?」
「いや?知らない。僕はしたことない」
「ん?まぁいいか。取り敢えずその歌詞なんだけど……」
通りゃんせ 通りゃんせ
ここはどこの 細道じゃ
天神さまの 細道じゃ
ちっと通して 下しゃんせ
御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つの お祝いに
お札を納めに 参ります
行きはよいよい 帰りはこわい
こわいながらも通りゃんせ 通りゃんせ
「天神様の細道って?」
「要は神社へ向かう細い道ということだな」
雨音が淡々と答える。
「じゃあさ?七つのお祝いってなんで7歳?」
「7歳までは神の子。流石に七五三は知ってるだろ?」
「うん?一応」
「節目だよ。この歌が出来た頃、いやそれ以前からもだが昔は今ほど豊かではなかったから体の出来上がっていない子供はいつ死んでもおかしくなかった。よく人がなくなった時に神の元へ旅立ったという表現を聞くだろ?つまり、神の子はいつ神に連れていかれるか分からない。だから神の子。」
「なるほど??」
半分くらい理解できてないんだが……
「つまり、7歳までは人として認識していなかったということか」
雨音が黒芭に問う。
「そう言うこと!!流石雨音さん!」
「それは分かったけどなんで行きはよいのに帰りは怖いんだ?」
「この歌は7歳を迎えた子供とその母親、そして神社の門番が出てくる。」
「うん?そうだな??」
「行きはよいよいそれは母親がついているからだと仮定すると帰りは怖いつまり子供は一人になってしまう。」
「確かにそれは怖いけどどうしてその仮定になったんだ?」
独り言を呟くと
「口減らしか……」
雨音が低い声で言った。
「口減らし?」
「あぁ~海摛は最近の人だからな……つまり昔は豊かじゃなかったから食べるものも少なくて子供がいることによってただでさえ少ない食糧が余計に減るんだ。」
「つまり親の食糧のために子供を神社に置いてきたと?確かにそれならその仮定も分からなくはない……けど本当に自分の子供にそんなことをする親が?」
「…………」
「…………」
短い沈黙の後黒芭が口を開く。
「まぁ、世の中色んな人がいるもんだからな」
その声はあからさまに沈んでいた。
「歌については取り敢えずここまでにしよう」
黒芭が仕切り直す。
「本題はここからだ。過去、この歌から派生した怪異が今回の件の河原付近で事件を起こしていました。当時、現世でその事件を担当していた陰陽師が次々と死体で見つかり、こちらに救援を求めて来ていたみたいです。」
「なるほど……それで?」
雨音が相槌をうつ。
「当時は蘇芳の父君の管轄だったのでそれ以降の詳しいことは分かりませんでした。力不足で申し訳ありません」
「いや、そんなことはない。十分、役立つ情報だ。ありがとう」
雨音が黒芭に向かっていう。
「黒芭……お前ちゃんと仕事してるんだな?ちょっと感心した」
「なんだよ!?お前、もうちょっと俺に優しくてもいいと思うんだけど!?」
「え?確かに凄いと思うけど、それら全てが帳消しされるレベルのブラコンだぞ??無茶言うなよ」
いつものごとくちょっとした言い合いが始まるかと思いきや……
「ま、ひとまず情報伝えたからそろそろお暇しようかな」
「え!?なんか早くない!?」
「て言ってもお前任務の準備あるだろ?雨音さんもう始めてるみたいだけど?」
「え?マジか!?」
先程まで隣で話をしていたはずの雨音の姿は既にない。
「ほら~?さっさとお前も準備しな?あの人基本面倒臭いとか言いながらもこういう任務はさっさと終わらせたい派みたいだから」
「そんなこと言われなくても分かってるっつの」
「ハイハイんじゃ今度こそ俺はお暇するよ。あ、勝手に出てくから送んなくて大丈夫。任務頑張んな~」
そう言って黒芭は屋敷の外へと歩いていった。
雨音のやつ。一言位声かけてくれてもよくない??
てか黒芭ももう少し早く言ってくれよ!?
そうして二人はまた、現世へ向かった。
――
とある団地にある。マンションの一室、その扉の前。
「さて……あの少年の家へ来たはいいけど…親御さんが出てきたらどうしよ……」
「なに言ってんだ?今更」
雨音が呆れたような顔でため息をこぼす。
「それはそうだけど!!」
ピンポーン
「ちょっと!?なんで押した!?まだ心の準備が!!」
「はーい」
ガチャ
「どなた様でしょう……か……先日の!?」
「取り敢えず一つ言わせてもらってもいいかな?」
「え?はい、どうぞ?」
「誰かも分からないのにドアを開けない!!確認してから開けな!?普通に危ないから!!この間の警戒心どこ行ったよ!?」
「え?あ、はい。気を付けます。えっと……お名前をお聞きしても?」
「今更だな!?まぁいいや、僕は海摛。で隣が雨音。君は?」
「あっそうですね。名乗っていませんでした。自分は|河瀬成海といいます。」
「成海か……なんか女の子みたいな名前だな?」
「いやいや貴方に言われたくないですよ、海摛さん」
「なんでもいいと思うんだが……」
雨音が心底どうでも良さそうに呟く。
「そうですね。えっと先日お話ししていた事件についてですよね?」
「話が早いな。」
「それはまぁ、あ!?そうだ。先日は送って頂いてありがとうございました。」
「いや、それぐらいなんでもない」
「そうそう。あれくらい別にどうってことないよ。てか運んだの僕なんだけど!?」
「それで成海。どこまで覚えてる?」
「えっと…… いきなり中学生くらいの子が現れて、雨音さんがなんか戦ってて…………」
「なるほど…………把握した!そこまでは覚えてると」
「はい……」
「まぁいいや、ひとまずこの間の続きを聞いてもいいかな?」
「はい。玄関ではなんなのでどうぞ、上がってください。」
「あ、いいんだ?親御さんは?」
「いえ、一人暮らしなので大丈夫ですよ」
「そうなんだ……いや!?ならなおのこと慎重にドアを開けろよ!?」
「ハハハ……以後気をつけます」
そう言って成海の部屋へお邪魔することになった。
――
「で?雨音……お前どうした?」
「いや、別に」
「あんまり見んなって流石に不躾だろ?」
雨音はハッとして申し訳なさそうに口を開いた。
「そうだな。すまない。こういった建造物に入るのは始めてで好奇心が」
「「え!?」」
成海と海摛の声が重なった。
「雨音?それマジで言ってんの?」
「雨音さん一体どこのお坊っちゃまですか!?」
雨音はポカーンと口を開く。所詮宇宙猫、スペースキャットといった様である。
おっ!そう言う顔も出来るのか。スペースキャットでも顔がいい!!なんというか、かわいい……?
「えっと……実は元々体が丈夫ではなくて和風建築と言うんだろうか?そういった建物以外に住んだことがなくて家に籠ってばかりで友人もいなかったものだから、こういった部屋は始めて見たんだ。」
あ……雨音!?迫真の演技!!うわぁ……確かにこいつ肌白いし睫毛バッサバサだし病弱と言われても確かに!!ってなるわ!!顔だけはな?でもさ、雨音さん?貴方、アスリート並みに筋肉あるの僕、知ってるんだぞ?まぁ?確かに?君は着やせするタイプではあるけど?
「……そうだったんですね。」
うおぉぉぉぉ!!マジか!?マジなのか成海!!お前、もうちょっと人を疑うことをしろよ!?てかこいつ鬼なんだけど!?帰ってこい!成海の警戒心!!
「そうとも知らずにすみません。と言うことは海摛さんは始めてのご友人と言ったところでしょうか」
うっわぁ……眩しい……眩しい笑顔だ……なんだこの人、光属性だ。光に属するタイプの人だ!!
なんでも信じるなこの人!?
「あぁ、海摛はわざわざ俺の為に……」
「ハイハイハイハイ。ストップ!!こんな話しに来たんじゃないでしょーが!?さっさと本題に入るよ!」
これ以上の悪巫山戯はいけないとそう思い口を挟んだんだが……成海から生暖かい目で見られている気がする……。別に聞かれて困る話とかないんだけど!?なんでニヤニヤしてんのさ!?これ絶対雨音のせいだ。帰ったら覚えとけよ!?
微笑ましいものを見るような目で見られているのを感じながらも話を進める。
「さてと、成海」
「はい、なんでしょう?」
「お前、陰陽師になる気はないか?」
成海はキョトンとした顔をして数秒固まりその後小さく声を出した。
「…………は?」
「おい、流石に説明不足が過ぎると思うんだが……」
「あぁ、そっかそっか、設定引っ張ってたからな~」
「んん??設定?詳しく説明していただいても?」
「えっと……どこから説明すればいいのやら……」
そう言いながら雨音を見る。
すると雨音は深くため息を呟き、仕方ないなとばかりに軽く眉を寄せる。
「はぁ……全く。いい。俺から説明しよう。」
「オネガイシマス……」
わりと毎度の事ながら申し訳ねぇ……。
「まずは俺達について改めて説明しよう。」
「うん?改めてですか?偽名だったとかですか?」
成海がポカンとしながらも問いかける。
「いや、偽名ではない」
「はぁ?なるほど……?」
成海はよく分からないと言った表情だ。
こいつ……天然か?
「まぁいい、ひとまず俺が話終えるまで口を開くな……」
そう言って説明し始めた。
「先日お前が気を失い倒れた後、俺の式神を憑けこの数日相手の出方を探っていたんだが思わぬ収穫があったんだ。」
成海は先程雨音に注意を受けたからか静かに雨音の話に耳を傾ける。
「単刀直入に言う。成海……お前は術師、つまり陰陽師の末裔である可能性が高い。」
「はぇ?」
「お?思ってた反応と違う?」
「いやいやいや!!そんなわけないですよ!?陰陽師って架空のものじゃないですか」
「いや、思ってた通りの反応だったわ……。雨音が確認したんだ。確かだよ。」
「はぁ……?と言うか仮にそうだとしてなんでそんなこと分かるんです?からかわないで下さい!!」
成海がバンッと机を叩き、身を乗り出す。
「はぁ……雨音は鬼なんだ」
「………………は?」
それはそうだ。いきなりこんなこと言われて冷静にそうなんですね!なんて流石の成海でもないよな??でも事実なんだ。事実は小説よりも奇なりってね。
「いや!?雨音さん怒ってもいいんですよ!?仲が良いとは言え鬼だなんて!!流石に失礼ですよ!!」
「あちゃーそうなったか……」
「あちゃーじゃないですよ!?雨音さん普通にいい人じゃないですか!!それを鬼なんて」
「雨音……」
「ん」
そう言って雨音は一枚、札を破った。
「は!?」
成海が驚きから固まる。
雨音が札を破ると煙がたち、雨音を覆っていく。煙が晴れたと思いきやそこにいたのは和装に身を包み、耳は少し尖り、目元は更に涼しげで口元からは白い牙が覗いている。
「これで信じる気になった?」
内心勝ったような心地である。
自分の顔故に今自分がどんな顔をしているか見えないがきっとドヤァという偉くムカつく顔をしていることだろう。まぁ……自分が何かしたわけでもないのでその熱は一気に虚しさに変わる。
「はい……こちらの方は雨音さん……で合っていますか?」
成海が戸惑いながらも問う。
「そうだよ。なんならこっちが元。いつもは僕に合わせて変化して貰ってるんだ」
「なるほど……?」
「まぁ取り敢えず信じていただけたと言うことで」
「え?じゃあ海摛さんは奥座敷に捕らえられていた雨音さんを連れて、今は雨音さんが鬼だと言うのを隠しながら、二人で叔父さんの探偵事務所を手伝っていると」
「ん?いやいやいや、違う!違う!違うよ!!想像力豊か過ぎんか!?なんだその設定??奥座敷ってなんだよ!?どこから持ってきた!?」
「え?違うんですか?」
「違うって!!えっと雨音が病弱とか叔父さんの手伝いとかは嘘なんだ。なんなら雨音が病弱とかは完全に悪巫山戯だしな……」
「そうなんですか!?では実はお二人が探偵なんですね!」
「いや!そうでもない!!だから……探偵云々も嘘だ」
「なる……ほど……?」
成海は未だ困惑しているようだが順応性が高いらしい。想像力故かもしれないがこの状況だと逆にこっちの方がありがたいかもしれない。
もういいかと言うような様子で雨音はため息をつきながら着物の袖から一枚、札を取り出し小さく何かを呟く。するとまた煙が上がり、しばらくすると現代の衣服に身を包んだ普段の雨音の姿が現れる。
…………毎回どういう原理なんだ??
「まぁ、話を戻すけど、成海。お前には素質があるらしい」
「素質……?あの……自分幽霊とか見たことないですけど?」
「いやそう言うのじゃなくて」
「つまり術、陰陽術を使う素質があると言っているんだ。霊視出来ない云々に関しては霊は基本的に発生すればすぐにでも迎えがくる。だからそうそういるものでもないし仮に本当に霊視出来ないとしても異界に一度でも行けば嫌でも見ることになる。安心しろ」
……それは安心出来るのか?
「分かりました。陰陽師になります」
「そんなあっさり決めていいの?」
「勧誘に来た人が何を言ってるんですか」
成海が笑いながら言う。
「それはそう」
「で?何をどうすれば良いのでしょうか?」
「ひとまず会いに行く」
「誰にです?」
「陰陽師の代表に」
――