俺はついに聖剣を手にした‼
サーラの笑顔を見ると今さっき受けた心のダメージが消えていくほど可愛い、先程の悪夢が洗い流されていくようだ。
それにご主人様という響きも悪くない。どことは言えないが俺はとある秘密の場所にこっそりと通い
そこで俺は〔ご主人様〕と呼ばれているために慣れているのである。
もちろんこれ以上は個人情報漏洩を恐れて言えない、読書の方々にもそのあたりを察してくれるとありがたい。
いつかサーラにもメイド服を着てもらいハートの文字を書いたオムライスを作ってもらおう。
ただそれだけでは二人の距離が縮まらないといち早く気が付いた俺は
器の大きさを見せつける意味も込めて優しく語り掛けた。
「俺の事はご主人様ではなくシンジと呼んでくれればいいよ、サーラ」
「わかりましたシンジ様、よろしくお願いします」
慌てて頭を下げるサーラ。まだちょっと固いか?まあ初対面だしこんなもんか
こうして俺たちは仲間として行動することになる
今後俺の唯一無二のパートナーとしてともに行動することになる、俺とサーラとの初めての出会いであった。
時間も押していたので俺達はバーニングワイバーンのいる森へと急ぐ
王女の用意してくれた馬車に揺られながら俺はずっとサーラを見つめていた
見たところ年の頃は12歳ぐらいだろうか?まだ幼さが残る姿であるがとにかく可愛いのである
あと四、五年もすればとんでもない美少女へと変貌するだろう。美少女育成計画という意味では悪くない
いやそれどころか僥倖といえるだろう、俺のギャルゲーに費やしてきたのはこのためにあるといっても過言ではない
【人間万事塞翁が馬】ということわざがあるが、おれはこの日のために生きてきたのだろうと確信した
まあ一度死んでいるのだが……
そんな夢と希望に満ち溢れたバラ色の未来に希望を膨らませながらその少女をマジマジと見つめ思わずにやけてしまう。
そんな俺の視線を感じたのであろう、少し恥ずかしそうに口を開くサーラ
「あ、あの……私の顔に何かついていますか?あまり見られると恥ずかしいのですが、私何か変ですか?」
「えっ、いや全然変じゃないよ。その青髪がとても素敵だし、何よりその【オッドアイ】は最高だと思うよ」
その時、サーラの顔が一瞬嫌悪感で歪んだように見えたが、気のせいだろう。
「あの……できればその【オッドアイ】というのは止めていただけないでしょうか?」
何を言っているのだろう、神の与えし最高のチャームポイントを自ら否定するとは⁉
俺が〈なぜ?〉という顔をしたからであろう、サーラは理由を話し始めた
「私、この目が嫌いなんです。小さいころこの目のせいで随分といじめられました
それに本来【オッドアイ】というのは猫などに使われるのが一般的で、人間に使う場合は
【ヘテロクロミア】という方が正式な呼び名ですから、できればそちらの方で……
って。えっ、シンジ様、何で泣いているのですか⁉」
俺の目から再び涙が流れ落ちる、俺は首を左右に振り認めたくないとアピールしたのだ
「【オッドアイ】じゃなきゃ嫌だ、【オッドアイ】には男のロマンが詰まっているんだよ‼︎
【オッドアイ】は別名【オッド愛】ともいわれていて、全人類の希望なんだ
そんな銀河帝国統帥本部総長みたいな呼び方、俺は認めない‼︎
もし世界の全員が認めても俺は、俺だけは絶対に認めない、認めないぞ‼」
俺の魂の訴えに、やや引き気味のサーラ
「ちょっと何言っているのかわかりませんが、シンジ様がそうおっしゃるのでしたらそれでいいです
でもこんな目のどこがいいのですか?本当にわからない勇者様ですね」
やや呆れ気味のサーラはため息交じりにそう言った
美少女に蔑まれるこの感じ、これはこれで悪くない。そう俺は違いのわかる男なのである
そんなことを思いながらも馬車はバーニングワイバーンのいる森へと到着した
案内され始めて実物を見たワイバーンは爬虫類特有の無機質な目でこちらを見ている
炎に耐性のあるワイバーンというだけあって、全身は赤くて厚い皮膚で覆われている
気持ちが昂っているのか激しく首を振って俺たちを威嚇している様にも見えた
体長は5m程だが羽を広げると横幅が7m程になる、目の前で見せられるととにかくデカい‼︎
モニター画面で見るCGの偽物とはやはり違う、異世界に来たという事を実感させられた瞬間だった
胸の鼓動とワクワクが抑えられない。何せこれからこのワイバーンに乗って聖剣をゲットするのである
ここからが俺の冒険の始まり、伝説への第一歩なのだ。
案内役の兵がワイバーンをなだめながら俺たちを背中に乗せてくれて騎乗法を指南してくれた
「ワイバーンの乗り方は比較的簡単です、手綱を持っていきたい方向へと首を向けてやれば言う事を聞いてくれますから」
俺はやはり選ばれた勇者のなのだろう、ワイバーンをすぐに乗りこなすことに成功する
コントローラーを手綱に持ち替えさっそうとワイバーンに騎乗する俺
この場面をスクショしたい気持ちを抑えつつ手綱を強く握りしめた俺は抑えきれない思いを吐き出した
「いくぞワイバーン、ここからが俺たちの冒険の始まりだ、待っていろよ魔王‼︎」
俺はワイバーンにまたがり天に向かってそう叫んだ。決まった。かっこいい、かっこいいぞ俺‼︎
ここはワイバーン君も俺の雄叫びに合わせて天に向かって雄叫びを上げてくれるとそれっぽいのだが
所詮は爬虫類、下等動物には男のロマンが理解できないのも無理からぬことだろう
それどころか、ワイバーンはなぜか俺をチラリと見て大きくため息をついたのだ
何だこのリアクションは?俺が不思議に思っていると、案内してくれた兵隊が申し訳なさそうに説明を始めた
「あの〜このワイバーンは非常に頭がいいので人語を理解します
そのような恥ずかしげな発言を聞くとこのワイバーンはアナタを心底馬鹿にしますからお気をつけを……」
何ということだろう、異世界に来て爬虫類にまで蔑まれるとは……
まあいい、聖剣を獲得したらこいつとはおさらばだ、綺麗さっぱり忘れてやる
こうして俺とサーラを乗せたワイバーンは大きく翼を広げ、大空へと飛び立った。
俺たちを乗せ上空高く舞い上がったワイバーンは雲の近くまで上昇した
上昇時にふわりと感じる重力感は中々のものだ、これぞ冒険
太陽が近く感じ、とても眩しい。サーラの青い髪が風にたなびき激しく暴れる
それを右手で必死に抑え込んでいた、そんな何気ない仕草がまた可愛い
そんな夢のような空のクルージングを楽しむ間もなく、あっと言う間に目的地であるヴォルケレスト山が見えてきた
激しい炎に包まれ真っ赤に燃え上がるその山は正にファンタジーの世界を実感させる
そして徐々に近づくにつれ炎の熱が体感として伝わってくるのだ。
「凄い山ですね、本当にあんな所に伝説の剣があるのですか?」
下に見えるヴォルケレスト山をマジマジと見つめ思わずそう呟いたサーラ
「間違いないらしい。あの山の頂上に伝説の聖剣があると神様は言っていたからな
ただいくらこのバーニングワイバーンでも山に降りることはできないようだから
ギリギリまで近づいて飛び降りる。危険は百も承知だが、人々の為に俺がやらなければならないんだ
だからサーラはワイバーンの背中で待っていてくれ」
危険を承知で身を投げ出す俺に対しサーラは心配そうに俺を見つめ
「気を付けてくださいね」
と声をかけてくれた。いいね~、やや演出過多かもと思ったが
この炎の山にヒモ無しバンジージャンプをおこなうリスクを考えればこのくらいの演出は当然至極ともいえるだろう
しかし直前になって不安になって来た俺はこっそりスマホを取り出すとサーラに聞こえない様に聞いてみることにした
「おい、本当に大丈夫なのだろうな?今時、バラエティー芸人の罰ゲームでもやらないような
〈炎の山でヒモ無しバンジーに挑戦‼〉とかいうトンでも企画を体現することになる訳だからな
重ねて聞くが本当の本当に大丈夫なのだろうな⁉」
〈お主は本当に疑り深いのう。大丈夫じゃ、先ほども言ったが高いところから飛び降りて平気なように
お主に足には特殊能力〈ショックアブソーバ〉が付加してある。
それに炎に対しても耐性を付けてあるから心配しなくとも良い
どのような炎でも十分や二十分は耐えることができるじゃろうて〉
バルドに再度安全を確認しギリギリまで近寄った後、俺はワイバーンの上で立ち上がった
そして右手の親指を立てサーラに告げた
「じゃあ行ってくるよ」
「お気をつけて……」
一瞬、疑似的な新婚気分を味わった俺は気持ちを切り替え、炎の山へとダイブした
ギリギリまで近づいたとはいえ地上まで300mはある。落下の際の風圧が全身を襲い顔が風で歪む
なにより落下の恐怖といったら今まで味わった事の無いものであった。
「こ、こえ~よ‼やるんじゃなかった‼」
時間にしたらあっという間だったのだろうが、その数秒が何時間にも感じられた程怖かったのだ
炎が燃え盛る山の頂上に俺は降り立った、落下時の衝撃によるダメージは全くなく
バルドの言っていた俺の特殊能力〈ショックアブソーバ〉が機能したようだ。
周りを見渡しても炎で真っ赤である、轟々と燃え盛る炎が容赦なく俺を炙りつける
とにかく熱い、ケバブにでもなった気分だ。いやここは焼き鳥と言った方が適切だったか?
まあケバブの方が何となくそれっぽいのでよしとしよう、正直ケバブの作り方なんか知らんけど……
そんな哲学的な事を考えながらも俺の全身には大量の汗が滴り落ちてくる
能力向上によりかなりの炎耐性があるはずなのだが熱いものは熱いのだ
サウナにでも通っておけばよかったかな?しかしこの炎の海の中ではいくらサウナーでも整うことはないだろう。
顔面から噴き出てくる汗をぬぐいながら、この山の一番高いところにたどり着くと
そこには確かにあったのだ、地面に突き刺さっている見事な剣が一本
まるで俺が来るのを待っていたかの様にそこに刺さっていたのである
その剣は青や赤の宝石がちりばめられていて何とも美しい
正に聖剣と呼ぶにふさわしい優雅で気品あふれる姿に一瞬見とれてしまう
しかしとにかく熱いのでさっさと引き抜いて帰ろうと思った
地面に突き刺さっていた聖剣は思いの他簡単に引き抜くことができた
この場面、凡人であれば引き抜くのに苦労するところだがそこは主人公補正もあるのだろう
最強チート主人公というのは異世界物では定番だからな、これが選ばれし勇者の証なのだ
決してこんなところで文字尺をとっていられないという後ろ向きかつ大人の事情的な理由ではない
俺は引き抜いた聖剣を空に向かって高く掲げ大きな声で叫んだ
「聖剣ゲット‼これで最初のクエスト達成、王女が俺の帰りを待っている、さあ帰るぜ‼」
その時、頭上から俺のこと気遣いサーラが大声で呼びかけてくれた
「シンジ様、大丈夫ですか⁉」
上空のワイバーンの上から心配そうに下を見つめているサーラ
俺は〈大丈夫〉という意味も込めて右手の親指を立てサーラにウインクした。
「ああ、大丈夫だ、聖剣は無事ゲットした、さあ帰るぜ‼」
その時、ふと何かに気が付き周りを見渡して見てみるが聖剣を手にしたというのに
炎は弱まる事もなく俺の周りでメラメラと燃え盛っていたのだ
「あれ?普通こういうのって聖剣を引き抜いたら炎が消えるとか、そういうモノだよね⁉」
俺は慌ててバルドに電話する
「もしもしバルドさん。例の山、聖剣を引き抜いても全然炎が消えないんですけど⁉」
〈別に聖剣を引き抜いたら炎が消えるなんてワシは一言も言ってないぞ〉
「じゃあ俺はどうやって帰るんだよ⁉」
するとバルドはしばらく無言のままだったが長い沈黙の後、ようやく口を開いた
(……何とか自力で帰ってきてくれ)
「自力ってなんだよ、【てるみくらぶ】かお前は⁉」
俺は怒りに任せて電話を切った。どうやらバルドの奴、来ることしか考えてなかったらしい
全くあのジジイは……しかし困ったぞ、この炎から脱出するのは至難の業だろう
そんな途方に暮れていた俺にバルドから再び電話がかかって来た。
〈シンジ君、こうなったら聖剣の力を開放してその場を乗り切るしかない
ぶっつけ本番だが何とか切り抜けてくれ、お主がいきなり焼け死んだりしたらワシも寝覚めが悪いからな〉
「テメーふざけんな‼︎自分が送り込んだ勇者が数時間で焼け死んでしまっても〈寝覚めが悪い〉だけで済ます気か⁉︎
その時はテメーの夢枕に毎晩立って悪夢を見せてやるからな‼︎」
何とも釈然としないがまあいい、こういう場面は漫画やアニメなどでもよくあるシュチュエーションだ
ここで勇者としての力と潜在能力が試されるという訳か、オーケー俺の勇者力見せてやるぜ。
俺は聖剣を手に取ると天に向かって高々と突き上げ、大声で叫んだ。
「我が名は勇者シンジ、この世界に平和と秩序をもたらす為に降臨せし者
聖剣よ我に力を貸せ、その力を開放し我と共に戦うことを誓わん‼」
カッコいい、俺カッコいいぜ、さっき道中で考えておいた甲斐があったぜ……って
あれ?何も起こらないぞ、一体どうなっているんだ?
戸惑う俺に電話口のバルドが話しかけてきた
〈お主何を言っておるのじゃ?聖剣の扱いにはちゃんとマニュアルがあって
決められた手順を踏んで使わないと力を開放することはできないぞ
それと今の中二全開の発言は何じゃ?随分と恥ずかしい言葉を並べておったが
よくもまあそんな恥ずかしいセリフを臆面もなく……〉
俺はバルドとの通話を強制的に切った、もちろんいたたまれなかったからである
炎の熱が容赦なく俺を責め立てる、いくら炎への耐性があろうとも完全に熱を遮断できるわけでは無いが
今は心の痛みの方が重傷と判断した。ジリジリと焼け付く炎が俺を苦しめる
今ならサウナ上級者とも心からわかり合えるだろう、そこに再び電話がかかって来たのである。
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