俺たちの冒険はこれからだ‼
俺の繊細でデリケートな心がポキリと折れたその時である。
全てを否定するようにサーラが大声で叫んだ。
「そんな事はありません‼」
重い空気を切り裂くかのような甲高い声が辺りに響いた
その小さな体のどこからそんな声が出るのか?と思えるほどの正に魂の叫びともいえる訴えだった
俺や魔王軍も含め民衆も全員がサーラに視線を向ける
そんな皆の視線を浴びながら、サーラは涙ながらに訴えた。
「みなさん聞いてください。シンジさんは、皆さんが思っている様な酷い人間ではありません‼
私に変な事をしたこともありませんし、王女様にもイヤラシイ言葉を使ったことも無いのです
ただ少し誤解を受けやすい、優しい人なのです、本当です‼
確かにシンジさんは少しエッチですし、少しスケベですし、少しイヤラシイですし
少しエロいですし、少し女好きですし、少し不埒者ですし、少し性欲が強いですし
少しふしだらな妄想をしますし、少し色狂いな所もありますが、基本的にはいい人なんです‼」
必死で俺を庇おうとするサーラ、その思いは絶望した俺の心をやさしく包み込む
ただ彼女は弁護士には向いていない様だ、少し、少しって……
何か余計な慣用句が一杯付いていたのは俺の気のせいかな?
塵も積もれば山となるという言葉を君にそっと送ろう
それと最後に〈少し色狂い〉って何?色に狂っている時点でどう見ても少しでは無いよね?
ただサーラの訴えはそれなりに効果があった様で周りで見ていた町の人々は困惑の表情を浮かべ明らかに戸惑っていた
やはり可愛くて小さな女の子が必死で訴えかけるのは説得力というより心に響くのであろう。
そんなざわつき始めた民衆を見て険しい表情を浮かべるスペランカー。横の部下に小声で伝える。
「あの小娘を黙らせろ」
コクリと小さく頷く手下のモンスター。俺は神様によって聴力強化〈デビルイヤー〉の能力を身に付けている為
その会話を聞き取ることができたのだ。
足早にサーラに近づく手下のモンスター、俺は慌ててサーラに告げた。
「逃げろサーラ、そいつらお前を狙っているぞ‼」
驚いて振り向くサーラだったが、その時にはもう目の前に半魚人の様なモンスターが立ち塞がっていたのだ
恐怖で硬直するサーラ。そんな事はお構いなしとばかりに
目の前にいる自分より遥かに大きなモンスターは大きく拳を振り上げた。
「止めろー‼」
俺はありったけの声で叫んだが、その声が敵に届くことは無かった
大きく振り上げたその拳は勢いよく振り下ろされサーラの頭を激しく殴りつけた
その衝撃で小柄なサーラの体は吹き飛ぶように壁に叩きつけられ
地面にばったりと倒れ動かなくなってしまった
それを見た民衆が一斉に悲鳴を上げ再びパニック状態に陥る
スパイシードックが慌ててサーラに駆け寄りその小さな体を抱き抱えて安否を確認する
「大丈夫、嬢ちゃんは気を失っているだけだ、命に別状はない‼︎」
一連の騒動に悲鳴を上げ逃げまどう民衆達、しかし俺はそんな民衆の事などもう頭から吹き飛んでいた
サーラが敵に殴られた瞬間がスローモーションのように脳裏を
駆け巡る
その時、俺は今まで感じた事の無い感情に支配された
体の奥底から込み上げて来る熱くてドス黒い感情、頭がおかしくなりそうなほどの怒り
次の瞬間、頭が真っ白になり理屈ではない感情の言葉が口から飛び出していた。
「テメーらサーラに何しやがる、ブチ殺されてーか‼」
そこからの事はあまり覚えていない、怒りと憎しみの感情に支配された俺は聖剣エロガッパを勢いよく引き抜くと
モンスターの大軍に斬りかかっていった、声も音もよく聞こえない
目の前の光景もどこか夢の中というかモヤがかかったような状態であり、ハッキリと認識していた訳ではない
俺は怒りの感情に任せ無我夢中で剣を振った、どれぐらいの時間が経ったのかもわからなかった、そんな時である。
「止めてください‼」
悲痛ともいえるその叫び声によって俺は我に返った
何が起きていたのかわからず呆然と立ちすくむ俺の背中に、力強く抱き着いてくる小さな感触
よく見ると俺の腰のあたりに抱き着いてきていたのはサーラの両手だった
小刻みに震えながら、必死で俺を引き留めようと力一杯抱き着いていたのだ。
「もういいです、もういいですから……」
後ろから抱き着きながら震える声でそう俺に告げるサーラ
その時、俺はようやく今の状況を把握した。目の前に広がる大量のモンスターの死体
鼻を突く血と臓物の嫌な臭い。俺の体も返り血で真っ赤になっていた
わずかに残ったモンスターたちは土下座しながら命乞いをしていた
その俺を見る目は明らかに怯えている、これは俺がやったのか?
その時、俺の頭の中にある言葉がフラッシュバックしてきた、それは
〈俺はまだ本気を出していない、だけどピンチになった時には全力で敵をやっつけてやるから覚悟しな‼〉
「勇者ナ・ロウの力……これがそうなのか?」
俺が呆然としている隙に魔王軍は我先にと逃げ出していた
追撃する気もない俺はその後姿を黙って見守る、周りの民衆の俺を見る目は軽蔑と嫌悪の眼差しから一変し
恐怖で怯えた目をしていた。これで俺の事を蔑むようなことは無くなるかもしれないが
こんなの俺が望んでいた展開じゃない、何とも言えない寂しい思いを感じ落ち込みかけていた時
俺は大事な事を思い出した、そうサーラの事である。
「おいサーラ、体は大丈夫なのか?あっ血が出ているじゃないか⁉」
俺は振り向きざまサーラの両肩を掴み、顔を近づけて問いかけた。
突然の質問にサーラはやや戸惑意気味であった
その小さく整った顔の額の部分が少し切れていて、そこから血がにじんでいたのだ
そんな傷を隠すかのように俺から顔を背けたサーラはややぶっきらぼうに答える。
「べ、別にこんなの大したことではありませんよ。少し切れただけですから
唾でもつけておけばすぐに治ります。少し大げさなんですよ、シンジさんは……」
俺に心配をかけないようになのか、サーラは何でもないと主張する
だがその言葉に少し腹立たしさを覚えた俺は両手でサーラの頬を掴むと強引にグイっと正面に向かせる
そして苛立ち紛れの声で叱る様に話かけた。
「馬鹿‼女の子の顔に傷が付いたんだぞ、大したことないなんて言うな‼
クソっ待っていろよ、今すぐ直してやるからな。確か上位ポーションがあったはず
こんな事ならバルドの爺さんに治癒魔法も付与してもらっておけば良かったな、チクショウ‼」
俺は情けなさで自分に腹が立ってきた、たった一人の仲間の女の子もマトモに守れない勇者とか
スペランカーの言う通り自称勇者のクソ野郎じゃねーか。
「サーラ、今回は完全に俺の失態だ、これからは絶対俺がお前を守ってやる、絶対にだ‼」
俺の言葉に何故か顔を赤らめて固まるサーラ、まだダメージが残っているのだろうか?
「はい、これからも私を守ってくださいね、シンジさん」
「ああ任せておけ‼」
その時、サーラは今まで見た中で一番いい笑顔を見せてくれた
これで頑張らない男はいないよな⁉そんな事を思いながら俺達は町を後にした。
それから数日が過ぎた、あれから魔王軍が襲ってくることもなく、見回りの為に色々な町をうろつく俺とサーラ
以前と違って俺達に対する誹謗中傷は無くなったが
俺と目が合っただけで〈ごめんなさい〉と言って逃げ去る女子供達
告白していないのにフラれる気分を存分に味わうことができる貴重な体験である。
「あ~あ、せっかく誤解も解けたし魔王軍も撃退したのだから
もう少し俺に対して尊敬とか憧れとかあっても良くね?」
思わず思ったことを口にするとサーラはため息交じりに答えてくれた。
「何言っているのですか?シンジさんの風評は全部が全部嘘偽りではないですし
勇者としてやった事いえば、先日の魔王軍虐殺ぐらいですよ
憧れとか尊敬とかの対象としてはあまりにも理想とかけ離れています
先日の戦いで王宮からは一定の評価をもらってはいますが
一般の人達に評価されるにはまだまだ道のりは遠いと思いますよ」
「魔王軍虐殺って……もう少し言い方ってものがあるんじゃね?」
俺はサーラの冷静かつ的確な評価にガックリと肩を落とす。
「まあ考えてみれば俺自身何をした訳でも無いしな、性格も考え方も特に変わっていないのに
異世界に来たからって急にモテると思っていた俺が馬鹿だったよ
でもさあ、俺だってそれなりには頑張っているんだよ⁉それなのに何だかなぁ……」
ブツブツと愚痴をこぼしながら歩く後ろでサーラが俺を諭すように語り始めた。
「シンジさんは自分の理想というか妄想だけで女の子を見ていますからね
本当にモテたいのであれば、もっと女心を学んでください」
「相変わらずサーラは手厳しいな。ただ全くの正論だからぐうの音も出ないよ
確かに俺自身、考え方や性格が歪んでいる自覚はあるんだよ
でもどう直していいのかがわからないしそもそも直す気もない
まあ冷静に考えればそんなこと言っている奴がモテるわけない
わな
あ~あ、何処かに俺を好きだって言ってくれる女の子いないのかな?」
そんな俺の言葉にクスリと笑うサーラ。
「そんな事を言っている内はダメでしょうね、ご自分で言っている通り
シンジさんを好きになってくれる女の子なんていませんよ」
「本当に容赦がないなお前は。世の中、何でも正直に言えばいいってモノじゃないんだぜ
言い伝えによれば、優しい嘘ってヤツもあるらしいからな……知らんけど。
レアアイテムや魔王討伐よりも、俺を好きになってくれる女の子を探す方が困難とか
どんなクエストだよ、全く……」
「優しい嘘ですか、そういう意味では私のは、あまり優しくないですけどね」
「ん?何か言ったか?」
「いえ別に……繰り返しになりますが、そんな事を言っている内は
シンジさんを好きになってくれる女の子なんていませんよ」
「ちぇっ、わかっているよ、何度も言うな。でも俺は諦めないぞ
俺の目標は世界平和より魔王討伐より可愛い女の子だ‼」
そんな俺の発言にサーラは軽くため息をついた。
「そんなシンジさんを好きになる女の子なんていないですよ、いるものですか……」
独り言の様に呟くサーラ、だが俺の背中を見つめる彼女の目はとても優しく温かいモノであった。
最後までご愛読いただき本当にありがとうございました。今までとは全く違う作風のオタク要素満載、下ネタ満載という作品でしたが気にっていただけたら幸いです。
頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。
次作のURLも張っておきますのでまた読んでいただけると嬉しいです、では。https://ncode.syosetu.com/n1144hu/




